第12話
「「「「「「「「「「うぉぉらぁぁッ! 紫電コノヤロウ俺たちもやってやらぁぁぁぁぁぁぁああああああああああッッッッ!!」」」」」」」」」」
凄いびびった。
ビリビリする。空気が震えている? 何それやばい。というか怖い。誰だよ俺の名を呼ぶ奴はぁ! とでも叫ぼうとして、でもやっぱりやめて口を噤みながらその声の方に振り返ると、そこに居たのは。
「あ────っ! 新人潰しの穀潰しに、言い訳レベルカンスト済みのへらへら冒険者じゃん! え! なんで? ──いやマジでなんで!?」
「新人潰しの穀潰しってなんだゴルァァァ!」
「「「「「「「「最初の方何言ってるかわかんねぇけど、貶されてるって事だけは確かだな!!」」」」」」」」
黒ずくめが硬直してこっちを呆然と眺めている。ビオ、ミスト、
「いやだから、何で、ここに来た?」
「「「「「「「「んなもん!
「…………は?」
「「「「「「「「俺たちは、臆病なんかじゃねぇって! ここで! 今! すぐに! 証明してやる! ナウ!! アァユゥゥオォゥケェェイィッ!?」」」」」」」」
その直後、唖然として固まっていた黒ずくめの束がぶっ飛んだ。そう、束で、だ。多分二十人くらいの黒ずくめが空を舞ってる。
そうか、魔法か。よく見れば、言い訳レベルカンスト済みな冒険者の中には魔法使いらしき姿を見える。風の魔法か。暴風を下から打ち上げたのか。
てかなんでそんなに息ぴったりなんだよ、それになにその英語。
「俺の場合はぁぁ!」
それからすぐ、黒ずくめが冒険者を敵とみなし敵意を露わにしているのに、それをガン無視して新人潰しの穀潰しは叫ぶ。よく見ると、数人の黒ずくめが疾走して新人潰しの穀潰しに迫る。
そう言えば今更だけど、新人潰しの……ってこれは長いから新人潰しでいいか。新人潰しの顔面が何事も無い。あれおかしいなぁ。全力で蹴り上げた筈なんだけど。魔法かな? 魔法だな。
「
新人潰し改め、ダンは語尾を咆哮のようにした。五月蝿いな。でもそれは気合いを入れ直すためだったのかね。
それに、恐らくはだけど、意図せずにその咆哮は別の効果も発揮してしまったらしい。実際、少し離れた位置で僕はその咆哮を聞いたわけだけど、二十メートルは離れているのに、さっきの空気が震える音量よりも、凄かった。というか、空気がより震える咆哮とでもいうのかな。
音量で震えさせるというより、何か別のもので震えさせてるような。
それは、ダンの近くで聞いていたものを強制的に硬直させた。そう、数人の黒ずくめだ。まぁ、冒険者も含めてだけど。
そして、その硬直した黒ずくめに、ダンは重い、それはもう特大に重い一撃を食らわせた。
「
ダンは、一体どんな鍛え方をしたのか筋肉が恐ろしい程ある。その剛腕をフルに活かす武器を軽々しく使っている。それは、大剣だが、それにしては大きすぎる。いや、大きすぎるというか、もう、あれは、なんていうんだろう。鉄を繋げられるだけ繋げたような、あーもうデカ過ぎるしか出てこねぇ。あれ、刀身が一メートルはあるな。いや、もっと長い。二メートルにまではいかないと思うけど、一メートルと少しでもない。間をとって一メートル五十センチぐらいかな。
もうあれは、斬るためではなく叩くための武器だって事はちゃんと理解してる。多分、あの大剣の重心は手元近くに無いだろうなっていうのはよくわかる。重心は手元近く、十センチから三十……まではいかないんだっけ、二十五センチぐらいか? それぐらいの位置にないと、重すぎて使い辛い。なのにあの大剣は、多分手元から五十センチぐらい離れてるかも。
……ズン、と。衝撃みたいなものが僕のとこまで来た。
黒ずくめは、多分隣の隣……ぐらいの広い道までぶっ飛んでいった気がする。屋根とか通り越しちゃってるよ。
あれ? もしかして、ダンって相当な手練れ?
マキも、黒ずくめも、その光景を唖然として見ていた。
「紫電」
「…………何? ダン……さん?」
「ダンでいい。お前ら、急いでいるんだろ?」
「え、あ、うん」
「道は、俺らが作る」
誰も話さない静寂の中、淡々と会話が進む。そして、目標が決まった瞬間、ダンの表情が一気に変わったのを見逃さない。いやダンだけじゃない、冒険者も、全員だ。
あ。こいつら、マジだ。理解した。本気の本気の本気だ。
ここは引き受けるって、言ってるんだ。
ちんたらしてる場合じゃない。
「マキ! 城に向かって疾走しながらバッサバッサ斬りまくれ! ビオ、ミスト、
マキは咄嗟に切り替えて、走り出す。向かうは城だ。
ビオ、ミストはすぐマキに続いた。
聡樹を奪い取り、おんぶしてやる。
「ごめんダン! 護衛を──」
そう言おうとして、言う必要がないことに気づいた。気付けば、僕達の近くには十人近い冒険者がいた。いや、二十人近くいるな。うん。流石冒険者だぜ。
「──
「「「おっ、おう!」」」
戦闘は、もう始まってる。開始されてる。黒ずくめの意表を突かないと、無駄になる! フレンズは走り、直ぐにビオとミストに追いついた。
よく見ると、前方のマキと一緒にダンも敵を葬ってる。言い方悪いけど、別に殺してはいないからね。ぶっ叩いて、ぶっ叩いて、隙ができるとすかさずスイッチ。マキと入れ替わる。そしてすぐにまた前に出てぶっ叩く。
凄い。黒ずくめの供給よりも早く倒せてる!
イケる!
黒ずくめの壁をぶっ壊しながら、走る、走る、走る。黒ずくめは多い。確かに多いけど、マキとダンが凄すぎる。まるで空気を切り裂くように、黒ずくめの壁を切り裂き、突き進んでいく……!
何秒たった? たぶん、五秒も経ってない。たったそれだけの時間で、さっきまでは出来なかったことが出来てしまった。こんなに簡単に通り抜けられるとは思わなんだ。
「なぁあんた! そこっ、そこの冒険者!」
「えっ!? は、はい!?」
直ぐ隣を走る冒険者に声を掛ける。見た目はひょろひょろな気はするけど、走り方からして相当な手練れだし、多分見た目よりも筋肉質だ。……と思う。多分。恐らく。
「聡樹……てか、こいつ持ってくれね? 俺が護衛に回る」
護衛の冒険者に聡樹を押し付けて、僕は護衛に加わる。走る速度を落として、“
……あんな状態じゃ、“
三人の黒ずくめにクリティカルヒット! 黒ずくめは気絶した! ……みたいな? 取り敢えず三人はぶっ倒した。
実は、この三回だけでも戦況は変わる。別に、黒ずくめをどうにかしようとして石を投げた訳じゃない。ただ、相手に「遠距離攻撃もあるぞ」と言ってやっただけだ。それだけで、結構変わるものだよ?
ほら。
黒ずくめは遠距離攻撃にも怯えなきゃいけない。その所為で、目の前の戦いに集中しきれていない。
目に見えて、戦況は変わっていった。冒険者が押し始める。
折角だから、あと少し。また手頃な石を投げる。二人気絶。
よし。そういう事でさいならー。
なんて言えねぇ。実際、こっちまで追撃してくる奴もいる。屋根の上を疾走する黒ずくめが数人。……十五人。
こっちにはマキとか、ダンとかの手練れはいるけど、それでもやっぱりというか、遠距離攻撃は持ってないらしい。屋根を走る黒ずくめに攻めあぐねている。でも、地面を走る黒ずくめなら簡単に倒せる。だとしたら、僕は屋根の十五人を狙うか。
少し走る速度を落として……というか、もう止まって。
大体十メートルぐらい距離があいたら、走り始める。
助走を付けながら、相手を確認。右側の屋根に六人、左側の屋根に九人。よし決めた。右側。
助走途中で体を回転。“
右側の一人には、必殺石ころ投げ。左手で投擲して、当たらない。ありゃ。まぁでも、いっか。よくないけど。もう一回やるか。
爪先で石を弾く。その石を左手に掴み、今回は少し違う。左側に向けて跳躍しながら、投げる。当たった。右側は制圧? でいいのかな。そして同時に、左側の屋根に着地。うっほぉ、無防備な黒ずくめちゃんの背後で“
「!?」
黒ずくめの一人に気付かれた。でも、
背後からの攻撃は見事に命中。左側も制圧完了。
少し走ってから、屋根から飛び降りて、冒険者達のさらに後ろに着地する。
「ふぅ、あとは、城に行くだけか……な?」
なんだか、妙に疲れたような疲れてないような。……あの襲撃から生き延びられたんだから、当然か。
唐突に戦いが終わると、助かってよかったってなるよりも早く、あら、もう終わりなのかってなる。不思議だ。僕ってバトルジャンキーだったっけ?
そうじゃない……って言い切れ、ない、な……。
そんなくだらない事を考えていると。
城で、二回目の爆発が起こった。
最前列を走るマキの表情が、あからさまに歪んだ。そりゃあ、そうだよな。あそこには、知り合いもいるだろうし。
──遅いよ。
──二回も爆発が起こったんなら、
──みんな死んでるよ。
くっそ。うるせぇ。無駄な事は考えるな。僕。
考えるな。考えるな。考えるな────って。無理か。
ちっくしょう。
どうする? 早めに行ったほうがいいか? でも、もしさっきみたいな黒ずくめの大群が来たらどうする? あぁぁああぁぁあ! 決まらん分からんどうすればいいっ!
どうすれば、
「あっ、見つけた!」
「……んっ!?」
と、その時。何かが横から飛びついてきた。
…………ん!? 敵!?
焦って下を見下ろすと、そこに居たのは。
「あの時! 私を助けてくださいましたよね!?」
獣人の女の子が居ました。白に近いグレイの髪の毛。その中に、ぴょこんと二つの
獣人の女の子は、ドヤァみたいな顔で石ころをつきだし、て、来……
「……あっ、あの馬車に轢かれそうだった?」
「そうそうそう! そうです! あの時の女の子です!」
あー。昼食食べてる時につい助けたあの子ね。あー。うんうん。
「……なんで僕だって分かった?」
「石ころに匂いが付いてましたよ?」
「なにそれこわい」
「えっへん獣人を舐めないでくださいっ!」
……そうかー。獣人って鼻がいいのか。投げた石ころに付いた匂いで特定するとか、すげぇ。って、今はそれどころじゃないでござりんす!
「って、今は忙しいんだ! これ終わったら、なんでもするから、ごめん!」
実際、もうビオ達とか僕の事ガン無視して走って行っちゃったからね!? 一切の躊躇なく僕を見捨てたからね!? いや、これは冗談で、ただ単に時間がないからだろうけど。それに、二回目の爆発の所為もあるだろうなぁ。
「えっ、まっ、待って……」
獣人の女の子ごめんなさい。これが終わったら探すから……。冒険者っぽいから、ギルドいけば多分すぐ情報摑めるでしょ。
僕はごめんと謝りながら、ビオ達を結構全力で追い掛ける。景色が流れる。ビオ達は結構離れてたと思ったけど、ものの数秒で追い付いてしまっ、
「待ってくださいよぅ!」
「え──────っ!? ナンデ!?」
とゅわっ!? えっ、おいっ……追い付いてっ、来た……の? おかしいなぁ。
「えへへ、自慢じゃないですが、私結構足速いですよ?」
「……おう」
もう、何も言い返せなかった。こりゃ逃げられないなって悟った。
「……今は、黒ずくめの野郎共から逃げてるんだ。ここにいるのは、危険だぞ?」
「逆に、私だって冒険者の一人ですよ? 自分の身ぐらい守ってみせます!」
馬車に轢かれかけていたくせに一体何を言っているのかなこの子は。なんて口には出さないで、心の中にしまっておく。
もう諦めて一緒に逃げることにした。なんで付いてくるのこの子。
「……名前」
「ん?」
「あなたの名前は?」
「……紫電。東 紫電」
「ん。私はレナ……紫電さん、迷っていないで、最善だと思った事を、やるべきだと、思うな」
「……へ?」
……? えっと、なんの話?
「紫電さん、今何か、迷ってるでしょ? 私、獣人だから匂いに敏感で、今紫電さんからは迷いの匂いがする。今は、迷っている暇なんかないと思うな」
迷いの匂い? ……って、なに?
でも、もしかしなくても、何かに迷っていると言うことは勘付かれてる。でも、なんでその話を今するのかね。
「……私がいますから、紫電さんは先に行ってください」
「……ほんと、なんなの。読心術でも持ってるの?」
「持ってませんよ! でも、迷いとか、不安とかには敏感です! ……それと、これは恩返しです。私を助けてくれた、恩返しです。受け取ってください」
……偶々僕を見つけて、偶々何かに迷っている事に気付いたから、その為に協力してくれるって……。まぁ、ありがたいっちゃありがたいけど、どうしてそこまでしてくれる? ほぼ、初見も同然なのにっていうか、初見なのに。
どうして──
「お互い様です! 私が
──この子……レナは、こんなに、優しいんだ?
にひひと、無邪気な笑顔を、見せた。
……いや……優しいとか、そういうのは、今は置いておこう。
実際、レナの言う通りだ。迷ってる暇なんか、今はないんだ。レナの、この謎の優しさも、今は関係ない。
「レナの、言葉に甘えてみるよ」
「はい!」
「まだ、本当に信じるべきかは、分かんないけど、それでも、信じてみるよ……って、そんな簡単に信じられる訳ないだろーっ」
「ふにゃっ!?」
レナの額にべっちーんと掌を当てる。そして。
“思考色彩変化”
思考を色に変えて、判断する能力。白なら嘘は無く、黒なら嘘しかない。赤があれば興奮気味、青があれば冷静。とか、そんな感じ。
──真っ白で、そこに赤が少しあった。ピンクも少し。
全部真実を語っていて、嘘は一つもない。ついでに、少し興奮気味。あと、誰かに好意を抱いている。誰になのかは分かんないけど。
…………あは。あはは。
「レナ。信じるよ。ここ、よろしく」
「にゃぁ……? はっ、はいにゃ!」
はいにゃ……って、なんだよ。……多分、僕の顔は笑顔だったと思う。自分ではよく分かんないけど、多分笑顔だった筈。レナがぽかーんとしてた。
それからすぐ、僕は走る速度を上げて、最前列まで行く。途中、ビオの頭を叩いて、「ちょっくら先に行ってる」と言った。ビオは、「いってらっしゃい」と言ってくれた。
そして、マキとダンと並ぶ。
「ちょっくら、先に行ってるわ。うん」
「え、紫電?」
「なんだ、抜け駆けか?」
「ま。そんなもんだ。実際、この調子で走っていくと城に着くまで時間がかかるだろ? だから、僕が先行して早めに着くって戦法」
ダンは、「そう来たかぁ」と呟き、マキは少し下を向いた。そして。
「紫電」
マキは、何かを任せるように、真っ直ぐに僕の目を見た。
「先に行って、一人でも多く──助けて」
「了解した」
多分、マキは城で何か大変なことが起こっている事を理解している。それも、人命が関わるような事だと。
実際、あの爆発はそう思わせるには十分過ぎるものだったし。
きっと、この中で今すぐにでも城に戻りたいのは、マキだ。
でも、その役を、任せてくれた。
普通に、嬉しいじゃん。任せられるって。
「お先に」
僕は“
そして。
思いっきり。
全力で。
全開で。
疾走する。
魔力とか、そんな感じのやつを全部足に込めて、脚力を強化する。一歩毎に、地面が大きく抉れて、小さなクレーターができるぐらいには。
走れ、走れ、走れ。速く、速く、速く、走れ。
流れる景色は、まるで電車に乗ってる気分にすらなる。
一歩毎に、速くなる。
どんどん、速くなる。
止まることは、考えない。どうやって着地するのとか、その他諸々のことなんて今は関係ない。ただひたすらに、どれだけ速く走れるかが問題だ。
いや、走っているだけじゃ、駄目だ。
城の周りには、結構高い城壁がある。それを飛び越えなきゃ駄目だ。
どうする? 愚問。空を走ればいいじゃん。
いち、にの、さーんで、思いっきりジャンプしよう。よし決ーめた。
いち──にの────さぁぁぁぁぁぁぁッ……んッ!!
バギバギと、地面がより大きく抉れる。いや、もうこれは抉れるとかそういうレベルじゃない。地面には煉瓦があったりするんだけど、そこを陥没させたりはせずに。
周囲の煉瓦を宙に浮かせる。
それほどの勢いで、右足を地面に打ち付ける。
そして、ぐわんと、僕の体は宙を舞った。
鳥になった気分だ。
空気抵抗が大きすぎて、台風の中の、暴風に耐えながら飛んでいる気分だ。でも、いくら暴風でも、止まるわけにはいかない。
空気を踏み締める。
そして。
空気を蹴るッ!
また速度が上がる。すかさず、また空気を蹴る。蹴って、蹴って、蹴りまくる。その度に速度と空気抵抗がバンバン上がっていく。
すごい離れていたと思っていた城の壁まで、僅か十秒足らずで到着する。
あ。スピード落とせない。
という事で、城壁の上の方に足をぶつけて、そこで速度を落とす。ぶつけて、というか、足の裏を置いて、今までの運動エネルギーを打ち消す勢いで、逆向きに踏み込む。
成功。
城壁が少しというか結構ぶっ壊れたけど、まぁいいか。
そうして、僕は例の爆発の現場に到着した。まぁ、城だね。
崩れ掛けている城壁から、俯瞰する。
一瞬だけ、その光景を見た事を後悔した。
地獄絵図かと、思った。
ミラ……姫様は、倒れてる。腹部が真っ赤だ。死んで……は、ないようだかど。多分、気絶してるのか、ほとんど動かない。
鎧を着た、騎士。五十と八人。一人除いて全員倒れてる。それも、姫様よりも酷い状態でだ。数人は、死んでる、かも、しれない。
そして、元クラスメイトこと、勇者。──あれ? 全員生きてる。傷もない。……違う、生かされてる。というか、遊ばれてる。恐怖を与えて、遊んでいるのか。最悪だなくそったれ。
今戦えてるのは……騎士の一人。でも、鎧はボロボロだし、ていうか、なんで戦えてるのか不思議なぐらいの傷だ。……しかも、結構おっさん。
敵は……あれ、誰? 鎧を着てるようだけど、それも含めて真っ黒。赤い血管。謎の棘。背中から羽。……魔人か。
…………。
…………なんで既にここに魔人がいるんだよ。いや、予想できなかったわけではないけど、それでも早すぎない? ミストの報告だと、近くに潜んでいるって報告だったけど。
てか、三人も。なんでこんなに。
──気付いたら、僕は駆け出していた。反射的に、だ。
魔人の一人が駆け出し、最後の一人の騎士が今にも殺られそうになっていた──からではなく、その一人を庇うようにして立ちはだかった、顔見知りの所為だ。
彩。
園山、彩。
あんた何やってんだよ。……なんで、死のうとしてるんだよ。
ほんと、さぁ。
目の前で顔見知りが死ぬのは、見たくないよ?
僕はさ、見たくないよ?
崩れる外壁はまだ宙を舞っている。
まだ、僕の存在にも気付いていない。……と思う。
そんな中、外壁の破片を追い越して、外壁を走る。
さっきまでの加速とは違う。重力加速度が味方だとかそういうのじゃなく。
ただ単純に、本気出そうかなって思って。
めっちゃ、苛ついたから。
外壁を崩落させる勢いで、踏み締める。
気付けば僕は、魔人と彩の中間に着地している。
地面に、ゆっくりとヒビが入る。
──不思議だ。時間がゆっくり動いてるみたいだ。
地面のヒビを横目に、魔人へ一撃喰らわせようと決めた。
それからは、早かった。
身体中の筋肉を弛緩させて、力を分散させる。
それから直ぐ、僕は武器を取り出す。
今使える一番強い武器は何だっけ? あぁ、黒刀か。そんな答えが出てきた頃には、既に黒刀を振っている。
肉を断ち切る感触──は、しなかった。硬い。甲殻で身体中を覆っているみたいだ。
でも、それでも黒刀を振り抜く。断ち切る事は出来なかったけど、吹き飛ばす事は出来た。
時間が元通りに動き出す。地面に勢いよくヒビが入り、そこから砂煙が爆発的に上がる。そう言えば後ろには彩さんがいるんだっけな。黒刀を振り回し、砂煙を払う。
魔人は、ぶっ飛んでいった。ここから二百メートルぐらい離れた外壁に衝突した。結構強くぶっ飛ばせたなって思う。
それから少しして、後ろから声が聞こえた。顔だけ振り向いて答える。
「しっ、紫電!?」
「やっほー、彩さーん。えーと、昨日ぶり?」
「えっ、あ、の、えと……ど、どう、して?」
どうして……って、言われましても。
「いや、なんか魔人いるから、来た……感じ?」
ぽかーんとする彩さん。まぁ当然ですわな。
と、そのさらに後ろ……まぁ、生き残り騎士から今度は話しかけられる。あのぉ、こんなに話してる暇ない気が……する。ぶっ飛ばした魔人もなんか起き上がってるし。
「紫電……聞きたい事は一つだ。──お前は、あの魔人を封殺出来るか? 殺すのではなく、封殺だ」
封殺。殺さずに取り押さえろってか。三人同時に? 騎士が全員殺られるような相手を?
ははは。
「楽勝ですわ」
あっけからんと答えてやった。まぁ、本当かどうかなんて分からないけど。強さがどれ程のものなのか分からんし。
でもまぁ、切り札あるしなんとかなるだろ。楽観的だよなぁ、僕の思考。よく生きてこれたもんだよ。こんな思考で。僕がそう言うんだから、間違ってはないでしょ。でも、実際生きてるんだからこの生き方も間違ってないのかな。
いやどう考えても間違ってるけど。
「……すまない」
騎士は、しょぼーんと効果音でもなりそうなぐらいに俯いた。何の「すまない」なのかはよく分かんない。
直ぐに僕は前を振り返る。ぶっ飛ばした魔人以外の二人の魔人は、微動だにしていなかった。ぶっ飛ばした奴は、こちらを忌々しそうに見ていた。多分、あいつがリーダー格かな。
直後、リーダー格は右手を上げ、振り下ろす。
残りの二人が、襲いかかってくる。やっぱ、あいつかリーダー格か。
もう、あの感覚はないか。時間がゆっくりになったような、あの感覚は。
しょうがない。
黒刀を仕舞い、というか、解除の方がいいのかな。“
黒槍。見た目は十文字槍だ。
魔人がくる。結構速い。
二人──魔人Bと魔人Cとでも名付けてやろう。
魔人Bは腰に下げていた剣を抜き放つ。それは魔人Cも同じだ。先に襲いかかって来たのは魔人B。僕から見て左上から右下に落ちる袈裟斬り。冷静に、槍で防ぐ。それを受け流し、同時に槍を振るう。あ、逃げた。空振り。
その隙を狙って魔人Cがくる。突き。体を反らして避ける。その直後槍を大きく振り回すと、直ぐに後退していった。
冷静なのは相手も同じか?
てか、あの動き。魔人は相当な手練れだ。素人とは違う。
直ぐ後ろに彩さんがいると戦いにくい事この上ない。それに手練れなら更に、だ。前に出る。疾走。狙うは魔人B。その時、僕は不意に視線を魔人Cに向ける。
手練れとはつまり、先読みが得意だと僕は考える。先を読む。一番ベターなのは、視線を見る事。視線は結構正直で、勝手に次の行動をその目の動きとして映してしまう。してしまったりする。それを読むのが得意なのが手練れなら、わざと視線を動かして仕舞えばいい。
それに、視線の先を見てしまうのは当然の事だ。
魔人Bを狙うと見せかけて、魔人Cを狙う──と見せかけての! 魔人B狙い!
ビンゴ! 魔人Bは僕の視線に釣られて、魔人Cに視線を移す。
一瞬が命取りなこの戦闘で、視線をずらしてしまうと言うのはつまり。
負けを意味する。
一気に加速し、魔人Bの背後に移動する。魔人Bが異変に気付き視線を移動させても、そこには既に僕はいない。
黒槍の石突きで魔人Bの右足首を砕き、更にそこから黒槍を使った足払い。倒れ込む魔人Bのうなじに一撃を叩き込──
「うぉっぶね!?」
──めなかった。予想外の速度で迫る魔人Cの高速の突きが迫る。黒槍の石突きを地面に突き刺し、黒槍を使って後退する。
魔人Cもそれを予想していたのか、追ってこなかった。
そして、魔人Cは魔人Bを心配するように一瞬視線を動かす。
今度はこっちの番だコラ。
チャンスは逃さない。魔人Cに向かって疾走。走る途中でちょっぴり仕込みをしてから、突き。当たった。魔人Cの右肩に深く入り込む。
そしてそこからの……必殺。ストライクランス! と言っても、ただ思いっきり黒槍を投擲するだけ。注意するのは、刺さった状態そのままで無理矢理投擲するというところ。魔人Cは堪えきれず、ぶっ飛ぶ。数秒間空を舞って、外壁に衝突。更に、仕込み発動。
“
黒槍の突き刺さった部分を中心に鎖が飛び出し、身体中に絡みつく。棘付きだから、もがけばもがくほど食い込む。
一人目。
さて二人目は、と思うと視界から消えてた。反射的に黒刀を取り出しながら、上半身を下げる。直後、上半身があった場所を剣が通り過ぎた。撫で斬りでもしようとしていたような一撃だ。当たってたら簡単に上半身がオサラバだったなこりゃ。
しゃがみながら、背後にいる魔人Bに向かって足払い。
魔人Bはやっぱりというか片足立ちだった。転ばせるのは容易い。と思ったら、魔人Bは飛び上がった。ジャンプか。
でもそれは悪手。十メートルくらい跳んでるようだけど、そんなの意味ない。
互角なんだから、僕もそれぐらい跳べるとは考えなかったのか?
僕も同じように跳躍して──黒刀の鞘尻で叩き落とす。僕が地面に着地すると同時に、すかさず“
二人目。
僕が二人目を拘束後、十秒ぐらいじっとしてからゆったりと立ち上がると、背後から歓声が上がった。
直後。
別に、油断していた訳じゃないんだけど。
魔人Aの強襲を受けた。
それは蹴りだった。
でも、動きは魔人B、魔人Cよりも数倍近く速い。鋭さも威力も、
完全に油断してた。
僕は吹き飛んだ。クラスメイトの居る方に向けて。
一瞬、意識が飛びかけた。
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