本の女神メーティス・決着編

「せっかくの出番でしたのに……」


 敗北したフェミルが、とぼとぼと下がった。


「中々いい質問だったよ……。

 フフフ……」


 メーティスは不敵に笑う。


「次は……誰だい?」

(とててててて。)


 幼女のマリンが、三(*´ワ`)ノ□ な感じで駆け寄った。

 本は三冊ほどあった。


(101匹の子豚vs1匹のおおかみ~おおかみに明日はない~)

(七人の忍者 vs1匹のおおかみ~おおかみに明日はない~)

(サイボーグ赤ずきんvs1匹のおおかみ~おおかみに明日はない~)


 どれも中身が気になった。

 おおかみに明日がなさすぎる。


「読んでほしいのかい……?」

(こくっ。)

「では……。一冊だけ……」


 もはや問題でもなんでもないが、マリンは満足したようだった。

 ほわん(*´ワ`*)と笑顔になっている。


「フフフフ、話は終わったぜなっ?!」

「……はい」

「それではアタシの、アルティメット問題を行くぜな!」

「アルティメット……?」

「この三〇〇ページもある、世界創世記・七大天使編からだぜな!」

「はい……」

「この三〇〇ページもある世界創世記・七大天使編――――何文字あるぜな?」

「……?!」

「質問の通りだぜなー! この三〇〇ページもあるややこしい本の文字数が、いったい何文字あるか言えばいいんだぜなー!」


 すさまじい問題に、ローラが当然の疑問をはさんだ。


「ちょっと待ってリンディスちゃん! あなたは答えを知ってるの?!」


「知らないぜなっ!」


 即答だった。

 だがリンディスは、一切悪びれずに言った。


「だからアタシは、これからゆ~~~~~っくりと数えるぜなー♪

 メーティスは、砂時計が落ちるまでに答えないといけない。

 でもアタシには、制限時間が用意されていない。

 つまりはそういうことだぜなっ!」


 かなりエグい、非人道的な回答。

 が――。


「なんて卑怯なの! すばらしいわ!!」


 ローラはとても感動していた。

 やっぱりコイツは邪神っぽい。


「もっと褒めるといいんだぜな!」


 リンディスはほくそ笑む。くぷぷと笑い、小声で言った。


(そもそも真面目に数えなくても、テキトーにふにゃふにゃ文字でしたーとか言えばいいんだぜな!

 相手だってわかんないんだから問題ないぜな!)


 すさまじい悪知恵であった。

『相手が正解を知らないのであれば、問題を出す側が正解を知らなくても一向に構わない』

 倫理的には問題以外の何物もないが、バトル的にはバーフェクトだ。

 (形式上は)ローラの信者だけあって、オレもかなり邪神寄りだ。

 しかし――。


「どうしたんですか? ケーマさん、難しい顔して」

「かなりエグい質問で、勝てるだろうとは思ってる。

 でもだからこそ、負けた時のことを考えておかないと、負けた時の精神的ダメージがデカくなるなぁ、と」

「え、縁起でもないこと言うのはやめるぜなー!」


 リンディスはそう言うが、考えておくべきことは考えておくべきだ。

 そしてオレの不安を肯定するかのように、メーティスは薄く笑った。


「世界創世記・七大天使編――――その文字数は……。

 16万8265文字…………」

「ぜなっ?!」

「疑うのでしたら……。『数えて』みればよろしいですよ……?」

「ぜなあぁ……」


 リンディスは、半泣きで数え始めた。


「ちなみに……。第一章の文字数は6208文字……。

 一ページ目は、561文字……。

 二ページ目は、605文字……」


 リンディスは、しばらく数えてから言った。


「一ページと二ページ目。第一章の文字数もあっている……ぜなぁ」

「よい質問でしたが……。甘かったですね……。

 わたしには……。

 この世界の『外』の本も含めた……。

 10億8362万冊の知識があります……」


(とててててて。) 三(*´ワ`)ノ□

 空気とかよくわからないマリンが絵本をメーティスのところに持っていき、読んでもらって満足した。

 オレは言う。


「世界の『外』の本も、問題にしていいんだよな?」

「はい……。

 しかし答えをハズレと言うなら、ハズレであることを証明できることは条件です……。

 でないと……水掛け論になりますので……」

「大丈夫。そういうところでゴネたりはしない」


 オレはうなずき、メーティスに言った。


「ドスケベノンストップ~巨乳を揉む手が止まらない~から問題だ」


「ドスケベ…………………………は?」

「ドスケベノンストップ~巨乳を揉む手が止まらない~」


「いえ……。

 あの……。

 それは……」


「エロ本がダメ――なんてルールは聞いていないが?」

「確かに……。

 そうですが……」


「ドスケベノンストップ~巨乳を揉む手が止まらない~の最後を飾るクライマックス・エロシーンの八〇〇文字を答えろ」


「いえ……。あの……。その……」

「フンッ、どうした。答えられないわけはあるまい?」

「そっそっそっ、それは……それは……。

 はわわわ…………」

「ほらほらどうしたぁ? 早くしないと、制限時間が尽きてしまうぞぉ?」

「ケーマさん……それはちょっとひどいです……」

「ハッキリ言ってドン引きだぜな!」

「聞いてはいかんぞ、マリン殿! これは、絶対、聞いてはいかんぞ?!」


 フェミルやリンディスがドン引いて、ロロナがマリンの耳をふさいだ。


「すごいわ……!

 これはもう、冒涜的な邪知暴虐ね……!

 ウサギを相手に、マシンガンと手榴弾と核ミサイルを一五〇発用意するかのような……!」


 それをローラが褒めてくる。

 やはり邪神なだけはある。

 メーティスは、真っ赤になりつつ声を振り絞った。


「ら、ら、らめえぇ……。

 ち、ち、ちく……。ちく……。ちく……」

「おいおい、聞こえないぞ? もっとハッキリ! 大きな声で!」


「ら、らめえぇ!

 ちくびは、ちくびは、らめなにょおぉ!」


「いいぞいいぞぉ! オマエのドスケベを解放しろおぉ!

『ちくび』をどんな風にされたら、『らめぇ』なんだぁ?!」

「ちくびを、ちくびを…………」


 メーティスは口ごもった。

 声を出せずぷるぷると震え、頭を抱えてうずくなる。


「許して……。

 くださあぁい…………。

 なんでも……。

 しますからあぁ…………」


 ――勝利!

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