第3話

「ウェイターも悪くない」

意外な才能に気づいた、というセルディックに

「とにかく、うちに居候するつもりなら働いてもらうから」

エルミナは肩を竦める。

「それで、どこまで出前に行くんだ?」

「海辺の近くにある工場までよ。海岸に咲く珍しい花の綿毛から取れる糸を生成して、布を作ってるの」

「オレが来た時には、なかったけどな」

「できたのは最近よ。セルが来たころは、魔物ばっかりで……町の人も外に目を向ける余裕がなかったというか」

町の人たちは勇者に感謝してるけど、と続け

「あまり良く思ってない人もいるのよね」

エルミナは前方で話している屈強な男たちに視線を向け

「まずい、ギルドのマクシミリアンさんだわ……」

ギルドは町村間ものから守るために発展した組織。

魔王ディアボロスの出現を予言していたように現れた、聖女ミリアムを信仰する教会とは折り合いが悪い。

おまけに、聖女の懐刀である勇者が魔王を倒してしまったものだから勇者であるセルディックにもあまり良い感情はないだろう。

「セル、余計なこと言っちゃダメよ」

エルミナに言われ

「……分かったよ」

セルディックは頷く。

「お、エルミナちゃん。出前に行くのか?」

「え、ええ、ちょっと工場の方まで」

マクシミリアンはセルディックの方に視線を向け

「どっかで、見たような」

エルミナはセルディックの前に立つと

「うちの新入りです。それじゃ、急いでますので」

「おう、そうか。がんばれよ、にいちゃん」

そう言って、バンバンとセルディックの背中を叩く。

「……内臓、飛び出るかと思った」

「本当は、ギルドの仕事の方がセルには会ってるんだろうけど」

魔王が倒れたとはいえ、統制を失った魔物は少なからず残っている。

「いやいや、オレはウェイターとして新たな自分を開拓する」

勝手に戦闘狂と決めつけるな、というセルディックに

「……何かあったの?」

「実は、勇者辞めてきたというか。新たな自分探しというか」

エルミナはため息をつくと

「前にね、お姉ちゃんと私を助けてくれた時に、この人は寂しい人だなって思ったことあった。でも、今のセル見てたら……」

「見てたら?」

エルミナは頬を赤く染め

「こ、ここで新しい自分が見つかるといいね」


白い砂浜によせては返す波。

「やっぱり、海は広いな」

目を輝せるセルディックに

「そう? 私は、見慣れちゃったかな」

「なあ、食事していいか?」

そう言って、子供のように靴を脱いで駆け出したセルディック。

「ちょっと、食事って……)

黙って海に足を浸らせているセルディックを見て

(そういえば、水しか飲んでないからおかしいと思ってたけど)

噂で聞いた話だが、高位の聖職者ともなると自然から直接マナを取り入れて食事にするらしい。

媒介にするものは、本人の好みによって左右されるようだ。

「……セルって、腐っても聖職者ね」

「そこ、腐っては余計だ」

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