大女神の島

 一ヶ月がすぎたころ。

 リリナが宿にやってきた。


「今月のミルクゼリー販売による配当金だ。九〇万バルシーある。確認してくれ」

「ありがとうございます」


 オレは袋の中をタライに入れて、金貨九〇枚を確認した。


「はううっ……」

「どうしたのだ?! フェミル殿!」

「大丈夫です……。

 あまりにたくさんのお金が見えたので、目まいを起こしただけですから……」

「金貨で目まいを起こしている時点で、大丈夫ではないと思うぜな……」


 倒れたフェミルをロロナが支え、リンディスがもっともな突っ込みを入れていた。


(ひー、ふー、みー………。)


 幼女のマリンも、興奮気味に数えている。


(お菓子が、まいつき、買える………です。)

「本当におカネね! 今日からずっと、なにもしないでこのおカネが入ってくるのね?!


 まさにアタシの理想の生活! 極楽国士無双だわ!」


「それはどうなんだろうなぁ」

「どーいうこと?」

「ミルクゼリーは、販売した直後だからな。物珍しさで買われてる部分もあるんだよ」


 新装開店した喫茶店などで、よくあることだ。

 最初は物珍しさで人がくる。しかし珍しさ補正なので、店そのものに魅力がないとリピーターがこない。


「確かにその可能性はある。だが逆に、規模が大きくなる可能性もあるぞ?」

「そうなるといいですねぇ」

「そこは大丈夫よ! ケーマには、アタシがついてるんだから!」


 だから心配なのである。


「しかしこれだけのカネがあれば、新しい家も買えるな」

「えっ?」

「家のためにカネを稼いでるのではなかったのか?」


 忘れてた。

 そういや最初の目的は、そんな感じであった気がする。


「今は違うのよ!

 リンディスちゃんのために、『力の塔と知恵の塔』に挑戦する予定なの!」

「どういうことだ?」


 ローラは事情を説明した。


「そういうことか……」

「やさしいでしょケーマって! えへへぇー」


 ローラは満面の笑みで、オレを称えて自慢した。

 こういうところがあるので、なんだかんだこのアホが嫌いではない。


 そんなこんなの流れがあって――。


 オレたちは、ワイバーンの背中に乗っていた。

 リリナから軍資金も借りて、目的の島へ向かってる。

『サラマンダーより、ずっとはやい!号』という謎の名前がついたワイバーンで、とある孤島を目指してる。

 その島に向かう定期便的な竜であり、プロの御者さんが操縦している。


「しるどらのほうが早いぜなー!」


 リンディスが、自分のシーサーペントに乗って突き進む。

 実際速くて見えなくなった。

 でもすぐに戻ってきた。


「どうした?」

「道がわかんないぜなあぁ……」


 アホの子だった。


「ちなみにどういう島なんだ? ローラ」

「ついてからのお楽しみよ!」

「そうか」


 しかし話を聞いた限り、大女神なる存在がいる島だ。

 ならばその女神の敬虔なる信者が集う、神秘的な島なんだろうな。


 とか思っていたわけですが。


「「「幸運をつかさどる大女神フォネティナ様が治めるギャンブルの島――フォロスランドへようこそー!」」」


 ついた島は歓楽街。

 ワイバーンを降りるなり、際どい姿の獣人さんが、オレたちを迎える。

 バニースーツを着込んだウサミミのおねーさんがいれば、上半身になにも着てないイケメンマッチョのおにーさん(トラの獣人)もいた。


「どうしてアンタまで……?」

「人はおっぱいを求めると同時に、雄のぱい――雄っぱいも求めるものです」


 趣向自体は否定しないが、『人は』と主語を広げないでほしい。

 ロロナがぽつりとつぶやいた。


「しかしこの肉体は、実際中々の魅力が……」


 まさかの理解者?!

 身近にいるとは思わなかった!


「いや、もちろん、ケーマ殿が一番ではあるぞ?!

 ケーマ殿こそが、理想で至高で最高ではあるぞっ?!」


 そう言ってもらえるとうれしい。


「ほら、行くわよ、ケーマ!」


 ローラがオレの腕を引っ張り進んだ。


「怒ってるのか?」


「怒ってるって言うか……。なんか腹立つのよ。

 ロロちゃんやフェミちゃんあたりなら気にならないけど、完全に他人の子まで見る必要はないじゃない」


 地味にヤキモチを妬いていた。

 かわいい。

 ワイバーンが降りた丘をくだると、フォルスランドの街並みが見えた。

 黄金の噴水の周りを七色の魚が飛び交い、昼間から酔っ払いが騒ぐ。

 噴水の中央には、やはり黄金で作られた女神像。


「アレがここの女神か」

「そうよ! 大女神フォルティナ様!」

「しかし大女神ってわりに、どうしてギャンブルの島なんてものを……」

「それは……。説明するより見たほうが早いわね!」


 ローラはオレの腕を引き、カジノの中に案内した。

 煌びやかな店内で、ルーレットやトランプ、ダイスゲームに興じている者たちがいる。


『お願いしますフォルティナ様、3のカードを。3のカードを……!』

『八連続で赤がでた。そろそろ黒がでてもいいはず……。お願いします、フォルティナ様……!』

『うおおおおおおおおおおおおお!

 ありがとうございますフォルティナ様! ありがとうございますうぅ!!!』


「わかった?

 ギャンブルで勝った時以上に、神様に感謝する人なんていない!」


 最高の正論にして、最低の発想だった。


「いやでも、負けた場合はどうなるんだ? メチャクチャ恨まれる気がするぞ」


『頼む! 頼むうぅ!

 ドンケツテイオー! お前に最後の軍資金を賭けてるんだ! ドンケツテイオーーー!!』


 男が見ている視線の先では、競馬場めいた空間で、ニワトリたちがレースをしている。

 ドンケツテイオーなるニワトリは、途中ですっころんでドンケツになった。


『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

『あの男……信心が足りなかったか』

『フォルティナ様を信じ切る心があれば、負けることはなかったであろうに』

『フォルティナ様を信じなければ……』


「という感じよ!」

「エゲつねぇな」

「そしてたくさん負けた人には、フォルティナ様の信者がごはんをあげるわ!

 だから負けた人も、最終的にはフォルティナ様に感謝するのよ!」


「ゆりかごにいた前向きな奴隷を、墓場の中にダンクシュートか。

 超エキサイティングにもほどがあるぞ」


 女神というより邪神臭いぞ。


「あとはね……。こっち!」


 ローラはオレを、別の施設に案内した。


『決まったあぁーーーーーーーーーーーーーー! マッスル・コングマンのマッスルラリアットォ!

 挑戦者ダウン、立ちあがれない!

 ワン・ツー・スリー……』


「一攫千金を夢見て破産した冒険者を、ああやって再就職させたりもしてあげてるのよ!」


 ますますもって邪神じゃないか。


「色んな人に夢を見させて、

 でも夢破れた人を見捨てたりもしない。まさに女神の理想形ね!」


 コイツが褒めているというのが、まさに邪神の証明臭い。

 しかしうまくできている。

 確かローラら女神の力は、信者たちの信じる心だ。

 信じる心が神の力となるのなら、これほど効率のいい集め方はない。


「それはそれとしてどうする?!

 せっかくカジノきたんだし、ちょっとやってく?」

「使うのはダメだぞ。塔に挑むための資金なんだから」

「大丈夫よ!」

「どうしてそう思う」

「勝つから増えるもん!」


 不安しかない。


「それにケーマなら、知ってるんじゃないの?

 ギャンブルの必勝法!」

「絶対に負けない方法なら知ってるぞ」

「ホント?!」


「まず第一に――『いくらまでなら使っていいのか、上限を決める』

 今回は……三万バルシーとしておくか」

「うん!」

「その次に、三万バルシーで買いたいものを考える」

「お菓子とかおいしいものとか……。色々とあるわね!」

「それを買って満足する」

「それからっ?!」


「以上だ」


「ギャンブルしてなくないっ?!」

「だから言ったろ? 『絶対に負けない方法』だって」

「確かに負けてはいないけど……。騙されたって感じが国士無双よ!」

「HAHAHA」

 

―――コミカライズのご報告―――

先々週もお伝えしましたが、この作品のコミカライズが始まっております。

http://futabasha.pluginfree.com/weblish/futabawebact/Taberu_001/index.shtml?rep=1

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