10 『これだから災害対策の意識が低いとか言われるんだよ、公務員は!』

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 幸一は自らの予告通りに晩飯の後に、伊東志郎へと電話をかけ直した。今度は三コール目で繋がった。


「あ、伊東。 起きているか?」


『おう、久しぶりだな。どうした、高野。お前からかけてくるなんて珍しい……というより、初めてのことじゃないか?』


 声のトーンに張りがあり、先ほどの電話した時よりも元気になっていることが解る。


「ああ、ちょっとな。実は……」


 今回の件の事情を説明する幸一。


『……なるほどね。今、伊河でそんなことをしているのか。てか、それを高野が考えるとはな。確かに、そんな風なイベントが有っても良いよな』


「それでアドバイスが欲しくて、伊東に電話した訳なんだが……。マンガとかアニメのキャラクターの使用許可は簡単に取れたり出来るのか?」


『確かに、今放映されているとか人気のアニメやマンガ作品とコラボレーション出来たら、話題にはなるよな。ただ、権利関係がごちゃごちゃし過ぎているし、使用許可はそんなに簡単には降りないぜ」


「やっぱり、そうか……。それでも許可を取るんなら、どうすれば良いんだ?」


『そうだな。駄目元で出版社に問い合わせた方が良いだろうな。そこから担当者に話しをつけて貰う感じだな。恐らく営業部とか宣伝部とかに回されると思うが……』


「ふ~ん。出版社でも色んな部署があるんだな。まるで役所みたいだな……」


『そうなのか? まぁ、組織がでかくなれば、そういった所が必要になってくる訳だな』


「それで、許可とかは取れると思うか?」


『う~ん……やってみないと解らないことではあるが……。まぁ、タライ回しか門前払いされるのが目に見えているわな』


「そう、だよな……。伊東のコネでなんとかならないか?」


『おいおい、馬鹿と無茶を言うな。こっちはただのしがない制作進行の契約社員だぞ。そんなコネなんてねぇーよ』


 アニメ関係の仕事をしているからと、頼りにしていたアテが外れてしまった。


『だけど、高野が調べた通りに、アニメとかのキャラクターを使った町興しや観光イベントの前例はいくらでもあるからな。そんなに不可能では無いと思うが……。そういや、その町興しは、そんなにビッグプロジェクトなのか?』


「まだ企画書に書いている最中だよ」


『それでも市長からは、ヤレっ! みたいなことは言われたんだろう?』


「そうだけど……。ただ、その市長からは、出来る限り現実的に可能であるものにしてくれとは言われたよ」


『現実的に……か。なるほどな。結構やり手だな、ウチらの市長は』


「なんでだ?」


『マンガやアニメとかのキャラクターが使えれば、確かにそれで良いんだが。前にも言ったけど、こういった版権ものの利用ってのは、そう簡単には取れないからな。失敗……許可が取れないというのを前提に考えているな』


「ああ。確かに、そんな事を言っていたな」


『つまり、代案とかも考えていた方が良いってことだよな』


「代案?」


『使用許可が取れなかった時のな』


「ま、まだ使用許可とかの連絡も取っていないのにか?」


『現実的に考えて、有名所のマンガとかのキャラクターの使用許可が取れる可能性が低いんだから。そのぐらいの対策は取っておけよ。これだから災害対策の意識が低いとか言われるんだよ、公務員は!』


 志郎は、何か恨みがあるかのように声を荒らげた。


「そ、それは関係無いだろう! しかし、確かにその考えも一理あるよな。なぁ、もし使用許可が駄目だったら、どうしたらいいと思う?」


『そうだな。マンガやアニメのキャラクターを使うのが駄目だったら……。ああ、オリジナルキャラクターでも良いんじゃないのか?』


「オリジナル?」


『例えば、有名な絵師……イラストデザイナーに伊河市をモデルにしたマスコットキャラとかを描いて貰うんだよ』


「マスコットキャラクターか……。そういえば、そういうのはよく見るよな。ひこにゃんとか、そういったの」


『ん~。オレがイメージしたのは、ちょっち違うが、まぁそんな感じだな。アニメとかのキャラクターが使えなかったら、有名な絵師にオリジナルキャラクターを描いて貰うのもアリだな。むしろ、そっちの方が融通は利くし、現実的に可能性は高いわな』


「融通、というと?」


『例えば、そのキャラクターを使った商品を出す場合だよ。例えばキーホルダーとか。アニメのキャラクターとかの版権は出版社が持っているから、こちら(市)が勝手にキーホルダーとか作って売ることは出来ないんだよ。

 だけど、伊河市自らのオリジナルキャラクターなら契約次第だけど、キーホルダーを作って売ることも出来る。つまり、グッズとかの販売の展開が考えられるだろう。言うならば、伊河市のオリジナルキャラクターが観光資源になる、というもあり得るということだよ』


「な、なるほどな……」


――ピィピー――


 突然、携帯電話機から高い電子音が鳴り響いた。この音は、携帯電話機の電池が切れ始めていることを報せる警告音だった。


 気が付けば、長く話し込んでいたために既に日付が変わっていた。長電話し過ぎたと思い、幸一はここらで切り上げようとした。


「とりあえず、アニメなどのキャラクターの使用許可は、まずは出版社とかに連絡すればいいんだな。で、代案の方も進めておくと良い。ということか」


『ああ。駄目元で連絡をしてみな。まず、そこからだな。で、ダメな可能性が高いから、オリジナルキャラとか、それに代わるものも考えておけよ』


「解った。それじゃ今日はもう遅いから、今日はここまでにしとくよ。ありがとうな」


『な~に、別に構わんよ。それに、こっち側の人間としては、幸一みたいな役所勤めの連中がこういう事をしてくれるのは大歓迎だよ』


「そ、そうか。そう言って貰えると嬉しいよ。それじゃ、また何か有ったら電話するわ」


『ああ、遠慮無く相談してくれ。それじゃーな』


 別れの言葉を告げると、タイミング良く幸一の携帯電話の電池が切れた。自分にしては長電話したことで少し電話代が気になったが、仕方ないと納得しつつ充電器へと携帯電話をセットした。


 先ほどの志郎の意見を参考にしつつ、企画書をまとめてみる事にした。またしても幸一の睡眠時間が減ることになったが、ノートパソコンの電源を入れたのだった。

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