ミルクの花の採取

――前回のあらすじ――


ミルクの花という甘い花のため、ケーマたちは空賊を倒した。

その空賊は、異世界からきた少女。

元の世界に帰りたいと泣きじゃくる彼女のために、ケーマは協力してやることにした。

――――――――――――



「まぁケーマが言うなら仕方ないわね! この国士無双に偉大なるアタシも、ひと肌脱いであげるとするわ!」

「脱いでくれるのか?」

「もちろん!」

「よしっ!」


 オレはローラの上着を脱がせた。


「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 真っ赤になってしまったローラは、巨乳を慌てて胸で隠した。


「なにやってんのよっ! ばかっ! ほんとばかっ!」

「ひと肌脱ぐって言ったら、こういう話を連想するのがお約束かと思って」

「連想する人はいても、本当に脱がす人は聞いたことないわよっ?!

 どんな新時代に生きてるのよ! ケーマのばかっ!」

「HAHAHA」

「トンデモナイ人間に保護されてしまった気がするんだぜなぁ……!」


 それはさておき。


「異世界からきた人間を戻すのって可能なのか?」

「国士無双に難しいけど、アタシとケーマならできるわ!」

「どんな感じでやればいいんだ?」


「大女神様が管理している『力の塔』と『知恵の塔』をクリアすれば、異世界とのゲートを繋ぐことができるわ!」

「それはすごいな」

「『力の塔』はケーマなら大丈夫だし、『知恵の塔』はアタシが担当! 完璧ね!!」

「知恵の塔をお前が……?」

「担当ね! 国士無双の適材適所よ!」


 もうだめだ。


「すまんなリンディス。お前を元の世界に戻すこと、できそうにない」

「ぜなぁ?!」

「だいじょーぶ! ケーマなら、力の塔も突破できるわ!

 怖気づくなんて、らしくないわよっ!」


 ローラはぎゅっと拳を握り、オレを励ましてきた。

 自分の頭が悪いとは、一ミクロンも思っていない。

 このデンジャラス駄女神は、自分の頭の悪さを知らない。

 軽く絶望案件なのだが、仕方ない。力の塔も知恵の塔も、オレが攻略すればいい。

 オレが参加できなかったとしても、ロロナとフェミルをつけておこう。


「大女神の試練を受けるためには、なにがいるんだ?」

「大女神様に、気持ちと誠意と実力を見せること! 即ち――――」

「即ち……?」


「おカネよ!」


 即答だった。


「おカネをあげてもいいという気持ち! おカネを稼げるという実力!

 その両方を見せることで、試練を受けることができるの!」


 シンプルだけれど、うぉいと思った。

 目的はわかるが、それにしてもカネっていうのは。

 そもそも気持ちと実力を見るために、力や知恵の塔があるんじゃないのか?


「この世界のおカネって、魔力のこもったマジックアイテムでもあるからね!

 ある程度は積まないと、ゲートを開くに開けないのよ!」

「そっちを先に言えよ!!」


 しかしそういう話なら、『まずはクラゲで一発当てる』の方針は変わりそうにない。

 不意にミルキィが叫ぶ。


「空! 空を見てくださいですよぉ!」


 ぼたん雪が降り始めていた。手のひらに落ちてきたそれを、チロりと舐める。

 ほんのりとしたミルク味。


「このほんのりが、花に吸われることで凝縮されて濃厚な味わいになるわけか」

「そういうことですよぉ! おいしいんですよぉ! 花の収穫をするですよぉ!」


 ミルキィが花を採る。


「わたしも手伝おうか?」

「ありがとうですよぉ! ロロナさん! コツがあるので、教えますよぉ!

「礼を言う」

(とてとてとて。)


 ロロナが小さく頭をさげて、ミルキィについていく。

 興味を持ったらしいマリンも、ロロナの後ろについていく。


「採取そのものは簡単です。まずはこうして、上のほうを取るですよぉ」

「ふむふむ」

(こくこく。)

「ただ採るときは、このサンプルよりも大きい花を採るですよぉ」

「なぜだ?」

(………?)


 ロロナとマリンが首をかしげる。


「大きい花は、栄養を独占しているですよぉ。

 だから採ってやることで、ほかの花へ栄養が行きわたるですよぉ。

 あとは単純に、甘みが強くておいしいですよぉ」


「一本の矢で二羽の鳥を落とすかのごとき合理性だな」

(すごい………です。)


 かわいい子たちが和気藹々としている姿は、とても絵になる。


「この花って、栽培はできないのか?」

「やったことはありますが、味がダメになりますよぉ。

 ここの土とミルクの雪以外で育てると、普通の土の味や水っぽさがでてしまうですよぉ」

「土とミルクで育てたのか?」

「森の外での栽培となりますと、自然とそうなるですよぉ」

「なるほど……」

「この森で採るしかないってことね!」


「土と水で育ててダメなら、土も水も使わなければできるかもって考えろよ」

「なにわけわかんないこと言ってるの?! ケーマばかなの?! おばかさんなの?! 偉大なる知の女神のアタシに比べれば劣るのは仕方ないけど、それでも頭はいいほうだと思ってたのに…………ふみゅうぅ~~~~~~~~~~」


 オレは駄女神のほっぺたをつねった。

 コイツに知能がどうとかは言われたくない。

 フェミルが小さく手をあげた。


「水はミルクを使うにしても、土も使わないのは流石に無理だと思いますが……」

「そうとも限らないさ」

「ケーマさんがおっしゃるのでしたら、できるのかもしれません……。

 わたしにも、できることがあれば言ってください!」

「フェミちゃんいい子ね! アタシもフェミちゃんの気持ちに免じて、特別に見守ってあげるわ!」

「なんで上から目線なんだよ」

「ふみゅうぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 ただオレが考えていることをやるためには、設備投資が必要になる。

 資金については、ロロナの姉のリリナを説得すればどうにでもなる。

 しかしリリナは商人だ。

 無償でカネを出してと言っても、出してはくれない。

 ミルクの花とゼリークラゲの、商品価値をアピールしなくてはいけない。


 どのような販売戦略を練るか。

 それは腕の見せ所だ。

 あらゆる広告にまみれて生きてきた、ジャパン人の力を見せてやる。

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