力の試練を受けてみる
最初の試練をクリアしたオレは、屋台でウーパールーパーっぽい生き物の串焼きを買った。
ローラたちには、シャーベットを買ってやる。
てれれ、てってってー。
レベルあげて、再生スキルを取り直した。
「次はどこに行くかな」
「やっぱりペインだと思うぜなー!」
「安全なセーフは混んでいて、死ぬかもしれないデスは危険すぎるものね!」
(はむはむはむ)
リンディスとローラがまともな意見を言って、幼女のマリンはアイスを食べている。
しかしながら三人そろって、ほっぺにアイスがついていた。
(こいつら幼女と同じレベルか……)
オレは三人にあきれつつ、ふたりのアイスをぬぐってやった。
リンディスについては、自分でやるだろう。
(…………)
普通に食べていたフェミルが、アイスとオレを交互に見つめた。
ほっぺにクリームをつけなかったせいで、なにもしてもらえないことを悔やんでいた。
そこにロロナがやってきた。
「見つけてきたぞ、ケーマ殿。三ヵ所ほどに、ペインがあった」
有能である。
「ロロナの希望は?」
「東のペイン。力の試練だ」
「行こう」
オレは串をゴミ箱に捨てて、東に向かった。
〈モンスターコロシアム〉と銘打たれた闘技場が見える。
「いつもはモンスターとモンスターを戦わせて、だれが勝つのか予想するギャンブルをやってるみたいね!」
中に入った。
バーテンダーを彷彿とさせる、ツヤツヤオールバックの男がでてくる。
「これはこれは、〈力の試練〉にご挑戦ですかな?」
「ああ」
「では手続きを」
「参加料は20コインで、勝てば50コインか」
オレは20コインを出した。細かい書類にサインする。
背後から声。
「なにやってるのかなぁ? 兄ちゃん。ここは〈力の試練〉だぜぇ?」
「かわいい子たちにいいところを見せたいのはわかったが、場をわきまえないのはいけねぇなぁ」
「お前みたいなクズが負けるのはいいが、俺様たちの後にしてくれねぇかなぁ」
典型的なチンピラだった。
筋肉質なモヒカンがひとりに、スキンヘッドがふたりいる。
「なによアンタら! 横入りする気?!」
「横入りじゃねぇ。平和的な話し合いだ」
「俺様たちの強さに感じ入った兄ちゃんが、自主的に居場所をゆずる。
これはただ、そういうだけのお話よぉ」
ひどいチンピラ語だった。
「思っていたより平和的ね! 悪いやつらとか思ってごめんね!」
しかしローラは納得していた。
「でもダメよ!
先にきていたのはアタシたちなんだから、試練を受けるのもアタシたちよ!」
「ハアァ?!」
「っていうか兄ちゃん、恥ずかしくねぇのかぁ?! 自分の女を盾にしてよおぉ!」
オレは受付の男を見やった。
「いいのか? これ」
男はにこやかな笑顔で言った。
「もめ事は《・・・・》、困ってしまうところですねぇ」
「なるほど」
オレはくるりと踵を返した。
「お、ゆずる気に――」
モヒカンの鳩尾にパンチ。
「なっ――?!」
スキンヘッドの首に手刀。
ふたりを容易く寝かせたあとで、残ったひとりの胸板に掌底。
「グハアァーッ!」
よしっ。
「もめ事は困ると言われたばかりでは?!」
突っ込むロロナに、爽やかな笑みを浮かべて言った。
「揉める前に片づけただろ?」
受付の男も、瞳を細めてにこやかに言う。
「おっしゃる通りでございます」
「これが世界の常識か……?!」
ロロナはショックを受けていた。
改めて受付けを済ませ、控え室に移動する。
「武器はここに立てかけられているものから、お選びください」
ロロナが、武器を見て言った。
「剣も槍も斧も、刃がそぎ落とされているな」
「これはペインの試練です。致死性の武器は禁止となります。
これらの武器で戦う際も、首や頭部への攻撃は禁止です。
体術も、投げは禁止とさせていただきます」
「相手を殺してはいかん――ということか」
「そういうことです」
「いずれの武器も、わたしにはあわんな。自前の剣で戦ってもよいか?」
「鞘から抜いて使用した場合、かすり傷でもつければ失格となりますが」
「問題ない」
ロロナは闘技場に入った。
砂の足場に、すり鉢場の観客席などもついた闘技場だ。
オレたちは、観客席でロロナを見つめる。
「誰もいないわね……」
ローラが言ったその時だ。
空から影が落ちてきた。
巨大な鉄の箱である。
ドガアァンッ!!!
鉄の箱はド派手に落ちた。
シン――と空気が静まり返り――。
ガシャアァンッ!!
箱が中から消し飛んだ!
「グフウゥ…………」
現れたのは、筋骨隆々の大男。
二メートルを越えた体長に、巌のような筋肉がついている。
「派手な登場演出ね……!」
「すごい高さから落ちてきて、傷のひとつも負っていません……!」
ローラとフェミルが驚愕する。
「当コロシアムが誇る力の魔人ヘラクレスによる力の試練――難易度ペインの始まりです!」
「このヘラクレスという男、只者ではないッ……!」
「負けそうになったらギブアップしてもいいのよ?! ケーマがやってくれるから!」
「その通りではあると思うが、ケーマ殿に頼り切りもどうかと思う――というか……。
守られるのではなく隣に立ちたい――というか……。
ケーマ殿になにかあった時に面倒を見るためにも、強くありたい――というか……」
「すごいわロロちゃん! 大真面目大将軍ね!」
ローラにも見習ってほしい。
なんて考えていると、敵の男――ヘラクレスが言った。
「コナイナラ……。行クぞ」
ダンと地を蹴り、突っ込んでくる。
「力こそ…………パワーッ!」
ヘラクレスのハリ手!
ドオォンッ!!
ロロナは跳ねて回避したが、地面は大きくへこみえぐれた。
五トンの鉄球でもぶつけたかのようだ。
「恐ろしい力だな……」
それでもロロナは回避した。どんな力も、当たらなければ意味はない。
が――。
「砂こそ…………サンドッ!」
ヘラクレスは砂を握りしめ、ロロナに向かってぶっかけた!
「クッ?!」
「パワー馬鹿かと思ったら、考える頭もあったのか!」
ロロナは宙に浮いたまま、視界を完全に封じられた。
男がロロナに向かって飛んだ。
両手を重ね、無防備なロロナに拳の塊を落とそうとする。
が――。
ロロナはヒュルッと身を翻し、男を蹴った!!
くるりと宙で回転し、地面に見事に着地する。
目を閉じたまま言った。
「わたしはエルフと獣人のハーフだ。
エルフ側の特性として、音と空気でおおよその動きはわかる」
「グプフフフ……。ケッコウ、ケッコウ…………フウゥンッ!」
ヘラクレスは砂を握りしめ、手のひらサイズの弾を作った。
「投擲こそ……スロゥ!」
ぶん投げる!
「ヌウッ?!」
ロロナは反射で剣を抜き、飛んできた弾を切った。
「おミゴト、ミゴト。シカシ目ノ見エヌ状態デ、イクツまでカワせるカ……」
ヘラクレスは二発、三発と、投擲をくり返す。
「クウッ、ハアッ!」
ロロナ、剣で裂いていく。しかしながらキツそうだ。
なにせ視界を封じられてる。
二発目、三発目を切り裂けただけで大したものだ。
それは卓越した運動神経のほかに、読みもあると思われる。
頭部と首への攻撃は禁止されている。
さらに下半身は、的が小さく狙いにくい。
ならばロロナへの攻撃は、胴体へのそれが中心となる。
妥当な読みと言えはする。
言えはする――が。
ヘラクレスは、ロロナの顔面を狙って石を投げた!!
「クッ?!」
読みを外されたロロナは、反射で顔を動かし避わした。
かなり際どいところだったが、回避は回避。
が――。
「グフフフ」
男はロロナの前にいた。
ドンッ!
みぞおちに拳。
「カハッ……」
ロロナはパタリと崩れ落ちた。
ローラが叫ぶ。
「頭への攻撃は反則じゃなかった?!」
「石ハ投ゲタガ、当タッテは、イナイ……」
「それってアリなの?!」
オレは言った。
「アリだからやったんだろ。
ロロナの力量を見て、回避できると確信した――ってのもあるんだろうし」
「ひどい話ね!
一寸法師に組体操の一番下をやらせる悪魔よ!
ほとんど弱いものイジメ!!」
「弱い……。はぐうぅ……。弱い……」
「敵から受けたパンチより、ローラの発言でダメージを受けているぜなー!」
「ふえええっ?!」
そんな会話をしていると、受付の男が言った。
「決着はつきましたが――。
どういたしますか?
30コインを支払うことで、再度挑戦できますが」
「この試練、20コインじゃなかったか?」
「あなた方は、ヘラクレスの動きを見ましたからねぇ」
もっともであった。
オレは30コイン出し、闘技場に入った。
「大丈夫かロロナ? ヒール」
「痛みは引いたが……。すまぬ」
「気にするな。カタキはオレが取ってやる」」
「すまぬ……」
とぼとぼ歩くロロナを見送り、ヘラクレスの前に立つ。
「グカカカカカ……。
華奢ナル男。
蹂躙コソ…………快楽」
ふたり離れて位置につき、受付の男のあいさつを待った。
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ヘラクレスが突っ込んでくる。
オレは軽いジャブ感覚でアッパーを出す。
敵はそれで吹っ飛んだ。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
派手に吹っ飛び天井を破り、空の星となった。
ハッハッハー、一瞬の勝利だぜぇ!
「さすがはケーマね! 国士無双の大勝利!」
「すごいです! さすがです!」
ローラとフェミルがオレを称えるが――。
「そんなにあっさり倒されてしまうと…………はぐうぅ」
演技でいいからもう少し、苦戦しておくべきだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます