ロロナちゃんのリベンジ
――前回のあらすじ――
致死性の毒ガスはむせる
――あらすじ、ここまで――
毒ガスを強制的に換気したオレは、みんなも最後の部屋に呼んだ。
「普通に呼吸が! 息ができるわ! サイコーですばらしいわね! 世界よ!」
「さすがはケーマ殿であるな」
「すごいです……ぴょん」
(とてててて、ぴょこぴょこ。とてててて。)
ローラが奇妙な語彙で喜び、ロロナたちがオレを称えた。
幼女のマリンは、楽しそうに走りまわる。
「なんの問題もなくクリアだな!」
〈問題は大いにありますよ?! クリアですけど! クリアですけどー!〉
やったぜ。
「しかし説明のないトラップをしかけておいて引っかかったら死んじゃうとか、性格が悪いぜなー!」
〈人聞きの悪いことを言わないでください。アレはそんなトラップではありません。
その場の全員が満場一致でギブアップすれば、失格の代わりに命は助けます〉
「そうだったぜな?」
〈そうだったのです。しかし多くの場合、富と名誉のために仲間と争い罵りを続け、『扉を開くには右手さえあればよい。命はいらない』という私からの声を受け、命を奪うことでスクロールの『節約』をはかる事態も――〉
とてもイヤなことを言う声は、テンションMAXで言った。
〈醜悪なる愉悦とは、救いがありながらそこに手を伸ばさない人間の浅ましさと愚かさの奥にこそあるのです!!〉
「醜悪すぎるぜなー!」
やはりこの世界の女神って、邪神だったりするんじゃないだろうか。
まぁいいか。
オレは最後の部屋を進んだ。
〈とりあえず……『おめでとう』と言っておきます……。
しかし我が第一階は、六階層の中で一番の小物。甘く見てるとケガをするのです……〉
「そうか」
オレは気にせず階段を登る。
広い空間にでた。まるで学校の体育館のような、広々とした空間だ。
しかし体育館と違い、飾りっ気などはまるでない。
引っ越しのために荷物をまとめた部屋のような、広々とした空間が広がっている。
「ここは……?」
「マタ会ッタ……ナァ」
そこにいたのは、筋骨隆々の大男。
二メートルを越えた体長に、巌のような筋肉がついている。
それはつい先刻に、予選的な試練でオレに吹っ飛ばされた――。
「ヘラクレスか」
「イカニモ……。我ハ第二階層ノ番人――」
「予選で戦ったのが、本番にもくるのか」
「ククク……」
不敵に笑ったヘラクレスは、虚空で親指を弾いた。
空気の塊が音の速さで猛進し、オレの頬をかすめていった。
チュゴオォンッ!
背後の壁が、大砲でも受けたかのように壊れる。
「コノ階層ノ難易度ハ――――DEATH。
我ハ本気デ、貴様ヲ殺シニ、カカレル――」
ヘラクレス、右手をかざす。巨大な剣が現れた。
しかも二本。
ヘラクレスはその巨大剣を、ヌンチャクのように振り回す。
食らえば即死は間違いない上、回避も難しそうである。
「確かに強くなってるな」
「そういうことなら、わたしが行こう」
ロロナがツイッと前にでた。
「ダメよロロちゃん! 負けたばっかりじゃない!」
「そうだぜなー! 弱いんだから、無理することはないんだぜなー!」
「そうですよ! 負けたら死んじゃうんですから!」
みんな揃ってひどかった。
発言は正しいのだが、物には言いようがある。
(おろおろおろ。)
危ういと思いつつ何も言えない幼女のマリンが、一番まっとうな対応に見える。
ロロナは涙目になってしまった。
しかし言う。
「こ、こ、今度は勝つゆえ……!」
「ダメよそんなの! 負けるギャンブラーの常套句じゃない!」
(お前が言うのか)
と、思いはしたが――。
(正論ではあるよな)
「勝算がないなら戦わせないぞ?」
「流石のわたしも、そこまで愚かではない」
ロロナは剣を、パチリと鳴らした。
「難易度がDEATHということは、わたしも自由に剣を使える。
そういうことだ」
「剣を持つだけでそんなに変わるかしら……?」
「わたしの剣は、世界でもっとも優れた商人であるリリナ姉さまが素材を集め、世界でもっとも優れた鍛冶師であるララナ姉さまが鍛えた剣だ。それを鞘から抜いてよいなら負けはしない」
実に威風堂々とした、自信たっぷりの態度。
ふたりの姉を、心から尊敬していることがうかがえた。
が――。
「それに無邪気で愛らしい天真爛漫なローラ殿がケーマ殿の隣にいる以上
わたしはクールで強くなければバランスが……!」
台無しになった。
「愛らしいー?
えへへぇー。もう、ロロちゃんってば、本当のこと言うんだからぁー♥♥」
ローラは頬に手を当てて、うれしそうに身をよじらせる。
見た目だけなら、実際かわいい。
しかしこの駄女神を『天真爛漫』と思えるあたり、ロロナもちょっと感覚がズレてる。
(まぁ感覚がまともなら、オレを好きになったりはしないな)
自分で言ってて説得力だぜ!
HAHAHA!
「とにかくそういう話なら、アタシはあなたを応援するわ!
〈鉄血のブラックバーサーカー〉として、汚名返品・大返上よ!」
「はぐっ……!」
かつて名乗っていたブラック歴史を掘り起こされたロロナは、涙目になった。
「がんばって! 鉄血のブラックバーサーカー!」
(ばーさーかー………!)
ローラが(*^ワ^*)ノシと手を振ると、幼女のマリンはヽ(*´ワ`*)ノと応援する。
ふたりにとって、この名はとてもカッコいい。
ホワイト歴史なのである。
「くうぅん……」
ロロナは半泣きのまま、ヘラクレスの前に立つ。
「貴様ハ……。我ニ負ケシ――――犬!」
「しかし今度は勝ちにきた」
ロロナは剣の柄を握った。居合いの構えを取る。
「試練の開始はいつからだ?」
「貴様ガ動イタ時デ――ヨイ」
「そうか」
ロロナはタン――と地を蹴った。
一直線に突っ込んでいく。
「フン――」
ヘラクレスの指弾を身を翻して回避する。
「ドルアァァァァァァァァァァァァァ!!!」
落ちてくる大剣。
当たれば即死。
ロロナは一切怯まない。足を止めて剣を抜く。
渾身の切り上げが、大剣に当たる。
そして――。
大剣が切れた。
切れた破片はただの鉄の塊となって、ロロナの背後にズオンと落ちる。
二本目の剣は、身を翻して回避する。
舞うような動きで回転し、反動をつけ加速。
剣を両手で握りしめ、ナナメに振るう。
ヘラクレスと交差。
斜線の一撃が迸り、ヘラクレスは鮮血を散らしのけ反った。
「ぐはあっ」
ヘラクレスは倒れた。
ロロナはブォンと剣を振り、鮮血を払って紙で拭く。
「姉さまの剣は、やはり世界で一番だな」
フッ――と、口元で笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます