第11話

「準備も整ったし、明日の朝には出発ですわ」

盗賊風の身軽な衣装を来た桜色の髪の少女に

「アリシア姫さま、やはり考え直された方が」

心配そうなメイド長の言葉に

「一週間で肉体改造・騎士式地獄のキャンプはなかなか効果がありましてよ」

アリシアは胸を撫でると

「Eカップあった胸が、ここまで縮むとは思いませんでしたわ」

「最近、魔物がまた増えているとの噂もありますし……また、魔王が復活したと騒いでいる連中も出て来ています。城におられた方が」

「お黙りなさい」

アリシアは真剣な表情をすると

「民が困っている時こそ、王族の出番なのです。決して、宴会の席でわたくしのことをゴリラと罵った男に復讐するためではありませんわ。ええ、復讐のためではありませんわ」

「そんな、二回もおっしゃらなくても……まさか、大事なことなのですか?」

「大事なことだから、二回言ったわけではありませんわ。とにかく、お父様が来たら適当にあしらってくださいませ」


♦︎♦︎♦︎


「まさか、また旅をすることになるとは」

ネロは夕闇に染る空を見上げ

「そろそろ日も暮れてきましたし、今日は近くの村で休みましょう」

「……」

顔を顰めたセルディックを見て

「不満もあるでしょうが、フォルテを出てほとんどマトモに休んでいないでしょう」

休むことも大切ですよ、とネロは続けた。


商業の町・ライラ


「前に来た時は、川の向こうの宿を利用しましたね」

行商人の往来が激しい町のため、自然と宿屋の数も多い。

「そうだったか?」

セルディックはグラスの水を口に含む。

町に西側にある落ち着いた雰囲気の宿屋。

「こちら、失礼してもよろしいかしら」

高飛車っぽい女性の声に

「さすが、勇者さん。持ってますね」

「お前目当ての女客じゃね?」

セルディックは横目を向け

「あれ?」

「ど、どうかなさいまして」

(ま、まさか、わたくしの正体に……)

視線を逸らした桜色の髪の少女に

「悪い、気のせいだ。知り合いに似てると思ったんだが」

「いやらしいですわ。ナンパというやつですわね」

ちょっと自分に酔っている少女に

「絶壁に興味はない」

「勇者さん、女性に失礼ですよ」

ネロに窘められ

「顔はともかく、せめてアリシア姫くらいあれば……」

ため息をついて、うなだれるセルディック。

(こ、この勇者……)

アリシアは米神に青筋を浮かべる。

あの魔王も同じだった。

「わたくしに、あんなことや、そんなことをするつもりですわね」

「ゴリラ族に、そんなことして楽しいわけあるか」

体裁だけでも攫われておけ、と魔王ディアボロスは深いため息をついた。

今思えば、血縁でもあるのではないかと疑いたい。

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