試練の始まり

 島にきてから、二週間がすぎた。

 なぜ二週間待ったのかと言うと、『大女神の試練』は三ヶ月に一回おこなわれる定期イベント的であったらしいからだ。

 正直初耳すぎたのだが、情報源がローラだったので仕方ない。


『せっかくだからギャンブルしましょう! ニワトリレースとか自信あるわよ!』


 と言うローラに、賭けはナシで予想だけはさせたりとかした。


『ほらほらがんばって! コケッコランサー! そこ! そこおぉ!』


 架空の馬券ならぬニワトリ券を握りしめて熱狂するローラは、しかし当然のごとく予想を外した。


『やっぱりダメじゃねぇか』


『ダメなのはケーマよ!

 負ければほっと一息ついて、勝てば逆にガッカリとする。

 そんなやり方でニワトリの流れをつかめるとでも……』


『それっぽいこと言ってるんじゃねぇ!』

『ふみいぃ~~~~~~~~~~』


 あまりにもアホだったので、ひさしぶりにほっぺたをつねった。

 ローラには一銭も渡さずに、娯楽の島独自の珍味を食べた。

 ウーパールーパーの丸焼きのような食べものに、丸のままでもシャッキリおいしいアイスアップルやアイスパイナップルといった、アイスフルーツ。

 しもふりアジフライなんてのも、なかなかに美味だった。

 スキルはほとんどハズレだったが、当たりもあった。

 例えばこれだ。


 生活再生 LV3

 ◆スキル解説・生活再生

 切断された体の部位も、普通に生活していれば再生していく。


 ウーパールーパーっぽい生き物を食べたら身についた。

 地球のウーパールーパーも、再生力はすさまじい。

 腕や足はもちろんのこと、心臓や脳の一部が欠けても普通に生活していれば再生していく。

 この世界のウーパールーパー的な生き物も、そういうことだったのだろう。

 人が身につけていいスキルではない気もするが、今さらな気もするので気にしないことにする。


 ハズレスキルはこんな感じだ。


 ひんやり LV2

 ◆スキル解説・ひんやり

 冷たくて気持ちいい。

 夏にはぴったり。


 からにこもる LV1

 ◆スキル解説・からにこもる

 自分のカラに閉じ込もる。外にでれない。でられるはずがない。

 怖いよ……。外は怖いよ……。


 どこがスキルなんだろう。

 特に下は、ただの不安定な引きこもりだ。

 まぁ幸いにして、この手のスキルはオレが意識しないと発動しない。


 普通の遊園地みたいな施設もあって、飽きることはなかった。

 そんなこんなで。

 『大女神の試練』の日がやってきた。

 島の端にある遊園地な施設にて、挑戦者たちが集まる。

 その数は、軽く見ても一〇〇〇人はいそうだ。


「いらっしゃいませ旦那さま。『大女神の試練』にご挑戦ですか?」

「はい」

「それではこちらに、参加料として一〇〇〇万バルシーを」


 バニーのおねーさんが用意した箱に、金貨をじゃらじゃら入れまくる。


「はうあっ!」


 フェミルが吐血した。

 ロロナが叫ぶ。


「フェミル殿?!」


「だいじょうぶ……です。

 あまりにもな大金が一瞬で消費された光景のせいで、アバラがイッてしまっただけですから……」


 貧乏性にもほどがある。


「アバラがイクのは大丈夫ではないであろう?!」


 ロロナの突っ込みももっともであった。


「とりあえずヒール」

「ありがとうございます……はうぅ」


「受付で負傷者がでるなんて……。思っていたより危ない試験ね……!」

「油断はできないんだぜな……!」

(こく………!)


 ローラとリンディス、幼女のマリンが緊張していた。

 試練というよりフェミルの性格のせいだと思うが……まぁいいか。

 オレは手続きを進ませる。

 オレたちは六人いるが、一チームにつき十人まで登録していいようなので問題はなかった。


 手続きを済ませて待つと、音楽が鳴り響いた。ハープを基調とした、美しい音だ。

 アイドルでも出てきそうなステージの上に、黄金の輝きが差す。


『フォルティナ様だ……!』

『フォルティナ様……!』

『なんと美しい……!』


 実際、フォルティナは美しかった。

 流れるような黒髪に、ヒスイのような緑色の瞳。際どい衣装は際どいながらも下劣さがなく、見つめだけならまさしく女神。


〈よくぞまいった。わらわの子らよ。

 わらわ――大女神フォルティナが与えし試練を受けにきたこと、それそのものをわらわは称えよう。

 この試練に勝ち抜けば、わらわができる範囲のことであればなんでもしよう〉


 集まった挑戦者たちは、ウオオオオオオオオオオオオッ!!!と盛りあがる。


「ぜなあぁ……」


 ある意味で主役のリンディスが、頭を抱えてうずくまった。


「どうした? リンディス」


「あの女の人……。

 女神というだけあってオーラがものすごいぜなあぁ……!

 アタシの鋭敏な本能が、『なにがあっても逆らっちゃいけないぜな』って言ってるぜなあぁ……!

 女神さまって初めて見たけど、思っていたよりすごいんだぜなぁ……!」


「ちょっと待って!

 リンディスちゃんが女神を見るのは、別に初めてじゃないでしょ?!

 なのにどうしてその反応?!」


「ぜな……?」


 ローラは意味もなく格好をつけて言った。


「アタシも女神。知の女神ローラよ。

 いわゆる大物。ビッグ・モノーよ」

「ぜな……!」


 リンディスは感動した。感動にぷるぷると震え、心の底からローラに言った。


「そんなくだらないウソをついてアタシを元気づけてくれるなんて、ローラはとってもいい人だぜなぁ……!」

「ふええっ?!」

「だけど見ればわかるぜな……。ローラは明らかに女神とかじゃないぜな……!

 アタシと同じ一般人で、だけど友だち想いのいい子なんだぜなぁ……!」

「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」


 心からの褒め言葉が、アホのローラを傷つけた。

 追いかけてやろうかとも思ったが、男のバニーや女のバニーが赤のチップと黄色のチップを配り始めたので放置した。チップの数は、赤も黄色も一〇枚ずつだ。

 フォルティナが説明する。


〈赤のチップは、『力の試練』への入場券。

 黄色のは、『知恵の試練』への入場券じゃ。

 この『てぇまぱぁく』に広がる『あとらくしょん』で、チップを一〇〇枚に増やすがよい。

 三時間以内に増やせれば、『塔』に挑戦する権利をやろう〉


「黄色は全部スッたけど、赤で一〇〇枚集めました、とかでもいいんですか?」


〈一向に構わん。

 そもそもこの試練は、人材発掘の意味もあるからのぅ。

 十人までならチームを組んでよいのも、より多くの人材を見るためじゃ。

 願いを叶えてやるためにはマネーが必要となるゆえ、参加費は取るがの〉


 なるほど。


〈そして施設の注意事項じゃが……。

 施設の難易度は、安全なセーフ。痛みを伴うペイン。命も危ういデスのみっつにわかれておる。

 挑む際は、どの難易度に該当するかを確認しておくのじゃな〉


「人材発掘の意味もあるのに、死の危険性も……?」


〈死地に触れることで、覚醒する力もあるからのぅ。

 命が惜しいのであれば、デスには参加しなければよいだけじゃ〉


 もっともであった。

 話を聞いたオレたちは、屋外にでた。


「ふええぇん……」

「勢いのままに泣いて逃げたが、追ってきてもらえなくって悲しい。

 けど自分から戻るのも気まずいローラか。どうしたんだ?」

「そこまでアタシをわかっていながら、放置してたのっ?!」

「HAHAHA」

「放置してごめんぜなあぁ~~~~~」


 叫ぶローラをリンディスが抱きしめ、頭を撫でてなだめた。

 それはさておき。

 ルールをローラに教えとく。


「極寒のペインと危険なデスに、南国のセーフが入り混ざっている感じなのね!

 まずはセーフをやるべきかしら?!」


「そうしたいところではあるが……」


 オレはチラりとあたりを見やる。


『セーフのアトラクションに使われていそうな建物は、コクーンのAとパージのB。

 マーライオンのデルタも可能性は高く、おれはしょうきにもどった!』


『トニーとジョニーは空をゆけ! マイケルとサムソンは東へ走れ!』


 そんな感じのガチ勢が、飛んだり駆けたりしまくっていた。


「なに言ってるのかわからないけど、勢いはすごいわね!」


「このアトラクションに人を集めたからには、ここでなにかするんだろう――。

 って予想を事前に立てて、どんな施設があるのか調べていたっぽいやつらだな」


「なにそれズルい! わたしは非常に卑怯と感じた!」

「それも含めて『知恵』だろう」

「そう言われると、そーかもだけど……」

「カモじゃなくってそうなんだよ。

 実際見ろよ。あそこの行列」

「一〇〇人ぐらいはいる気がするわね……」

「だからやるなら、痛いけれども死なないペインだ。痛いと言いつつもかなりのケガもするだろうが――」


 オレはビシッと言い切った。


「ヒールで治る」


「痛いのは前提?!?!?!」

「頼りにしてるぜ? ローラ」

「アタシにナニをやらせる気ぃ?!」

「大丈夫。どんな痛みもヒールで治る!」

「イヤあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 なんてローラが叫んだところで、ロロナが声をかけてきた。


「ペインのアトラクションを見つけてきたぞ!」

「早いな」

「ケーマ殿が説明を始めた時点で、『ペインのアトラクションに挑むに違いない』と予想できたのでな!」


 ロロナは勢いよく言った。

 ほめてもらいたがっているのがよくわかる。

 オレはロロナの頭を撫でた。


「ふふふ……」


 ロロナはうれしそうだった。

 アトラクションに行ってみる。

 入り口の上には、『魔術師のカード(ペイン)』とあった。


「魔術師のカードか……。

 どんなゲームなんだろうな」


 まぁいいか。

 とりあえず入ってみよう。

 オレはドアをあけて入った。

 魔王の城のような不気味な装飾のついた、細長い廊下。廊下の奥には薄茶色のドア。

 そして悲鳴。


『ぎゃああああああああああああああっ!!!』


「っ?!」

『問題ありません』


 駆けようとしたオレの前に、死神風の男が現れた。


『魔術師のカードで賭けるものは指。先に試練を受けたかたは、それに負けたというだけでございます』


 なんてこったい。


『ドアをあける前であれば、引き返すことも可能でございますが……?』


「もももも、戻りましょう! 指を取られたら痛いわよ?!」

「でも指ぐらいなら、スキルで普通に生えてくるし」

「それはそれでヒトとして問題があると思うけど?!」

「でも受けないと、リンディスが帰れないぞ」

「大丈夫よ!

 リンディスちゃん、なんだかんだこの世界を気に入ってるし!

 ずっと居たいと思ってるはずよ!!」

「ぜなあぁ?!」


 もはや放火としか言いようがない、ダイナミック飛び火であった。

 諦めさせるだけならまだしも、ずっと居たい認定は気の毒だ。


「でも指よ?! 切られたら痛いわよ?!」

「だけどやっぱり帰りたいぜな……。みんなも心配してると思うぜな……。

 賭けるのも、アタシの指にすれば痛いのはアタシだけで……」


 ふたりが議論していると――。


 ガチャッ。

 

 幼女のマリンがドアをあけてた。


(んっ!)


 ごはんは炊いておきました! みたいな子供の顔で、オレを見ている。

 さっきのロロナと同様に、ほめてもらいたそうにもしている。


「実際ナイスだ」


 マリンがドアをあけてなければ、オレがドアをあけていた。

 オレはマリンの頭をポンと撫でつつ、部屋に入った。


 負ければ指を取られる『魔術師のカード』というゲーム。

 上等だ。


 仮に負けても、取ったばかりの新スキル――生活再生の実験ができるので問題はない。

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