vs図書の女神メーティス~まずはフェミルが戦う編~
第三階層の試練が始まる。
概要はこうだ。
・特定の本を選び、その本をテーマに問題をだす。
・本の女神メーティスが、正解できればメーティスの勝ち。不正解および答えられなかった場合は、オレたちの勝利。
・メーティスの制限時間は10分。
という問題を出されてから、みなはあちこちに散らばった。
図書部屋にある色んな本から、『問題』になりそうな本を持ってくる。
設置されていたテーブルに、ドン、ドン、ドンッと積まれていく。
「どのような問題がよいであろうか……?」
「普通の本は知っていそうですし、図鑑とかから出すのがよさそうな……」
「うーん……」
「あれケーマ、どうしたの?」
「この図書部屋にある本は、この図書部屋にあったものなんだよな?」
「当たり前じゃない」
「だったらこの部屋の本に書いてある『問題』は、基本答えられるんじゃないかと」
オレは図鑑を手に取った。
「ツノマンボウの平均体長。平均体重。主食をすべて答えよ」
「そんなのわかるわけないじゃない!」
「力を使えよ……」
「あ、そっか!」
ローラは基本アホではあるが、一応は女神。
『知の泉』なる空間にアクセスし、情報を得ることができる。
「ツノマンボウの平均体長は、ツノを入れて四メートル。ツノを抜かせば二メートル。
平均体重は三トンで……主食はクラゲ!」
「完璧だ」
オレはローラを撫でてやる。
「えへへぇー」
「こんな感じだ。
最低限コイツを詰まらせる程度じゃないと、あの女神にも勝てない」
「そう考えると今回の試練、ものすごく大変ね……!」
「むしろハードルが、二センチぐらいになってしまった気がするぜなー……」
「いや……まぁ、うむ……」
「どういう意味いぃ?!」
ローラが抗議の声をあげるが、ロロナもフェミルも決まり悪げに目を伏せていた。
でも違うんだ。
このローラ、能力はすごいんだよ。能力は。
使いこなす頭がないだけで。
◆
みながそれぞれ、考えをめぐらせる。
(ふあ………。)
飽きてきたマリンが、あくびした。
「たいくつ? マリナちゃん」
(こくっ。)
「だったらアタシが、絵本でも読んであげる!」
(ほわぁ………(*´ワ`*))
ローラが女神らしいことをして、マリンが楽しむ。
このローラ、子供との相性は悪くない。
「子供向けの絵本でしたら…………」
メーティスが、とさっと本を机においた。
「ありがとう! メーティスちゃん!」
「…………」
照れてしまったのだろう。メーティスは、赤面して去って行った。
閑話休題。
策を立てたオレたちは、メーティスに挑む。
「すまん……ケーマ殿。わたしは何も思いつかなかった……」
こういうことが苦手なロロナは、心からすまなそうにする。
「大丈夫ですよ! ロロナさん!
ロロナさんの分は、わたしがちゃんとがんばりますから!
むしろここでがんばらせてもらわないと、わたしの出番が……!
地味とか空気とか、いてもいなくてもあまり変わらないとかいう気がしていますので……!」
「そのようなことはないと思うぞ?!
わたしにとって、キミは大切な友人だ!」
「そうであると言い切るためにも、わたしは負けられません!」
「フフフフ……どうぞ?」
「わたしが出題するのは――――スーパーグルメガイドブックからです!
わたしの街にある、パンの耳を安く売ってくれているお店、食べられる草が生えている場所、お肉に見える石がたくさんある場所が記されている本!
つまりはわたしの日記です!」
フェミルが身を削ってきた。
『肉に見える石』までグルメに入れてくるとか半端ない。
メーティスはつぶやいた。
「石は食べ物ではないのでは……?」
「食事とは、目と味と食感を楽しむことを言います!
お肉そっくりの石を見つめることは、お肉を三分の一食べたのとイコールで繋がるんです」
「あなたは前世で、どんな罪を犯したのですか……?」
メーティスはショックを受けていた。
「ほほほほ、本にはちゃんと、石をおいしく眺める方法や、おいしく見えた石を間違って食べない方法も記されていますし!」
「それもうグルメっていうか、哲学の本だぜな……」
リンディスも、わけがわからず混乱している。
ロロナが言った。
「しかし問題の発想としては、けっして悪いものではないな。
完全に個人の日記でしかないが、最初に決めた『本の定義』からは外れてはいない」
「さすがはケーマ!
こういうズルをするために、『本とは何か』みたいな話をしたのね!」
「ズルって言われると心外だけどな。本とは何かって決めたのはあっちだし」
勝ち誇るロロナたち。
しかしメーティスの顔は、余裕に満ち溢れていた。
「本の種類はわかりました……。
では、問題を……」
「本に記載されているお肉石の中で、わたしが一番好きなものはなんでしょうか!」
「アタシの問題のパクリぃ?!」
「なるほど……」
ローラを無視し、メーティスは考える。
「なんでokなの?!
アタシはダメって言われたのに! ケーマにも怒られたのに!」
メーティスは、可哀想なものを見る目で言った。
「一番好きな石がなんなのか……。
『本に記載されているから』です……」
そしてフェミルに、薄気味悪い笑みを浮かべた。
「豚肉に見える……豚肉石ですね。
正式な名称はわかりませんが……。『あなたの本には、そう書かれています』
カワラの砂をかけることでコショウをかけたような気分にもなれて……。
豚の串焼き屋台が多いことから、匂いもタダで補充しやすい……。
思わず舐めても豚肉の味がしないこと以外は、完璧な食材……!
という、悪魔的な記載が……」
「正解……です」
「悲しいぜなあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「それを食材と言うなぁ! フェミル殿おぉ!」
「しかもこれだけ身を削って、相手に当てられちゃうなんて!」
「これ……少しですが……」
リンディスたちが号泣し、メーティスがお金をくれた。
「ケーマ! 絶対にダメよ?!
これから大変なことがあったとしても、フェミちゃんのごはんだけは手抜きしちゃダメよ?!」
ローラも涙目で力説している。
「だだだだ、大丈夫ですよ?!
みなさんが思ってるよりずっと、豚肉石はちゃんとしたごはんですから!」
(((ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!!!!)))
敵を含めたみんなの心が、ひとつになった瞬間だった。
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