砂糖の森とあまいお菓子と悲しい戦争
「ふえぇん……。すごぉい……。
純白の白いホワイトフォレスト・森って感じぃ……!」
描写としては間違っていない。
しかし最高にアホっぽいのは、安定のローラだ。
「しかもなんだかひんやりしてる!
頭のいいアタシは知っているけど、『雪』ってやつよね! たぶん!」
オレはシュガーフォレストの前に立ち、白いところに触れてみた。
それはふんわりとしてひんやりで、確かに雪のようであった。
ただしいわゆる雪よりは、いくらか温度が高い感じだ。冷蔵庫で冷やしたコーラぐらいの冷たさだ。
(はぐはぐはぐ。)
(はぐはぐはぐ。)
ローラとマリンがオレの隣にしゃがみ、雪を食べてた。
「ふえぇ~~~~~~~~ん」
(~~~~~~~~~~~~。)
そして頭がキイィンとしたのか、ふたりそろって(><)な顔で震えていた。
「実際これは、雪ですよぉ。
何日かに一回の寒い日に、空から降ってくるんですよぉ」
流石は異世界だな。
空から降ってくる雪まで甘いとは。
雪というには、『冷たい』ではなく『ひんやり』で止まっていて気になるけど。
「フフフフ……ケーマさん。空から降ってくるものは、雨水のように甘い。
業界の常識ですよ?」
そんな業界は知らない。
「ふえぇん……へっくちゅ!
さむいぃ、けど甘いぃ、おいしいぃ~~~~~。
ここにお菓子のおうち建てたぁ~~~~~い」
ローラは犬のように四つん這いになって、甘い雪をペロペロ舐めてた。
自ら四つん這いになって、地面の雪を舐めてる女神。
常識で言えば最悪だけれど、ローラなら納得だ。
「よいしょ……」
「雪を拾ってなにやってんだ?」
「ここのモンスターは強いですよぉ。体に雪をこすりつけて、ニオイを消すとよいですよぉ」
「なるほどなぁ」
オレは雪を掴むと、ローラの背中にドサッと入れた。
「きゃあああああああああっ!!!」
「必要なことなんだからガマンしろ」
オレは掴んだ雪を、ローラの顔にぶち当てた。
「へぶうっ!」
ローラの顔が、パイ投げでも食らったかのように白くなった。
オレは再び雪を掴むと、今度はローラの頭に被せる。
美容院のシャンプーの要領で、ローラの頭をやさしくこすった。
時に強く時にやさしく、指の腹でマッサージをするような感覚だ。
「ふえぇん……。ひゃっ♥。
冷たくってひんやりするけど、ケーマの指が絶妙で……♥
気持ちイ……♥♥」
頭をいじられているローラは、恍惚の表情を浮かべた。
(くい。くい。)
幼女のマリンが、オレの服の裾を引っ張る。
(じー………。)
「してほしいのか」
(こくっ。)
オレはローラに馴染ませたあと、マリンにもしてあげた。
(んっ………♪)
マリンは気持ちよさそうだった。
フェミルやロロナも並んできたので、順番にしてあげた。
「なんだかうらやましいですよぉ……!」
ミルキィにもしてあげた。
「こ……これは、クセになりそうな指使いですよぉ……!」
満足されたようで何よりだ。
「と、と、ところで、さ、さ、さ、さ、寒いんだけどっ?!」
ローラが自身の肩を抱き、ガクガクと震えた。
「ホットチェリーがよいですよぉー。体がぽかぽかするですよぉー」
「そうなのか」
「ケーマケーマ、あぁーんっ!」
ミルキィがローラに差し出したチェリーを、オレは手に取りローラに食わせた。
「舌の上に乗せた瞬間、つるんっとした舌触りがして、噛んだらプツッと弾ける甘み……おいしいぃ~~~~~!」
オレもひと粒食べてみた。
確かにうまい。缶詰とかにある、小さいさくらんぼっぽい味だ。
てれれ、てってってー。
レベルもあがる。
ステータスはさほどあがらなかったが――。
◆習得スキル
ぽかぽか LV2 20/150
◆スキル解説・ぽかぽか
相手の体をぽかぽかさせれる。
クールな女の子に食べさせれば、『あなたといるとあったかい。ぽかぽかする』とか言ってもらえる。
やったぜ。
効果はとてもわかりやすいが、解説文が珍妙だった。
便利そうではあるのだが。
(くい。くい。)
幼女のマリンが、さっきと同じくオレの服の裾を引っ張る。
口を小さく、あーんとあけた。
ローラにも懐いているマリンは、ローラのマネをしたがることも多い。
さくらんぼを食べさせる。
(んっ………♪)
マリンは幸せそうだった。
幼女の笑顔は普通に和む。
オレたちは進む。
真っ白いシュガーベアーやシュガーイノシシなどが遠くに見えたが――。
(ナワバリに入ったり、ニオイや音で刺激しなければ大丈夫でーすよぉ)
という声に従って移動してたら、襲われることも特になかった。
猛獣がいるエリアを抜けて、普通にしゃべってもよいエリアに入る。
「ねぇねぇケーマ、ふしぎなものある!」
「これは……キノコか?」
チョコのような本体に、白いシュガーがかかったキノコだ。
おいしそうな見た目をしている。
が――。
タケノコもあった。
キノコから十メートル離れたあたりに白い竹林のような一帯があって、タケノコが生えていた。
キノコとタケノコがこんなに近くに……?
"ハードラック"と"ダンス"っちまったかのような、"イヤな予感"がヒシヒシするぜ……。
「ねぇねぇケーマ! 早く早くぅ!」
「待ってください!」
フェミルがローラを止めに入った。
「ふえ?」
「これは『キノコ』です! それも普通の『キノコ』ではありません! お菓子のキノコです!」
「見ればわかるわ!」
「そしてアレは『タケノコ』です! それも普通の『タケノコ』ではなく、お菓子の『タケノコ』です!」
「それもやっぱり、見ればわかるわ!」
「キノコもタケノコも、単体で見ればおいしいものです! しかしふたつを同時に食べると……」
「食べると……?」
「死にます!!!」
「ふええっ?!」
「ひとつひとつは問題ありませんが、ふたつを体に入れてしまうと、激しい爆発が起きて死にます!!」
「どういう理屈でそうなるのっ?!」
「それが世界の選択です!」
「フェミルさんの言葉は、正しいですよぉ。
『キノコ』と『タケノコ』は、いっしょに食べたらダメな食べ物なんですよぉ」
「どういう理屈でそうなるのおっ?!」
「それが世界の選択だ……。ラ・ヨーダソウ・スティアーナ……」
「何言ってるのよケーマ! っていうかその呪文なにっ?! 意味わかんないんだけどっ?!」
「キノコ、タケノコと言葉が続けば、次にくるのは戦争だ。
古事記にも聖書にもキリストの顔にも、それは明記されている。
ヨーダソウ・スティアーナ……」
「語尾なのっ?!
そのわけわかんない呪文は語尾なのっ?!」
ローラは必死に叫んでた。
「で……でも、どちらかしか食べちゃいけないってことはわかったわ。
それならどっちがいいのかしら」
「タケノコだな」
「タケノコです」
「タケノコですよぉ」
「三人一致?!」
「当り前だろう」
「当たり前です」
「そんなの世界の常識ですよぉ」
「ふえぇん……。わけわかんないぃ……」
「とりあえずタケノコを食えよ」
「そうですね。とりあえずタケノコを食べるべきです。そしてキノコを滅ぼしましょう」
「タケノコを食べてキノコを滅せば、世界はタケき輝きに満たされるですよぉ」
「フェミちゃんまでおかしいのが辛いっ!
ケーマがおかしいのはいつものことだけどおぉ!!」
ローラは泣きながら逃げた。
ドンッとロロナにぶち当たる。
「ロロちゃん! あなたはフツウ?! まとも?! ノーマル?!」
「まさかケーマ殿に、剣を向ける日がこようとは……」
「まともじゃなかったあぁーーーーーー!」
「キノコ派なのか……?」
「世界にキノコ派は少ない……。圧倒的に少数派だ……。
キノコ自身、その勢力はタケノコを下回る……。
キノコ、タケノコと言っているが、実のところは圧倒的な魅力と人気を誇るタケノコに、身のほどを知らんキノコが抗っているに過ぎん……」
「そこまでわかっていて、どうして……」
「だから他人とは思えんっ! キノコはわたしだ! わたしの過去だ!
ひとりがさびしく友達がほしくて仕方なかった、ぼっちのわたしそのものだ!」
「どれだけキノコを想ってるのよおぉ!」
「戦うしかないのか……」
「つらいです……。同じケーマさんを想う仲間として、ロロナさんが好きですから……」
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ! 待って待って待ってぇぇぇぇぇぇ!
こんなの絶対おかしいから! こんなの絶対おかしいからあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ローラの悲鳴が、白い森に響き渡った。
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