◆第六章

*クラスメイト

 ──次の日の放課後

「なにしょげてんの?」

 帰り際、ダグラスは校内の芝生の端っこで一人しゃがみ込んでうずくまっている背中を見つけて声をかけた。後ろ姿でクラスメイトのハリーだと思い声をかけたのだが、ちらりと振り向いた顔は複雑な色を表していた。

「君には解らないよ」

 ハリーはダグラスだと確認すると軽く睨みつけて言い投げた。

 ひょろりとした体型でスポーツも得意とはいえず、大人しい性格でどこか存在感の薄いハリーはクラスでもやはり目立たない。

 薄汚れたセピア色の髪はボサボサで、そばかすがチャームポイントと言えるほど頬に浮き出ていた。麻色の瞳に力は無い。

「そういうの偏見っていうんだぞ~」

 ダグラスは笑いながらハリーの隣に寝ころんだ。ハリーはそれに少し驚いて顔を向けたが、すぐに目を反らす。

「いいからほっといてよ」

 今まで大して会話らしい会話なんかした事もないクラスメイトに話すことなんてないと言わんばかりに冷たくあしらう。

 ダグラスは明るくクラスでも人気者だ。いつも誰かが常に近くにいるし、女子からはよく告白されている。

 そんな相手に自分から声をかけられるはずがなく、ハリーはいつも遠くから羨ましさや妬みの入り交じった感情でダグラスを眺めていた。

 声をかけてくれたのは嬉しく思う反面、ただの興味本位ではないかと勘ぐりもしている。

「家でなんかあった?」

 図星らしい、睨まれた。吊り上がった目に殴りかかってくるのかと思いきや、プイと両膝を抱えて縮こまる。

「大人なんて嫌いだ。みんな自分勝手で」

 今にもこぼれそうな涙をこらえ、詰まる声を震えながら絞り出す。

「それは僕たちもだろ」

 振り絞った言葉もあっけなく返されてまた目を合わせる。丸い赤茶色の瞳が可愛くて、男であるにもかかわらず一瞬ドキリとした。

 しかしハリーは、その瞳の奥にある強い光にたじろいで視線を外す。どうせ不幸知らずの軽い奴だと思っていたのに、見知らぬ強さが垣間見えて何も言えなくなった。

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