第09話 覚醒と今後の方針

 理真の強い感情によって召喚された「プゥパ」が「ぴっ!」と意味不明な鳴き声を上げる。


 「プゥパ」はマリアの全術式管制担当召喚獣だ。

 それが今の理真の感情によって召喚されたという事は、その目的は明白である。


 ――宗一郎の発言を止めること。


 小学舎時代の黒歴史を想い人に知られたくないという理由で、この世の者ならざる存在を呼びだすというのもどうかと思うが、どうあれこれでこの実証実験は成功である。


 社に噛みついた――文字通りの意味とは伝わりにくいだろうが、本当に左手に噛みついたのだ――理真が、マリアの能力の一端なりとて行使できるという事実。

 それこそが社が物心ついたころから見続けている「明晰夢」――「黒の王ブレドとその仲間たち」の物語が、少なくともただの夢ではないという証左だ。


 トップアイドルである「RIO」――綾乃の転入でもその説得力は充分と言えなくもないが、それは「黒の王ブレドとその仲間たち」の物語を知る者の間でだけだ。

 他者に対しては証明しようもない、記憶による符牒という脆弱なものでもある。


 だがこれで、誰が見てもそうと認めざるを得ない「現象」を伴っての証明となった。


 とはいえ誰にでも見せていいものでもない。

 いや逆に隠し通さねばならないレベルで、とんでもない状況に陥ったといった方が正しいだろう。


 ――今はそれどころではないのだが。


 マリアは召喚術を最も得意としているが、他の魔法を使えないという訳ではない。

 それどころか召喚術が突出しているだけで、そこらの国家魔法遣い以上に全属性の魔法を使いこなすこともできる。

 いま「プゥパ」が当たり前のように起動している「魔法陣」は、敵対する「魔法遣い」の詠唱を不可能にするための「沈黙サイレント」の魔法だ。


 そう高位の魔法でもなく、高レベル魔法遣いであれば無効化もできる程度の「魔法」である。

 だが優れているとはいえ常識世界の一高校生である宗一郎には、躱すことも無効化する事も出来ようはずがない。


「――やめなさい!」


 この世界に己を呼び出した主である理真の慌てた声に「プゥパ」はその小躯を振るわせる。

 だが「沈黙サイレント」は低位魔法なだけに起動も速く、起動停止キャンセルが間に合わない。

 

 成立した「沈黙サイレント」が宗一郎に直撃し、その声を奪う。

 攻撃魔法で無かった事が不幸中の幸いと言える。


「ごめん、三条君!」


 悪意はないとはいえ、明らかにこの世の者ではない「魔法」を幼馴染に問答無用で喰らわせたことに理真が大慌てだ。

 

 ――宗一郎も悪いよなあ。


 などと思いつつ小学舎四年生の時に何があったのやら、後で宗一郎には聞かねばならぬと決意する社である。


 負の波動を感じたのか、半目で社に一瞥をくれる理真だが、今はそれどころではない。


 おそらくこの世界で最初に魔法を喰らったであろう、宗一郎を何とかしなければならない。


 また今この場に居る四人は失念しているが、今の出来事はサードアイ・コネクタに記録されている。

 プライバシーは厳守されているという建前だが、犯罪などが起った場合は過去に遡ってサードアイ・コネクタに記録された映像を洗われるのはもはや常識だ。


 このまま宗一郎の声が戻らなければ、そうなるだろう。


「――――。――――――」


 ――だいじょうぶだよ、きにしないで。


 読唇からそう読めるが、宗一郎の声は全く聞こえない。

 本人も反射的に声を出そうとして、ぎょっとした表情をしている。


「――――」


 ――まいったなあ……


 苦笑いでそう言う宗一郎だが、完璧に声は聞こえてこない。


 心配性であり、自分がやったことでもある理真はおろおろしているが、「魔法」についてこの中で最も知識を持っている社はそう慌てていなかった。


 「沈黙サイレント」はダメージを与える魔法ではないし、永続性もない。

 継続時間もせいぜい一時間にも満たないものだ。


 まあ戦場で「魔法遣い」が一時間も「魔法」を封じられればどうなるか、言うまでもないことではある。

 高位術者の使用する「沈黙サイレント」は、文字通り「魔法遣い殺し」としてヘクセンヴァール世界では恐れられていたが、現代日本においては小一時間不便だなあくらいの代物である。


「まあ一時間くらいだよ、宗一郎。余計な事を言おうとしたことを反省して、しばらく「言わ猿」になってろよ」


 けたけたと笑う社に、少々気分を害した視線を向けて宗一郎がぼやく。


「――――」


 ――やしろくんもつづきききたいくせに。


「いや、それはそうだけどさ」


 半目で言われる宗一郎の言葉に思わず答える社に、今度は理真が半目を向ける。


「――聞いちゃだめよ。わかった?」


「ハイ、ワカリマシタ」


 何で声が聞こえないのに会話が成立しているんだろう、と綾乃は不思議そうだ。

 

 「続きを聞きたい」と思った社の意志に反応したわけではなかろうが、今度は宗一郎の右手が漆黒の焔を噴き上げる。


 社はもちろん、幾度も「黒の王ブレドとその仲間たち」の話を聞いている宗一郎と理真、ブレドの側室リオとして、ジンの強さを何度も聞いたことがある綾乃も知っている現象だ。


 黒の王の双璧の一方、剣士ジンを象徴するともいえる一振りの剣。


 「矛盾の黒剣」が鞘を持たず、常は異空間に収められているというのはヘクセンヴァール世界では有名な話だ。

 それをジンが抜くとき、その右手に漆黒の焔が吹き上がるといことも。


 宗一郎の右手に社が己の夢で見た通りの、宗一郎と理真にとっては社の説明を宗一郎が絵に描いて、幾度も想像していた通りの「矛盾の黒剣」が握られている。

 見たことのなかった綾乃にしても、その剣が普通ではないという事が伝わってくるような一振り。


 普通の人間が持てば発狂するといわれるとびっきりの呪物だったはずだが、見たところ声の無い宗一郎は平気そうだ。


 驚いてはいる様だが、ジンの愛剣である「矛盾の黒剣」を宝物でも見るみたいに宗一郎が眺めている。


 そのままふいと青眼に構える。


 見た目の無骨さとは違い、ほとんど重さの感じられない「矛盾の黒剣それ」を、まるで扱い慣れた竹刀のように左手で柄尻を強めに握り、右手は添えるだけのようにしてすいと振りかぶり、ゆっくりと振り下ろす。


 一足一刀というには緩やかな動きだが、全中で優勝する剣道男子の素振りだ、様にはなっている。


 ――キィン――


 「矛盾の黒剣」が振り下ろされると同時に、薄い硝子が砕け散るような音がする。

 理真が、というよりも「プゥパ」がかけた「沈黙サイレンス」の魔法が砕かれた音だ。


 ――「矛盾の黒剣」に切れぬもの無し。

 

 社が夢で見たとおり、何でもない事のように「魔法」を切り裂く「魔剣」

 もはやこの生徒指導室は、厨二病患者の夢が具現化した空間である。


「――凄いですね。社君に聞いていた通りです」


 「沈黙サイレンス」を砕いた証拠とばかりに、宗一郎のつぶやきが普通に聴こえる。


 ――いや、話に聞いていただけで、魔剣で魔法を砕くなんてことをさらっとすんなよ。


 社としては言いたい事もあるのだが、ここは我慢した。

 話が前を向いて進まないからだ。


「よかった……」


 宗一郎の声が戻った事に、理真が安堵している。

 万が一でも声があのまま戻らなかったらどうしようと心配していたのだろう。

 あきらかにほっとした様子だ。


 そうなるとこの場に存在する、存在するはずのないものに意識が集中するのは道理である。


 召喚獣「プゥパ」

 禁忌呪物「矛盾の黒剣」


 男どもは男の子らしく「魔剣かっけえ!」と盛り上がるし、女性陣はしゅんとしている「プゥパ」を「可愛い!」と触りだす。


 この辺は財閥の御曹司であろうが、大政治家の御令嬢であろうが、現在大人気のトップアイドルだろうが変わらないらしい。


 意外と庶民である自分が一番落ち着いているという事実が、社は少し面白かった。


 ――いやこれは、俺が「明晰夢」で見慣れているからかな。


 こっちの世界で、宗一郎が「矛盾の黒剣」を興味深げに眺めたり構えたり、理真が召喚獣「プゥパ」を肩に乗せてはしゃいでいる様子は当然初めて見る光景だし、驚きや興奮もある。


 だがそれは子供の頃から見慣れているものであるのも確かだ。

 宗一郎と理真が、シンとマリアそっくりだから「明晰夢」を見ているような感覚になる。


 宗一郎や理真にしてみれば、楽しんではいたけれど本当にあるとはさすがに信じていなかった、ヘクセンヴァール世界での己の分身を象徴するものがそれぞれの手の中にあるのだ。


 ――興奮するなという方が無理だよな。


 それも魔剣と小さな召喚獣。

 ファンタジー世界のお約束とも言えるものを目の前にしては……

 オタクじゃなくても盛り上がるものらしい。


 社はオタクでもあり、見慣れてもいるが故に落ち着いていられるものか。


「消えちゃった……」


 主の御機嫌が戻った事に気をよくしたのか、元気よくふわふわしていた「プゥパ」が掻き消すように消える。

 それと時をほぼ同じくして、生徒指導室の隅で型をやっていた宗一郎の手からも「矛盾の黒剣」が同じようにかき消える。


 どうやら制限時間なるものが存在するらしい。


「10分というところですか、社君の汗を舐めた程度であれば」


 確かに宗一郎が社の右掌を舐めてから、それ位だ。


 体液のによって効果時間だの引っ張り出せる力だのが変わるのかは実証実験を続けるしかあるまいが、それには女性陣が持ちそうにない。


 その証拠に今の宗一郎の発言だけでも、理真も綾乃も顔を赤らめている。

 まあ体液と言われれば、もちろん汗以外にものでやむなしと言ったところか。


「まあ女性陣が耐えられそうにないので、今日の所はこのあたりでやめた方が無難ですかね。予想以上というか、とんでもない事実が明確にはなった訳ですし」


 とりあえずはしゃいでしまっているが、これは相当に大事でもあるのだ。


 言った通りでしょう、という微妙なドヤ顔している綾乃は可愛いが、諸条件があるとはいえ宗一郎も理真も現代における「超常能力者」のようなものだ。


 宗一郎と理真ももちろん知っている、「ジンの剣技」や「マリアの召喚獣」をすべて使えるというのであれば、この世界に生きる人の身を遥かに超えた力だ。


 使いどころもさして存在しない。


 使いようによっては一国の軍隊とも喧嘩できる能力など、持て余すことになるのは自明でもある。


 それを使って戦う敵など居ないのだ。


 ――あくまで、今のところ、ではあるのだが。


「いや宗一郎と理真が厨二病の憧れ、「超常能力者」になったのは判ったけど、俺は? このままだと俺、燃料タンクっぽいんだけど。――全裸になった方がいい?」


「何故全裸?」


 非オタパターン青である宗一郎と理真、綾乃には今のネタは通じなかったようで、三人とも首をかしげている。

 「全裸」という単語にだけ食いついて、理真と綾乃が赤面したのは正直どうかと思う。


「最大の力を持っているブレド様――社君が……ある意味覚醒するのはどうすればいいのでしょうね?」


 宗一郎が腕を組んで考える。


 「召喚獣プゥパ」ではしゃぐ女性陣二人を横目に、社は己の記憶にあるブレドが使用していた魔法を使おうと何度も試みたが、何一つ発動しなかった。

 したらしたで校舎が吹っ飛ぶようなのばかりだったので、しなくてよかったともいえるのだが。


 ――自分の体液で発動するくらいなら、常時発動してるよな。


 つまり「ブレド」の力を開放するには、「ジン」や「マリア」とはまた違った鍵が必要なのだろう。

 リオである綾乃もそれを知らず、ジンとマリアの能力封印すら知らなかった社に、今の時点でそれを明確にする手段はない。


 実験を重ねるしかないわけだ。


「仲間の体液摂取って訳じゃないだろうしなあ……」


 それでは摂取する対象が多すぎる。


 多段階に封印を施し、それを順次解除していくという仕組みもあり得るが、ブレドの力を封印できるのはブレド本人くらいだろう。

 それにブレドより弱い存在の体液を触媒とするとは考えにくい。


 また別の仕組みがあると考えた方が現実的だ。


 それに――


「宗一郎の汗舐めるのはぞっとしないしなあ」


 社が正直すぎる意見を述べる。

 まあ確かに男の汗を舐めるというのは少々ぞっとしないのは確かだろう。


 女の子ならいいのかという話だが……いいんじゃなかろうか。


「実際に社君のを舐めている僕を、もうちょっと気遣ってくれてもいい気はしますが」


「いや、結果発動したんだからいいじゃないか宗一郎は。俺の場合、宗一郎の汗舐めて発動しなかったら丸損だろ」


 ぞっとしないと親友に言われることを、己がやっていることに対する気遣いが無いことを宗一郎が指摘する。

 それに対して社は実益があるからいいじゃないかという答えを返した。


 ある意味それはもっともなのだが……


「僕もそのリスクを背負ったんですけどね……」


 確かに最初に宗一郎が社の掌を舐めた時点では、社曰く丸損になる可能性もあったのだ。

 ぞっとしない、ということを理由に社がそれをやらないというのは少々間尺に合わない。


 もっとも宗一郎は、口で言うほどそんなことを気にしている訳はないのだが。


「わ、私ので実験してみる?」


「……私も参加希望します」


 その会話を聞いていた、理真と、綾乃がおずおずといったふうに立候補する。

 年頃の女の子が、異性に自分の体液を摂取されるというのは大事だと思うのだが、立候補するというのはいかがなものか。


「へえ……理真は自分の体液なら、もし発動しなくても社君が丸損じゃないって思っているんだね」


 自分にはぞっとすると言い放った社が、理真と綾乃の発言には赤面したのが気にくわないとい訳ではないのだろうが、宗一郎が常にない意地悪な言い回しをする。


「――え? や、その……」


 どう言い訳したところで、本質的には宗一郎の言うとおりだという事を理解しいている理真が言葉に詰まる。


 ――舐めて欲しいのかな私。社に……


 それは綾乃も一緒なのだと思うと、「負けられない」というちょっと方向を間違った感情が胸中に確かに生まれる。


 結構長いこと疎遠にしていたのが急接近したせいで、距離感やバランス感覚がおかしくなっているのかもしれない。

 さっきの「体液摂取」もさることながら、今までそんな影さえもなかった社に、とびっきりの異性が現れたことが大きいのだという事は、聡い理真は理解している。


 対抗意識で色に走る抵抗感や悔しさがあるので認めたくないのではあるが、相手が現役アイドルという超弩級である以上は遠慮している場合ではないのかもしれないと思ったり思わなかったり別に厭じゃないしね?


 一気にいろいろありすぎて、少々混乱気味なのだ。

 そう言う部分で躊躇いなさそうな綾乃が、また大変な重圧プレッシャーでもある。


 ――社だって、男の子なんだよね……


 理真が思うほど社の「男の子」が暴走している訳ではないが、そういう認識でいることは悪いことではないだろう、と理真の心理をほぼ正確に掌握している宗一郎は思う。


 ――独占欲でも出せば社君は喜ぶでしょうに、そういうのをみっともないと思っていますからね、理真は。


 宗一郎はハーレムとかいうものが、いまいちピンとこない。

 好きな相手はたった一人で、選別の残酷さがあるからこそ相思相愛は尊いんじゃないかと思っている。


 社がありだというなら、ありでいいとも思っているが。

 

 ――ブレド様はハーレムなんてものじゃなかったからな……


 だからこそマリアは、その中に入らない事でブレド様の特別であり続けたような気もしている宗一郎である。


 こっちでは結ばれるというのであれば、気合入れて独占して欲しいものだとも思う。

 ブレド様であればともかく、社君なら喜んで独占されてくれそうですしね、と宗一郎は少し笑った。


「丸損て言うより、丸儲けかな? 社君」


 その社にも、意地悪な質問を投げかける。

 思ったよりも「ぞっとしない」という発言に引っかかりを得ていたようだ。


「……宗一郎の汗舐めるのぞっとしないって言ったことは撤回するから、勘弁してくれませんか」


 永い付き合いだ、社は宗一郎がサディスティックになっている原因を正確に理解している。

 女性陣二人の態度に赤面しながらも、まいったという顔で降伏宣言をしてきた。


「おや、はやい降参ですね」


「俺より理真と春日部さんがキッツイだろ! セクハラおやじか宗一郎」


 とはいえ、自分と喧嘩――というほどでもないが――になった際、社の方から折れるというのは実は珍しい。

 大概宗一郎が根負け、というより結局さっさと仲直りしたくて折れるのがほとんどだ。


 今回は女性陣に遠慮をした結果の、戦略的撤退らしい。


「これは少々悪乗りし過ぎたかな。ごめんね理真、春日部さん」


 社が降伏したというのであれば、これ以上大人気ないからかいをするつもりもない。

 宗一郎も素直に先の発言を謝罪した。


「いえ……」


 真っ赤になってぶんむくれている理真はそっぽを向いたが、綾乃は消え入るような声で謝罪を受け入れてくれた。


「まあやってみる価値が無いとは言わないので、こっそりやってみてくれてもいいですよ。ただそれを横で見ているのはさすがにバカバカしいので、僕のいないところでしてくださいね」


 すでに真っ赤になっている二人に、日頃なら絶対にしない追撃を入れる宗一郎。


「宗一郎!」


「ごめんごめん」


 さすがに怒りをあらわにする社に、全面撤退する。

 今のは追撃のふりをした、理真への援護射撃だ。


 ――僕がそう言っておけば、機会があればできるでしょう?


 今日の理真を見ていれば、言質を与えておけば必ずする。

 そう確信している宗一郎である。




 今この時点でこの世界に溢れだした「黒の王ブレドとその仲間たち」に明確な敵はいない。


 この世界の国家や軍隊に、この力で喧嘩売る様な事をするつもりもない。


 それどころかこの力を使って、日常生活を有利にする様な事もしないという点に関しては、宗一郎も理真もあっさり同意した。

 力の解放の鍵となる社の言葉に従ったという訳ではなく、あくまでも二人にとっては「黒の王ブレドとその仲間たち」の物語が、社の妄想でなかったと実証されただけでとりあえず満足だったのだ。


 利益を得るという事ではなく、宗一郎は「矛盾の黒剣」に、理真は「召喚獣プゥパ」に強く惹かれてはいるようだが。


 その一連の決め事をしている間に、綾乃――リオの力である歌と踊りにバフ・デバフの効果があることを確認して、社は興奮していた。


 バフ・デバフと言われても、社以外の三人は再び首を傾げたわけであるが。


 社の体液を摂取した状態の「RIO」の歌や踊りには、聴くもの、見るものの体調を回復させたり能力をブーストしたり、魅了に近い状態に置くことが判明したのだ。


 またも可能だった。


「間違ってもライブとかで発動しちゃダメですね」


 と、当の本人の綾乃は青くなっていたが。


 トップアイドル「RIO」のライブ会場から超人が溢れだしたりした日には大騒ぎなんてものじゃない。

 サッカーの国歌斉唱などに選ばれて、その試合が○林サッカーみたいになってもただではすむまい。


 トップアイドルとして多くの人の目に晒される立場であるだけに、社に関わる能力の管理にはより一層の注意が必要だという結論に至った。


 だがそれを踏まえても万が一に備えるために、社は自分の血を宗一郎、理真、綾乃が持ち歩くことを提案した。


 天災を初めとした事故というものがこの世には存在する。

 それを何とかできる力を本来持ちながら、準備をしていなかったために取り返しのつかないことになるのを社が恐れたのだ。


 その点はお互いを信用し、滅多な事では使わないという約束の元に、後日各々の容器を持ってきてそこへ社の血を入れておくこととなった。


 後日三人が持ってきた「いれもの」の大層さに、社はひっくり返りそうになるのであるが。


 「黒の王ブレドとその仲間たち」の物語が本当であることは立証された。


 だからどうという事は四人ともなく、これからいろんな実証を重ねて少しだけ非日常になった日常を送って行くつもりであったのだ。


 大財閥の御曹司、大政治家一族の御令嬢、現役トップアイドル、庶民という歪な四人組カルテットではあるものの、非日常部分を司る中心は社であり、ある意味対等に高校生活を満喫できるんじゃないかと期待もした。


 少なくともこの時点では。


 だがそれは数日後、あっさりと破綻することになる。


 社に言わせれば「お約束」――そう言った事だろう。



 があらわれたのだ。

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