魔術師のカード・クリア編

 カードのシャッフルを終えた魔術師が言った。


「それでは二回目。どの指を賭けるかい? お若いの」

「ローラ、ちょっと耳貸せ」

「ふえ?」


 やってきたローラが、オレの口に耳を寄せる。

 オレは無防備なローラの耳に、フウッ――と息を吹きかけた。


「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 叫んだローラが、真っ赤になって耳を押さえた。


「なに考えてるのよケーマのばか! すこし気持ちよかったじゃない!」

「いやすまん。今度はマジメに話をするから、もう一度耳を貸してくれ」

「わかったわよ……」

(こしょこしょこしょ)

「ふえっ……。うんっ、んっ……」


 ローラは微妙に身悶えしつつ、オレの要求を聞いた。


「わかったわ! よくわかんないけど!」


 ローラは女神の力を使い、紙とエンピツに封筒を出した。

 続いてロロナに耳打ちし、紙にとある文字を書いてもらって封筒に入れてもらった。


「というわけだ、魔術師さん」

「どういうわけだね?」

「まず前提として――――アンタはイカサマをやっている」

「前提なのっ?!」


 叫んだローラにオレは言う。


「そもそもの話、このゲームはおかしいんだ。

 これは『知恵の試練』だろ?

 なのにゲームの内容は、指を賭けてカードをめくる? それはただのくじ引きじゃないか。知恵もなにもありゃしない」


「確かに……!」

「だからコイツはイカサマをやってる。そのイカサマを見抜いて対策を取れば、絶対に勝つこともできる。そうでなければ、『知恵の試練』として成り立たない」

「ケーマすごい! いつから気づいてたの?!」


「最初にルールを聞いた時点だ」

「流石はケーマ殿……」

「全然気がつかなかったです……」


「なかなかのご高察のようであるが……。

 こちらがやっている『イカサマ』とやらは、ナニか検討がついているのかねぇ」

「もちろんだ。だからオレは、この封筒の中身にも自信がある。

 封筒の中で指定したカードが『魔術師のカード』じゃなかったら――」


 オレはキリッと格好をつけて言った。


「オレの指十本と、ローラを好きにしても構わないぜ?」


「アタシへのペナルティが重くない?!」

「当たるから大丈夫だ」

「やると言ったらどんなことでも絶対にやらかすケーマが言うなら、当たるとは思うけど……」

「実際当たる。なにせこの封筒には、オレが『魔法』をかけてある。

 そこのペテン師が使うのとは違う、本物の『魔法』がな」

「で……どのカードをめくるのだね?」


 オレが煽ったせいだろう。魔術師は、青筋を立てていた。


「オレが選ぶカードは、この封筒の中に記してある。だから先にアンタがめくってくれ」

「…………」

「実際、問題ないだろう? 紙に記してしまった以上、変えることはできないんだから。

 オレはお前がなにを言おうと《・・・・・・・・・・・・・》

 この封筒の中に記したカードを選ぶ《・・・・・・・・・・・・・・・・》」

「しかしその封筒、一枚のカードを指定するには少々分厚い気がするが……?」

「な……、中が透けたら困るからな。」

「ほぅ……?」


 魔術師は意味ありげにうなずくと、一番右のカードをめくった。


「見ての通り正解は、一番右のカードであった。封筒をあけてもらおうか」

「ああ」


 オレは封筒の封を切ろうとした。

 刹那。


 バッ!!!


 魔術師が、オレから封筒を奪い取った!!


「なんの真似だ?!」

「確かに貴様は、この封筒に魔法をかけた。

 ワシはその正体を見破った。これはただ、それだけのお話じゃ」

「な……なんのことだ?」


「封筒の中にある紙は、恐らく白紙。しかし魔力に反応して、『一番右』、『右から二番目』といった文字が浮かびあがる。封筒が不自然に分厚いのは、紙によって書かれている文字が違うからじゃろう」


「ッ……!」


 オレは歯を噛む。


「しかし手遅れ。ワシは気づいた。ワシに『解説』をされた貴様が、焦っているのがその証拠。

 複数ある紙の中から、『真ん中』とでも書いてある紙を選ばせてもらうとしよう」

「取り消しはできないか……?」

「そんなもの、許されるはずがなかろう」

「今回だけ、今回だけで構わないんだ! 『封筒の中に記したカードを選ぶ』って話を、なかったことにしてくれないか?! もう一度、やり直させてほしい!」

「くどい」

「ケーマあぁ……」


 ローラが涙目になった。


 魔術師が封筒を開き、紙に記されたメッセージを見る。

 そして驚きに目を見開いた。

 そこには、こう書かれてあった。


『当たりのカードを選びます』


 オレは魔術師がめくったばかりの、当たりのカードに手を伸ばす。


「そういうわけで、当たりのカードを選びます」

「待てえぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!」

「えっ?」

「なんじゃコレは?! こんなメッセージ、許されるはずがなかろう!」


「そうよケーマ! これはちょっと卑怯じゃない?!

 ルーレットで何番にかけるかって聞かれたら、『1が出たら1に。3が出たら3に賭ける』って言うようなものよっ?!」


「オマエはオレの味方をしろよ」

「ふみぇえぇ~~~~~~~~~~~~~~~」


 ローラはほっぺをつねられ喘いだ。


「ただオレも、『これは無理があるよなぁ』とは思った。

 だから何度も、『取り消せないか?』って言ったんじゃないか」

「確かにそうね! ケーマは卑怯を悔い改めて、やり直そうとしていたわ!」

「そういうことではないと思うぞ、ローラ殿……」

「どういうことなのっ?! ロロナちゃん!」


「ケーマ殿も、このメッセージが無茶であることは理解していた。

 ゆえに何度も、『取り消せないか』と尋ねた。

 しかしこの魔術師は、『封筒の中に記されたカードを選ぶ』と言ったのだ。

 これはもう、封筒の中に記されたカードを選ぶしかあるまい」


「そういうことだね」

「しかしなぜ、封筒をこのように厚くした……?

 これを書かれただけの紙なら、このように厚くする必要はないじゃろうに……」

「そこは分厚くしておかないと、アンタが疑ってくれないじゃないか」

「っ?!」


「オレはアンタのイカサマを指摘した。紙を封筒に入れ、『絶対に当たる』とまで言った。

 こうなれば誰だって、『オレがなにかやってる』と考える。

 だから『適当に推理しやすい怪しいところ』を作って、的外れの推理をしてもらったわけだ」

「ぐぬぬ……!」

「そこまで考えていたとは、流石はケーマ殿だ……」

「アタシなんて本当に、魔法をかけたかと思っていたのに……!」


「ま、そういうわけだ。

 オレは宣言した通り、当たりのカードを選ばせてもらうぜ?」


 魔術師のカード――屁理屈でクリア!

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