五分の一の部屋・後篇

 オレたちは、五つ並んでいる部屋を通ることになった。

 しかしそのうちの一部屋には、即死性の毒ガスが充満している。

 解毒用の巻物――スクロールを渡されはしたが、スクロールの数は四本。

 どこか一部屋は、丸腰で通過しなくてはいけない。

 どこの部屋を、丸腰で通るべきか。


 オレたちは、『四番目の扉』でスクロールを使わない道を選んだ。

 三番目の扉をあけて進む。

 どこからともなく声がした。


〈いよいよ最後の扉ですけど――。毒の部屋には当たっていない!

 五分の一で勝てるゲームが、今はもう二分の一!

 スクロっちゃいます? 無視っちゃいます?

 どっちにしても、二分の一で死にますけどねー!〉


 実に性格の悪いアナウンスである。


〈考える時間も議論の時間も、無制限でオッケーですよぉ?

 二分の一の恐怖に怯え、議論と対話と言い争いを――――〉


「うるさいやつだな」


 オレは扉に手をつけた。


〈えええっ?!〉

「問題でもあったか?」


〈いやいやいや、考えなくっていいんですか?!

 スクロールなしでいいんですか?!

 次が毒の部屋かもしれないんですよ?!〉


「普通の部屋かもしれないんだろ?」

〈しかし毒かもしれない以上、ここはもっと悩んで考え、醜く言い争ってですね……〉


 この試練のやつは、とても性格が悪かった。

 演出の可能性もあるが。


「ね、ねぇケーマ。やっぱり少し、考え直したほうがいいんじゃないかしら……?

 ああ言われると、不安になってくる的な!」

「乗せられんな」

「ふにゃっ!」


 アホな女神は、デコピンを受けて叫んだ。


「確かにケーマが言うんなら、この部屋が一番安全なんだろうなー……とは思うけど……」


 ローラはひたいを押さえながらも、扉に手を当てた。

 みんなも並んで手を当てる。

 グオゴゴゴ。

 四番目の扉が開き――。

 

 白いガスが飛び出した!!!


「なっ……?!」

(けほっ、けほっ、)

「くちゅんっ!」


 ロロナが激しく動揺し、フェミルとマリンが並んでむせる。

 リンディスが叫んだ。


「毒だったぜなー?!」


 そのリンディスは、遥か後方に避難していた。


「すさまじい判断力と身体力だな」


 しかしそれが『逃げ』に使われるあたり、色々と残念だ。

 異世界からやってきた彼女だが、元の世界では『小物界の大物』とか言われていたんじゃないだろうか。

 そしてローラが、スクロールを使用した。


「へっくちゅ……スクロール!」

「お前……」

「早く……みんなも……くちゅん!

 スクロールを……くちゅん! くちゅん! へあっくちゅん!!!」


 オレはローラの頭を、ポンポンと叩く。


「あのなぁ、ローラ」

「ふえ……くちゅん!」


 スクロールを使ったにも関わらず、まだガスが残っているせいで涙目のローラに、オレは言った。


「毒ガスじゃないぞ……? これ」


〈バレてしまいましたかぁ〉


 声がした。

 部屋の換気も、同時に始まる。


〈致死性のガスが充満しているのは、予想の通り五番目の部屋です!

 しかしそれはそれとして、致死性の毒ガスではないトラップはあったわけですねー。

 すべての部屋に、スクロールなしで通過しようとすると催涙ガスの出るトラップがあったわけです!〉


 性格悪いな。


〈扉が全員の手を当てないと開かない仕様も、つまりはそういうことですねー!

 パーティの誰かが勇み足でスクロールを使ってしまった時、残りのメンバーはどうするのか!

 使ってしまったその人は、大人しく死を受け入れるのか?!

 はたまた抵抗を試みるのか?!

 罵り合いに奪い合い。

 そしてその果てにある、殺――――フフフフ! ハハハハ!〉


 運営サイドは、醜いものを期待していた。

 ただの演出である可能性もあるが、それにしたって性格が悪い。

 オレは嫌がらせの意味もこめ、大げさにやった。


「ふぅ――やれやれ。いったいなにを言っているのか」

〈えっ……?!〉

「朝日が昇って鳥が鳴き、夕陽が沈んでローラがやらかす。それがこの業界の常識だぜ?」

〈なんですかその業界は!〉

「っていうかこういう手を使われると、真面目に攻略する気がなくなる」


 オレはロロナたちを、部屋の後方に下げた。

『最後の部屋』の前に立ち、扉を――開く前に、左右の壁をトントンと叩いた。

 厚さなどを確認し――――。


「よっ」


 どごぉんっ!


 軽いパンチで壁は吹っ飛ぶ。

 瘴気めいた生ぬるい風が、外から中に吹き込んできた。


〈ええっ?!〉


 続いて扉を蹴っ飛ばす。

 前蹴りに近い、ヤクザキックだ。


 ずごぉん!


 扉は派手に吹っ飛んだ。

 紫色の毒ガスがでてくる。


〈えええっ?!〉

「げほっ」


 オレはむせた。


「さすがは致死性。ちょっとむせるな」


〈えええええええええええええええええええええええええ?!?!?!?!〉


「風を使ってカンキカンキ……っと」


 風魔法でカンキする。

 致死性の毒ガスは、みるみる外にでていった。

 てれれ、てってってっー。

 レベルアップの音もする。


 レベル     2960→3000(↑40)

 HP      59200/59200(↑200)

 MP      47360/47360(↑160)

 筋力      34050(↑280)

 耐久      33800(↑250)

 敏捷      30270(↑220)

 魔力      29000(↑400)


 ◆習得スキル

 毒体質LV4 (1アップ!)



 なぜか知らないが毒ガスは、食べ物にカウントされることがある。

 されないこともたまにある。

 毒の成分が食物由来だと、食べ物あつかいなんだろう――と思われる。


〈いや……。ちょっ、待ってください!

 アリなんですか?!

 その方法はアリなんですか?!〉


「壁をぶち破ってはいけない――なんてルールは聞いていないぞ」


〈常識や良識や、まともな心はないんですか?!〉


「ケーマにあるわけじゃない!

 ヒトの心を持っていないロボットから、ロボの心まで抜いたのがケーマよ!

 ロボ以上にロボのケーマに心とか、期待するだけ無駄マシンよ!」


「なんてこと言うんだ。オレにだって心はあるぞ?」

「いったいどこによ!

 見たことないわよ!」


「ちゃんとゴミ箱の中にしまっている」


〈「捨ててるじゃない」ですかー!〉


 案内とローラの声が、綺麗にハモった。

 オレはいつものように笑う。


「HAHAHA!」



―――あとがき―――

みなさんの予想と期待通りの結末でしたね。

たかが致死性の毒ガス程度で、ケーマさんは死にません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る