21 「その人が野原風花だよ」
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幸一は新幹線の自由席に腰を掛け、それほど揺れることの無い車内で流れ行く景色を眺めはせず、資料や地図に目を通していた。
なぜ新幹線に乗っているかと言うと、旅行が目的では無く、野原風花と伊吹まどかとの打ち合わせのために東京へと出向いている最中だった。幸一の自費で。
少ない予算、声優の起用代で既にカツカツの状況であり出張費用が捻出できなかった為である。
その為、電話での打ち合わせでも良かったのだが、幸一たっての希望で直接会うことを望んだのであった。その代わり、仕事がある平日では無く、休日に行くはめになってしまった。
だが本音としては、妹の声にそっくりの伊吹まどかに会えることが楽しみだった。
そういう個人的な私情を挟むため、自費で東京に行く事に不満は無かったのであった。
数時間後……東京駅に着いた。
駅の地下には、銀の鈴広場と呼ばれる広大な空間がある。
待ち合わせする場所として利用されており、そこにはその名称の通りに巨大な銀の鈴のモニュメントが設置されていた。
幸一はそれをまじまじと眺め、
「えっと、ここで良いんだよな。待ち合わせの場所……」
待ち人を待っていた。
幸一は東京に来るのは初めてでは無い。修学旅行や大学の時の卒業旅行などで三回ほど来たことがある。その度に人の多さに絶句してしまい、
「本当、毎日が祭りだな……」
地方民のよくある感想を抱いてしまう。
人が多い東京だからこそ、分かり易い待ち合わせ場所があるのだと考えた。銀の鈴広場みたいに、ここまで広大な待ち合わせ場所があるのも頷ける。
そうこうしていると、携帯電話が鳴り響く。
相手は、志郎からである。
『おう。今何処にいるんだ?』
「言われた通りに、銀の鈴広場に着ているけど……」
『もう着ているのか。オレも今……おっ、居た居た!』
一方的に通話が切れると、二人の男性が幸一の元へと近寄ってくる。その一人は見知った顔……伊東志郎であった。
「よう、久しぶり!」
志郎は片手を上げると、幸一と気さくに挨拶を交わす。
「久しぶりだな。それで、そっちの人は?」
幸一は志郎の隣に居た、眼鏡を掛けた華奢な男性に視線を移す。すると「ああ」と応答した志郎が、その男性の名前を告げた。
「その人が野原風花だよ」
「えっ!?」
幸一の驚きは、野原の名前からして今まで女性だと思っていたからである。それが男性だったのだ。
「どうも初めまして、野原風花です」
野原は幸一の振る舞いに慣ているようで、特段気にすることはなく平然と挨拶をしたのであった。
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