◆第八章
*タイミング
「もう一つ」
動揺を隠しきれないスーザンに左の人差し指を立てて続ける。まだ何かあるのかと彼女は眉を寄せごくりと生唾を呑み込んだ。
「ローランドも仲間だな」
女はビクリと体を強ばらせ、ベリルを凝視する。
「えっ!? まじで!?」
事実だと知らしめる彼女の表情にダグラスも目を丸くした。ベリルの洞察力には相変わらず頭が下がる。
「どうしてそうだと」
スーザンは空恐ろしくなり、詰まる喉から絞り出すように問いかけた。彼に渡したデータは「ローランド・H・セルテス」としてのデータだ。不備はない。
「タイミングが良すぎる。ただ殺しをしないというだけでは私が彼を殺さない理由には成り得ない」
ローランドが接触してきた時期とスーザンが訊ねてきたいま、まるで計ったようにあまりにもタイミングが良すぎた。
そして、ローランドはベリルの特徴を知りすぎていた。よほど詳細なデータを見て研究しつくしたのだろう、それが返って仇になった。
徹底した傾向と対策を練ったことでベリルに違和感と疑念を抱かせてしまい、多くの思考を広げさせることとなりこの結論にたどり着いた。
CIAが人道的な組織ではない事は知っている。警察やFBIとは異なり諜報活動はもちろんのこと、国家の利益のためには時として殺人も
国内外を問わず常に情報収集をしているCIAにとって、国益を損なうものであると判断しての行動なのだろう。
しかし、その件でフリーの傭兵であるベリルに協力を仰ぐのには他にも魂胆があるとしか思えない。以前からCIAはベリルに関するデータを欲しがっているからだ。
ベリルという存在を煙たく感じつつも、その巧みな戦術や飛び抜けた戦闘力にはいちもくを置いている。
敵にするには少々、厄介だが味方にするにも油断ならない。しかれど取り込めるのなら取り込みたい。CIAにとって、そういった距離にベリルはいるのだろう。
当然、ベリルとしてもCIAを信用するほど馬鹿じゃない。かといって彼らが持ち込む全てを拒否するほどひねくれてもいない。
互いの思惑はさておき、内容如何によって協力要請に応じる事が最優先だ。冷静に判断しなければ、己がなんのためにこの世界にいるのかを見失う。
重要なのは救えるものがあるかどうか。それを重視しなくてはならない。
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