五分の一の部屋・前篇
――前回までのあらすじ――
オレたちは、五つ並んでいる部屋を通ることになった。
しかしそのうちの一部屋には、即死性の毒ガスが充満している。
解毒用の巻物――スクロールを渡されはしたが、スクロールの数は四本。
どこか一部屋は、丸腰で通過しなくてはいけない。
どこの部屋を、丸腰で通るべきか――。
――あらすじ、ここまで――
オレたちは、『最初の部屋』の前に立った。
高さは二メートル。幅は二メートルちょっとの、浅い長方形の石の扉。
真ん中から開くタイプらしく、扉の中央には細い線が見える。
「しかしこの扉……どうやってあけるんだ?」
オレがつぶやくと、扉が白く輝いた。
むっつの手形がでてくる。
声がした。
〈ここの扉は、みなさんが右手をあわせることで開きます!
ハズレを引けば、みんな一瞬で逝けるわけです!
仲間割れなんていう残酷な展開は見たくないという、フォルティナ様のおやしさが光りますね!〉
かなり邪神の発想だった。
ローラがつぶやく。
「確率的に考えて……。
スクロールなしで通過するのは最後の部屋にするべきかしら」
「それはダメだろ」
「なんで?! 確率的には一番じゃない?!
最初の四部屋に毒ガス部屋があれば、リスクゼロで突破できるのよ?!」
「…………」
まともに突っ込む気もなくなったオレは、アホを見る目でローラを見つめた。
「その顔なんでぇ?!
今回のアタシは、間違ってなくない?!
確率的にはあってるでしょおぉ?!」
「今回に限って限定してピンポイントで制限するのであれば、ローラ殿が正しいのではないか……?
確率的に――と言うだけであれば」
「わたしも、確率的に――と言うだけであれば、ローラさんが正しいと思います」
「ぜなー!」
(おろおろおろ。)
マリンはひとりおろおろしてるが、それ以外の全員が賛同した。
ローラやリンディスはともかく、ロロナとフェミルのまとも組まで……?
オレは軽く戸惑うが、すぐに冷静になった。
(地球でも、確率論がまともに議論されるようになったのは1600年ごろだもんなぁ)
そこらの一般人が学習を始める時期に至っては、1900年代とかからだろう。
オレは簡単に説明した。
「わかりやすくクジで説明するが――。
五枚あるクジに、一枚だけ当たりがある。一回目で当たりを引く確率は五分の一だろ?」
「そうね!」
「うむ」
「はい!」
「その一枚目がハズレなら、残るクジは四枚。
当たる確率は四分の一だ」
「そうね!」
「ただこの『四分の一』に辿りつくには、最初の一回目で『ハズレくじ』を引いている必要がある」
「一回目で当たり引いたら、残りは全部ハズレだもんね!」
「つまり『二回目に当たる確率』は、『ハズレを引く確率である五分の四』に、『二回目に当たる確率である四分の一』をかけた計算――五分の四かける四分の一になる」
「なるほど……!」
「ケーマさんの洞察力には、毎度感服させられます……!」
「ちょっと待って! ロロちゃんフェミちゃん、どうしてわかるの?!
アタシわかんなかったんだけど?! 最後の最後で話が急にフォーリング堕天使!
リンディスちゃんもわかんなかったでしょ?!」
「ローラの言う通りだぜなー!
『五分の四』とか『四分の一』とか、専門用語すぎるんだぜなー!」
(………ひそっ。)
幼女のマリンが、ブーイングを飛ばすふたりの後ろに行った。
「これで三対三! 多数決なら互角の数字ね!」
「小さな子供まで数字に入れてどうするんだ……」
「子供でも大人でも、ひとりの人はひとりの人よ。そこに価値の差はない。そうは思わない?」
ローラは突然女神面して、そんなことを言った。
絵画にすれば慈愛あふれる完璧な女神様であるのが、わりと腹立つ。
ほっぺたをつねった。
「みゅえぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「とにかくこれは、くじ引きと同じだ。
毒の部屋に当たる確率は、どの部屋を選んでも変わらない。
でも単純に考えるなら、毒のある部屋は――――」
「一番最後の部屋であろうな」
「常識的に考えて、『リスクなしで突破』は、ありえませんものね……」
オレの意見に、ロロナとフェミルもうなずいた。
「それで結局、どの部屋をスクロールなしで通過するの?
話聞いた限りだと、最後の部屋に使うんだったらどうでもいいって感じだったけど」
「……四番目の部屋だな」
「四番目?」
「ああ」
オレはスクロールを使用した。
アンチポイズンの魔法に身を包ませて、扉の手形に手をあわせる。
みんなもオレの真似をした。
アナウンスの声が響く。
〈スクロールを使用いたしましたね?!
はたしてこの部屋は――!〉
グオゴゴゴ、扉が開く。
〈毒なしでしたー! ざんねん!
スクロールを無駄に使ってしまいましたー!〉
オレはさっさと前に行く。
(とてててて)
小さなローラがついてきて言った。
「ねぇケーマ、どうして『四番目』なの?」
「可能性で言うと、四番目が一番低いからだよ」
「ふえ?」
「このゲーム――惰性でプレイしたプレイヤーが選ぶ部屋は『一番最後』か『一番最初』だ」
「どういうこと?!」
「まず『一番最後』は、リスクなしで通れるルートだ」
「そうね!
気分的には、みんなこれを選びたいわ!」
「逆に『一番最初』は、80パーセントの確率で助かるルートだ。
覚悟を決めて開くなら、この一番目しかない」
「確かに……そうね。
五分の一で覚悟を決められなかった人が、四分の一で決めるのは難しいもん」
「惰性でプレイする人間は、二番目の扉にもスクロールを使う。
三番目の扉にも使う。
四番目にも使う。
三番目で『ここで覚悟を決めよう』と言ったところで、
「最初と最後が危険で危ないのはわかったけど……『四番目が一番安全』ってのは?」
「女神フォルティナが、『試練には、人材を確保する意味合いもある』って言っていたところがポイントだな」
「ふえ?」
「最初に言った通り、このゲームを惰性でプレイすると、スクロールなしで通れる部屋は『最後』か『一番目』しかない。
三番目や四番目で開こうとしても、『仲間割れ』で頓挫する可能性が高い。
つまり――」
オレをさえぎりロロナが言った。
「『四番目の部屋』をスクロールなしで開くことができるのは、この異常なる試練を前にしても冷静に考えることができる知能と判断力。
それを仲間に納得させられる圧倒的なカリスマを持った人材がいるパーティだけ。
人材確保の側面もある『試練』で、そのような人材を葬ることは考えにくい――。
そう言いたいのだな! ケーマ殿は!」
ロロナの瞳は、キラキラキラッと輝いていた。
完全にオレを尊敬していた。
「そこまで考えていたなんて…………さすがです」
フェミルも同じく、オレを尊敬の眼差しで見つめる。
そしてローラが、おもむろに言った。
「つまりこの試練を突破できるのは――――アタシのおかげってこと?」
「………………………………は?」
「だってそうでしょ?!
カリスマと言えばアタシ!
色々考えたのはケーマだけど、みんなが従ってくれるのは、アタシのカリスマがあってこそ!
今までのお話を冷静に積みあげて考察すると、そういう話になるわよね?!」
「ならねーよ」
「ふぎゃ!」
オレはローラの小さなアゴに、小さなアッパーを入れていた。
ゴッ! と軽い音が鳴ってた。
――この『読み』は完全に的中していた。
毒ガスの部屋は、最後の部屋であっていた。
四番目の部屋をスクロールなしで通過してれば、話はそれで終わっていた。
にも関わらずオレたちは、『四番目の部屋』でも、スクロールを使用してしまうことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます