16 「擬人化? 擬人化ってなんです、平岡さん?」

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 後日、幸一たちは町興しの業務時間にて、観光課の隅にある簡易会議室で各自がプリントアウトしたキャラクターイラストの紙を机の上に広げて閲覧していた。

 まずはイラストレーター選びである。


「うわー、一杯ありますね」


 机の上は色とりどりのキャラクターたちに溢れ、壮観だった。

 薫は紙を両手で取り、流し見ている。

 幸一の分はあの後、志郎からお勧めのイラストレーター十人ほどの名前とサイトのURLがメールで送られてきた。そのサイトからイラストを保存して、印刷してきたのである。


「この中から選ぶ訳ですね」


「まずはね。選んだ人の中から、依頼メールを出すけれど、仕事を引き受けてくれるかは別問題だけどね」


「どの人が良いですかね?」


「まずは各自で良いと思っている人を選ぶという感じかな。飯島さんは、どの人の絵柄が好み?」


「そうですね。やっぱり私は、この種島はるみ先生ですね。知ってますか? 拝啓、千歳様という漫画の作者なんです?」


「ご、ごめん。そっち系はからっきしなんだ」


「え~、そうなんですか。面白いですから、今度漫画を持ってきましょうか?」


「はは……機会があればね。平岡さんはどうですか?」


 黙々とイラストを見ている博史に声をかける。


「う、うん……どれも良いと思うけど……。この絵描きさん達は、高野くんが見つけたの?」


「ええ。まぁ、大体は知り合いから教えて貰ったものですけどね」


「な、なるほどね……。名前はあまり知らないけど、う、上手い人ばかりだね」


「ああ。知り合いが言うには、セミプロみたいな感じだって」


 幸一が印刷したイラストを眺めながら、薫は感心しつつ声を漏らす。


「プロ未満ってヤツですか!? だけど、本当に上手いですよね。これなんて、何のキャラクターなんだろう?」


「それは、レジェンド・プリンセスというゲームの主人公のティアラ姫だよ。まぁ。日本人の画力レベルは上がっているからね。こういった絵が上手い人が人知れずにゾロゾロいるよ」


 突然、饒舌に語った平岡に思わず視線を向ける。


「く、詳しいんですね、平岡さん?」


「あ、いや、そ、そんなことはないよ……。」


 いつも以上にそっぽを向く平岡。その事に関して深く入り込まない方が良いのかなと幸一は感じ取り、先に進めることにした。


「さてと、それじゃ候補となるイラストレーターさんを決めようか」


「はーい。私的には種島先生を……あ、このイラスト、すっごく可愛い!」


 幸一と平岡は、薫が手に取った紙に覗き込む。その絵は、可愛らしい女の子の頭の上に猫の耳が生えている絵だった。


「確かに可愛い絵だけど、なんで猫の耳……が?」


「い、いわゆる擬人化というものだよ」


「擬人化? 擬人化ってなんです、平岡さん?」


「猫とか動物を、こんな風に人間風にデザインすることだよ」


「へぇ~。詳しいんですね、流石平岡さん」


「た、たまたま、だよ……」


「へぇー」


 薫はジトーとした目線を平岡に向けた。そして幸一は、薫が手に持つイラストを横から覗き込んだ。


「擬人化ね……。このイラストを描いた人は……野原風花さんか」


 幸一達は、オリジナルキャラクターを描いて貰うイラストレーターを五人選び、早速その人達に連絡を取ることにした。


 五人中、返事が返ってきたのは四人。その内、二人は断りの連絡だった。残念ながら、薫ご推薦の種島先生がその内の一人だったため、薫の肩の落としようは凄まじかった。


 そして残りの二人は、一度話しを伺いたいとのことだった。一人は平岡が推薦したイラストレーターの夕顔涼と、そしてもう一人は志郎がお勧めしてくれた十人の一人である野原風花だった。


 イラストレーターの候補が決まれば、次はキャラクターのモチーフ決めだ。


 幸一たちは今まで発刊された伊河市の観光パンフレットを机に広げては、薫は伊河市の名物や観光名所をノートに書き込みつつ、隣にいる幸一に話し込んでいた。


「伊河市と言えば、温泉ですけど……。温泉をモチーフにしたキャラクターって、描けるもんなんですか?」


「自分の知り合いが言うには、どんなものでもキャラクターイラストにすることが出来るらしいみたいだけど。プロのイラストデザイナーは」


「そうなんですか。すごいですね」


「とりあえず、モチーフの候補となる伊河市の名物と観光名所を洗い出して置いてよ」


「はーい。えっと、温泉の他には、伊河タワー、アクアパレス、高咲山と……」


 伊河市の周りには観光施設などは取り揃えている。その中の一つ伊河タワーは、あの東京タワーのデザインをした建設者の弟子が建てたタワーの一つであり、アクアパレスは県内でも二番目に開館した水族館としての歴史がある。そして、高咲山には野生のニホンザルが多数生息している日本有数の猿山でもある。


 その高咲山というワードに 幸一の頭の中に雷光の如く閃きが奔り、薫たちに提案した。


「そうだ。猿なんてどうだろうか?」


「猿? ああ、猿ですか。それは良いですね。猿だったら、なんとなくイラストのイメージが沸きますね」


「で、でも、ありきたりじゃないかな? 今の観光グッズにだって、猿の絵柄を使ったものはあるし……」


 平岡の意見に、「あ、そうか……」と肩を落とす幸一。


「で、でも、その猿の擬人化みたいなキャラクターだったら、あ、有りじゃないかな?」


「擬人化って、さっき言っていた……動物を人間みたいなデザインすることですよね?」


「う、うん。どうかな?」


 幸一と薫は、キャラクターのイメージは、ゆるキャラと呼ばれるマスコットキャラクター的なものをイメージしていた。だけど、平岡がイメージしたのは萌えキャラクターと呼ばれるものだった。


「んー。ちょっとそれはイメージが湧かないですけど、とりあえずモチーフは猿として、後はイラストレーターさん任せにしてはどうですか? 猿というのは、やっぱりイイと思いますし」


 薫の意見に押される感じで、とりあえずモチーフは猿に決定した。

 イラストレーターとモチーフは無難に決まりそうだったが、稲尾から出された課題の注目度を補う対処案や活用できるコンテンツ案については、まだ手つかずだった。


「あとは注目度を補うアイディアか……。どうしよう……」


 幸一は頭を抱える。

 こんな風に困った時は――

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