第10話
「……なんだこれ」
フォルテの町に帰って来たセルディックとネロが見たのは、まるで時間が止まったような空間だった。人々は電池の切れた人形のように、その場に倒れている。
宴会を開いて待っていると言っていたギルドの隊員たちーーそして
「エルミナ!」
セルディックは店で倒れていたエルミナを支え起こすが
「勇者さん、いけません。ここにいる住人は生気を抜かれています」
ネロの言葉に
「なんで、なんでだ……」
唇を噛み締めたセルディックの耳に
「フハハハハ」
耳障りな笑い声。
「お前は」
セルディックの視線の先のレオンは、不敵な笑みを浮かべ
「人間とは、脆いものだ。いい栄養になった」
「レオン?」
「勇者さん、彼の左手の紋様を」
「あれは、ディアボロスの……」
セルディックは大きく目を見開いた。
「貴様に左手を落とされた時は、なかなか堪えたが我が娘たちのおかげでこうして動けるまでになった」
レオンが両手を広げると
「主様」
「まだ、本調子ではないはずです。そろそろ、城に戻りましょう」
現れた双子に
「ルーナとヘカーテ」
セルディックは眉を寄せる。
「なんで、レオンに」
「この方は」
「お兄様に、嫉妬をしていました」
レオンに取り憑いているディアボロスは口の端を歪め
「その気持ちを、利用してやったのだ」
「ふざけるな! 今すぐ出て行け」
剣を向けたセルディックに
「この人間の左手を落とすか?」
「……」
ディアボロスは鼻をならすと
「もう、ここに用はない」
ルーナとヘカーテと共に姿を消した。
「くそっ、なんで……」
「皆さん、倒れている住人たちの看病を」
勇ましい女性の声と共に
「了解です。シスター・リリア」
「この声……」
顔を上げたセルディックに
「教科のシスターたちですね」
ネロが言った。
落ち込んでいるセルディックを見て
「暇があったら、魔王でも追ったらどうです」
役目でしょう、とリリア。
「オレは……」
「勇者を辞めるために教会を出た」
リリアは肩を竦め
「貴方が、ここに来なければ町の人たちは魔王に目をつけられず無事だったのでは?」
「……」
「少しでも、世話になった方々に悪いと思っているなら」
「……言われなくても、分かってる」
立ち上がって身を翻したセルディックに
「待ってください。僕も手伝いますよ」
ネロが後を追う。
「レオンから、魔王を引き剥がす!! そして、今度こそ勇者を辞める」
意思を新たにしたセルディックに
「結局、魔王を倒すのは職業病ですね」
「へっぽこ魔法使い、お前はいつも一言余計だ」
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