第6話

「町に魔物なんて怖いわね」

「魔王は、居なくなったってのに……」

昨日、工場に現れた魔物の影響で噂が広がっている。

「やっぱり、みんな不安そうね」

サラの言葉に

「マクシミリアンさんが、他の町や村でも増えてるって言ってたけど……セルはどう思う?」

セルディックはエルミナに視線を向け

「ただ不安定なだけだと思うが」

「すいませーん、注文をお願いします」

どこかで聞いたことのある声に

「いらっしゃいませ。ご注文は、お冷で十分だな」

「勇者さんは、僕に冷たいですよね」

背の高い黒フードの男が苦笑い。

「ひょっとして」

サラは目を輝かせると

「ネロさん!?」

「え、魔法使いの」

「あはは、どうもお久しぶりです」

黒フードを外すと、彫刻のような男の美貌に女性客たちは見惚れてしまう。

反対に、男性客は顔を顰めていた。

エルミナは肩を竦めると

「まさか、セルと同じく住む所ないとか言わないよね」

「いえいえ、僕はエリートですから」

セルディックは眉を寄せ

「いけしゃあしゃあと……だいたい、何しに来たんだ」

「まあ、話すと長くなるのですが、とりあえず特製オムライスをひとつ」

無駄にいい声だった。

「ネロさんに食べていただけるなんて」

うっとりとした表情のサラに

「お前のお姉さん、どこか悪いのか?」

「お姉ちゃんのアレは、イケメン病だから」

かっこいい人が来たらだいたいあんな感じ、とエルミナ。


「ふむ、さすが噂に聞いた通り美味です。で、何の話でしたっけ?」

「お前が、話があるって言ったんだろうが」

帰るつもりはないからな、とセルディック。

「ああ、そうでした。そうでした」

ネロは何かを思い出したかのように

「最近、魔物の様子おかしいと思いませんか」

「魔物がおかしいのは、魔王を倒した影響だろ」

セルディックの言葉に

「まあ、それもあるんですが」

とにかく外で話しましょう、とネロ。

「すいません、ちょっと外します」

「分かったわ」

サラに頭を下げ、セルディックはネロの後を追う。


「実は、ディアボロスの左手のことなんですが」

「お前ら魔法使いが封印したんだろ」

ネロは頬を掻きながら

「盗まれちゃった」

「はぁ?」

セルディックはポカン、と口をあけた。

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