空賊退治と彼女の事情

 キノコタケノコの戦いも終わり、オレたちは森を抜けた。

 ローラが感嘆の声を漏らす。


「みゃあぁ……!」


 視界に広がるのは、切り立った美しい丘の上に咲く、一面の白い花。


 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 ことりのさえずり。

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 あたたかな日差し。

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 いちめんの白い花

 

 っていう感じだ。


「綺麗な景色ね! 女神言語でビューティフルって感じだわ!」


 ビューティフルは英語のはずが、駄女神に乗っ取られていた。

 と言いつつも、この駄女神が実際どんな言葉で話しているのかは、よくわからないのだが。

 言語を翻訳してくれるこんにゃくとか魔法とか、ファンタジーにはよくあるし。

 細かく聞けばわかるのかもしれないが、オレは気にしない性格だ。

 ごはんがおいしくおっぱいがやわらかければ、ほかのことはどうでもいい。


 あとはお尻も大切か。

 オレはローラの尻を撫でた。


「きゃああああああああああああっ!!!」


 ローラは自分の尻を押さえて、真っ赤になって飛びあがった。


「なんでフツーにさわってるのよ! ケーマのえっち!

 さわる前には、ちゃんと言いなさい!」

「言えばさわらせてくれるのか?」

「す……すこしだけなら……よ?」


 こういうところは普通に女神だ。

 オレはしっかり宣言し、おっぱいをさわらせてもらった。

 むにゅむにゅむにゅ。

 ローラが痛くならないようにやさしく撫でるように揉みながら、白い花を見た。


「ちょっとばかり元気がないな」

「ミルクの雲のミルクの雨が、降っていないせいですよぉ……」

「その雲は、空賊が取って行ってしまうって話だったが……」

「雲も空賊も、まだ出ていないみたいですねぇ」

「待つか」


 オレはローラから手を放す。


「アイスニードル――を応用して……! シャベル!」


 氷でシャベルを作りだし、白い雪を積みあげる。

 そしてカマクラを作った。


「よし」

「なにが『よし』なの?」

「この中はあったかいんだ。ホットチェリーも食べはしたけど、長居するならせっかくだしな」

「冷たい雪を積みあげたホラ穴が、あったかいわけないじゃない!

 アタシは頭いいんだからね! 騙されないわよっ!」


 ローラは頭が悪かった。


「も……もっともケーマが、入ってくださいお願いしますって頼むなら、考えてあげないことも…………」

「入りたくないならそれでいい。オレは入る」

「ふえっ?!」


「ケーマ殿が言うのであれば……」

「半信半疑ではありますが、せっかくなので入ってみるですよぉ」

「わたしも……」

「ふえっ?!?!」


 ロロナやミルキィ、フェミルも入ってきた。


「これで全員入ったな。アイスニードル」


 オレはアイスニードルで鉄格子を作り、ローラが入れないようにした。


「ふえぇんっ?! ちょっ、ケーマ! ケーマあぁ!!」


 ローラは囚人のように鉄格子を握りしめ、必死になって手を伸ばす。


「別に入りたくなんかないんだけど、仲間外れはさびしいぃ!

 ふえぇんっ! ふえぇぇぇぇんっ!」


 アホのローラは、アホの鳴き声をあげた。

 やれやれだ。

 オレはアイスニードルの格子を外した。


「ふえぇん……」


 ローラは中に入ってくる。


  ◆


 その日は空賊がこなかったので、カマクラの中で寝た。

 ホットチェリーを食べていたので、凍死などもしなかった。

 そして次の日の朝。


「ケーマケーマ! 外! 空! ふえぇん!」


 ローラが謎の言語を交えながら、オレの体をゆさぶった。

 外にでる。

 メルヘンなスタイルの雲が、空にぷかぷか浮かんでた。数は八。


「なんか近くない?!」


 確かにローラが言う通り、雲の位置が近い。

 そのメルヘンな雲は、普通のマンションの屋上ぐらいの位置にある。


「これがミルクの雲ですよぉ! ミルクの分だけ重いから、低いところにできているって言われているですよぉ!」

「そうなのか」


 と――そこに。


「今日もあるぜな! 全部取るぜなー!」


 白いシーサーペントに乗った女が、雲に向かって飛んでいた。

 紫がかったロングヘアーに、セーラー服めいた服を着ている。頭の両脇についている羽が、そこはかとなくファンタジーだ。

 白いシーサーペントが、雲を食べようと口を開く。


「アイツが空賊なんですよぉ!」

「アイスニードル!」

「ぜなぁ!」


 女は魔法をかろうじてかわす。

 しかしバランスを崩した。

 殺虫剤を食らったクワガタみたいにポトリと落ちる。


「いきなり何するんだぜなー!」

「その雲は、ここに咲いている花の栄養なんだ。取っていくのはやめてくれ」

「そんなこと知らないんだぜなー! ちゃんとした理由があったとしても、素直に言うことを聞くのはシャクなんだぜなー!」


 女はドンッと突っ込んできた。


「腕に覚えがあろうとも、上には上がいること教えてやるんだぜなっ!

 すべてを飲みし深き渦、汝の闇は闇より深し――――」


 突っ込んでくる女の槍が、蒼い輝きに包まれる。


「気をつけてくださいですよぉ! このわけのわからない女、正直メチャクチャ強いですよぉ! Aランク冒険者のロロナさんでも、一対一では危ないですよぉ!」


「アタシの邪魔をしたこと、後悔させてやるんだぜ――――なぁーーーーーーーんっ!!!」


 そしてパンチで吹っ飛んだ。

 オレのアッパーでコマのように回転し、地面にどさりと落ちてしまう。


「弱かったな」


「今の攻撃のスピードは、そう簡単に見切れるものでもなかったと思いますが……」

「わたしでも回避はできん。受けることも、できたかどうか……」

「アタシはまったく見えなかったわ!」


 フェミルとロロナがつぶやくと、ローラがえっへんと胸を張った。

 なんで一番ショボいのに、こんな一番偉そうなんだろう。

 まぁいいか。

 そんなことより、空賊を捕まえ…………。


「って、いない?」

「しるどらー! しるどらー!」


 女はシーサーペントの名を呼び、駆け寄っていく。


「あの男、関わっちゃいけない系だぜなー! とっても、いっぱい強いぜなー! 

 強い相手と雨と風には、逆らわないのが一番だぜなー!」


 先刻の威勢が大ウソのような、神速の『逃げ』だった。


「あそこまで行くと、一周まわって国士無双ね! 清々しいわ!」


 ローラが謎の評価をしていた。

 ローラに評価されるってことは、重度のダメ人間なんだろうな、とは思った。

 しかし逃げられてしまうのも困る。オレは雪玉を作り、女に向かって投げつけた。


「ぜなぁんっ!」


 玉は女の尻に当たると、女の体をずっこけさせた。


『くるうぅ……』


 〈しるどら〉と呼ばれたシーサーベントは、動くに動けず悲しんだ。

 オレは女を縛りあげた。


   ◆


「ぜなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」


 縛られた女は、わんわんわぉんと泣きじゃくる。


「こんな異界で死にたくないぜなー! イヤだぜなー! 元いた世界に帰りたいぜなあぁーーー!!!」

「元いた世界?」

「アタシの名前はリンディス=アマクサ! 強くてかっこいい海賊だぜなー! それが嵐に巻き込まれて、気がついたらこんなところにいたんだぜなー!」

「雲を取ってたのは?」

「甘くておいしくて、しるどらも喜んで食べてたから栄養にさせてもらってただけだぜなー!」


 ぺらぺらと答えたリンディスという空賊は、『帰りたいぜなー!』と泣き叫んでる。


「なぁローラ。

 コイツがウソ言ってるかどうかって、お前の力でわかったりしないか?」


 ローラはリンディスの頭を掴み、においをくんくんと嗅いだ。


「異世界からきたってのは本当ね! 違う世界のニオイがしてる!」

「呼ばれてきたのか?」


「どちらかと言えば、漂流者だと思うわ!

 神様の色がついてないもの!

 強いエネルギーで割れた空間の隙間に、吸い込まれちゃった系だと思う!」


「戻してやることはできないのか?」

「戻してあげるつもりなのっ?!」


「放っておくと悪さする。かと言って、牢屋にぶち込むのも目覚めが悪い。

 元の世界に戻してやるのが、みんなにとって平和だろ」


「いい人なんだぜなあぁ~~~~~~~~~~~~~~~」


 リンディスは、ヽ(TдT)ノな顔で涙を流した。


「ほんとアタシ以外には、国士無双に紳士的ね……」


 ローラはジト目でつぶやいた。


「まっ、まぁ、ほかの子にもひどいよりはいいけど?!」


 だがしかし、そのほっぺたは赤かった。

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