神運の試練


―前回までのあらすじ―


異世界から迷い込んできた空賊・リンディスを元の世界に戻してあげるため

ケーマたちは『大女神の試練』に挑む

その予備試練として、島にあるアトラクションに挑むことになった。


―あらすじ、ここまで―



「くうぅん……」


 力の試練を突破した直後。

 ロロナはすっかり落ち込んでいた。


「どうした? ロロナ」


 リンディスが答える。


「ケーマが敵をあっさりと倒したせいで、落ち込んでいるみたいなんだぜなー……」

「わっわっわっわっ、わたしは平気だ! 一ミクロンも落ち込んでいない!」


 叫ぶロロナは涙目だった。

 しかしすぐさま涙をぬぐい、改めて叫ぼうとした。


「落ち込んで、いな…………くうぅん」


 悪いことをしてしまったようだ。

 しかし今さらなにか言っても、今さらでしかない。

 ロロナの性格から鑑みても、スルーしてあげるのがやさしさだろう。

 オレは気にしないことにした。


 そんな感じでオレたちは、色んな試練をクリアし続けた。

 失敗したら傷が深そうな試練はオレが引き受け、それ以外はフェミルやリンディスにもやらせてみる。


「できました! 答えは10万2861です!」

「フハハハハハー! 弱い相手は楽に勝てるから好きなんだぜなー!」


 フェミルが知恵の試練で計算問題的なことをやり、リンディスが槍を振るってゴブリンを掃討する。

 ふざけた態度を取っているリンディスであるが、地味にロロナより強い。

 そして危険な試練なら、オレがひとりで引き受ける。

 なんか色々でてくるのだが、どんな敵も殴れば倒せる。


「さすがはケーマね! 勝った時の勝率は100パーセントだわ!」


 ローラは謎な概念を発するが、ローラなので仕方ない。

 予備試練クリアのコインもあっさり溜まり、時間潰しに〈セーフ〉のイベントに参加したりもした。

 幼女のマリンが、ルービックキューブみたいなパズルを解く。


(カチャカチャカチャカチャ……)

(んっ!)


 かなりの速さでクリアして、(んふー!)と得意げな顔をする。

 かわいい。


「みんなすごい! エクセレントなエレガントでエレファントだわ!」


 エレファントがほめ言葉になる理由は謎だが、テンションの高さは伝わってきた。

 オレたちは、無事に試練を突破する。

 最初の施設へと戻り、受付にコインを見せる。


「はい……確かに」


 屋内に入る。

 百人ほどの先客が、すでに待機していた。


「アタシたち、けっこう後ろのほうだったみたいね」

「途中遊んでいたからな」


 そうこうしているうちに日は傾き始め、残り時間もなくなってきた。

 男のバニーと女のバニーが同時に叫んだ。


「タイムアーーップ!」

『うああああああああああああっ!』

『くそっ!』

『よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『フッ』


 外からは嘆きの声が聞こえて、屋内では喜びや余裕の声が聞こえた。

 ハープを基調とした音色が響き、アイドルでも出てきそうなステージの上に、黄金の輝きが差す。

 ステージの上に現れるのは、大女神フォルティナ。


〈わらわの子らよ。

 よくぞ最初の試練を乗り越えてみせたな。

 偉大なる女神として、誇りに思うぞ〉


 その雰囲気は、相変わらず荘厳だ。

 参加者の九割以上が、麻薬でも吸わされたかのように〈ほえー〉となってる。

 それが女神のカリスマなのか、魔法的な力なのかは不明だ。


〈それではこれより、『塔』への挑戦を開始する。

 基本的には『挑戦権のための試練』と同じじゃが――〉


 フォルティナは、一拍の間をおいて言った。


〈塔の中では、『神運の試練』が新たに加わる。

 わらわに対する信仰を、見定めるための試練じゃ〉


 会場がざわついた。

 自信なげにぼやく者や、改めてフォルティナに祈る者がでてくる。


「アタシのためにあるような試練ね……!」


 と、根拠のない自信に心ときめかす駄女神もいた。


〈ではシンプルに、『塔』の試練を開始するとしよう〉


 フォルティナが、自身の指をパチッと鳴らす。

 オレたちの体が光に包まれ――――消えた。


  ◆


 転移した先は、大きな島であった。

 後ろを振り返れば波が打ち寄るガケがあり、前を見れば大きな塔。

 うっすらとした霧のおかげで、頂上は見えない。


「オレたち以外の参加者がいないな」

「同じような島に飛ばされているんだと思うぜなー!」


 リンディスは、遠くの島を指差した。

 霧のせいでわかりにくいが、塔が建っているように見える。

 フォルティナの、声だけが響く。


〈わらわの子らよ、登るがよい。

 もっとも早く頂上に辿りついた者に、わらわの祝福をくれてやろう〉


「だってさケーマ! 急ごう!」

「そうだな」


 オレは塔に入った。


〈力と知恵は持ちし方々、フォルティナ様の試練へようこそ〉


 燕尾服とシルクハットを身に着けた、バニーの女が現れた。


「第一階は、塔で初めて実装された『神運の試練』

 頭がよくって力があっても、運がなければ意味がない!

 逆にすごい幸運があれば、力や知恵がカメムシだろうとなんとかなっちゃう!

 そういうものよね、人生って!〉


 そう言った燕尾服バニーの女は、持っていたステッキを振りかざす。

 オレたちの手に、茶色の巻物――スクロールが現れた。

 数はひとり四本だ。


〈あなた方には、五つの部屋を通過してもらいます!

 ただしそのうちの一部屋には、猛毒のガスが充満!

 ほんの一息吸うだけで、即死は間違いありません!〉


「いきなりホラーでヘビーな話ね!」


〈でもご安心を!

 今お渡しした『アンチポイズン』のスクロールを使用すれば、毒は見事に回避できます!

 スクロールの効果は、ひとつの部屋を通過するたびに消えますけどね!〉


「ヘビーかと思ったらイージー! やさしい!」


〈ええっと……〉


 頭の悪い駄女神に、バニーさんは戸惑った。

 ロロナが説明してあげる。


「部屋が五つでスクロールが四枚ということは、一部屋はスクロールなしで通らねば――ということであるぞ……?」


「やっぱりホラー! 怖い!」


〈以上がこの階の――『五分の一の試練』の概要です!

 ご質問はおありでしょうか?!

 なければひとつの警告を入れて、説明の終了とさせていただきますが!〉


「警告ってのはなんだ?」


 それによっては、必勝法を使えるのだが。


〈『スクロールは、四回までしか効果がありません!』

 偵察要員にスクロールを渡し、ひとり先に進んでもらうのは不可能です!〉


 いきなり釘を刺されてしまった。

 使用回数に制限がなければ、こんな必勝法も使えたのに。


・オレがスクロールを受け取って、部屋の安全を確認してから進む。

・誰かひとりをここに置き、その分のスクロールをもらって進む。


 まぁいいや。


 オレの予感が正しければ、この試練は簡単に突破できる。

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