ロロナちゃんの黒歴史~鉄血のブラックバーサーカー~

 前回までのあらすじ

 屋敷を買いたいと思ったが、野生のクラゲ(宙に浮く)で住める状況ではなかった。

 しかしクラゲを食べることができるなら、クラゲを売った代金で新しい家が買える。

 色々な食材と混ぜ合わせたところ、『ミルクの花』という花と混ぜると上質な杏仁豆腐のようでおいしかった。

 しかしミルクの花は、悪いやつのせいで取れなくなっているということで――。


 ケーマは花売りの少女ミルキィのため(建前)

 そして自分の欲望のため(本音)

 悪いやつと拳で話し合いをしにいく!


 次回、「拳を使ったら話し合いじゃなくないっ?!」


――――――――――――――――――――――



「と――いうわけで馬車か」

「砂糖の森の手前には、お砂糖の村――シュガーレストの村がありますですよぉ」

「村の名前まで砂糖なんだな」

「砂糖があるから村ができた、という部分もありますですよぉ……ですので」

「なるほどな」

「ねぇケーマ! なんか色々すごいんだけど?! どうする?! どれに乗る?!」


 ローラがやたらはしゃいでた。

 でもわかる。

 一番多いのは馬車だけど、それ以外も多いのだ。

 小型の走りドラゴンが引く『竜車』とか、チョコルというモフモフの鳥が引く『鳥車』、ワニがソリを引こうとしている感じの、『ワニ車』なんてのもある。


「ミルキィは、いったいどれを使ってるんだ?」

「くるときは竜車で、帰るときは鳥車ですよぉ」

「妥当な選択だな」


 うなずいたロロナに、オレは尋ねる。


「そうなの?」

「竜車は戦闘力が高い。

 スピードもそこそこにあり、火を吐くこともできる。

 山賊や並みのモンスターが寄りつかず、安全に積み荷を運ぶことが可能だ」

「でも高いんですよね……。片道だけで、わたしの食費の半年分にはなります……」


 フェミルがぽつりとつぶやくが、あまり参考にならなかった。

 なにせこの子は、そのへんに生えている雑草や雨水で過ごしている。パンも食べることはあるらしいが、それがどのくらいなのかもよくわからない。

 ロロナが解説を続けた。


「一方の鳥車は、単純に速くて火も吐ける。

 積み荷などは運べんが、単純に移動するならこれが一番だ。」

「ワニが引いてるソリみたいなやつは?」

「あのソリは水に浮く。さらにやつらは火を吐ける上に、意外と速い」


 そういえば地球のワニも、時速四十キロで走れるとか聞いたことあるな。

 しかし乗り物の説明に、逐一『火を吐ける』って文面があるのはどうなんだろう。

 この世界で『火を吐ける』は、教養のようなものなんだろうか。以前に戦ったニワトリも火を吐いていたし。

 なんて風に思っていると――。


「ケーマケーマケーマ! アタシあれがいい! あれに乗りたい!」


 ローラがオレの服を引き、熊車を指差した。

 ツキノワみたいなかわいい熊が三頭に、アライグマのようなかわいい熊が六体もいる。

 意味もなくうろうろとしていてかわいい。


 子守熊と書いてコアラと読みそうなコアラ熊が、ツキノワグマみたいな熊におんぶしていたりもする。

 かわいい。


 小さな熊と視線があった。∩(・(エ)・)∩クマー って感じであいさつされた。

 かわいい。


「アレは……?」

「熊車だ。

 移動は遅いが力は強く、数が多い分だけたくさんの火を吐ける」

「あいつらも吐くのっ?! っていうか移動手段の生き物の話で、『火を吐く』を重視する意味ってなに?!」

「そう言われると困るのだが……。『そういうもの』であるとしか……」


 謎の論理が発生していた。


「もちろんそれだけではないぞ?! 熊車には、ほかとは違う長所もあるのだ!」

「長所?」

「それは……」

「それは?」


「かわいい!!!」


 えええっ?!


「力が強くて火を吐ける。竜者の二十倍の価格がする上にかわいい。動きが遅い点を除けば、完璧な移動手段であると言えるだろう」


 ウジムシサイズのメリットに、恐竜サイズのデメリットがくっついていた。

 存在理由を疑ってしまうレベルでいらない。

 なんて風にも思ったが――。


 (オレの視線)→(ローラ)


 人のこと言えなかった。


 ローラを養ってしまっている以上、なにかを言うとトマホークブーメランになって返ってくる。それもただのトマホークブーメランではない。トマホォォォォォク、ブゥメラァンッ!と、人を殺せる勢いのトマホークブーメランだ。オレは死ぬ。


「一応補足しておくと、熊車は主に貴族が使う。つまり『高い』ということは、メリットであってステータスなのだ」


 なるほど。

 それはさておき、そういうことなら――。


「鳥車に乗って行くとしようか」

「ふえええっ?!」

「かわいいのは魅力的だけど、遅いのは困るだろ」

「確かに遅いと、旅が長くなるものね……」


 納得の仕方が微妙にバカっぽいか、納得してくれたならよしとしよう。

 オレたちは、カネを払って鳥車に乗り込む。

 鳥車は馬車などと違い、野晒しのリアカーだ。

 あくまでも、人を運ぶという目的に特化していることがわかる。


「では行きますよ。捕まっていてください」


 御者のおっさんが言ったので、オレたちは端に捕まった。


「クエー!」


 鳥が吼えて鳥車は進む。

 なかなかのスピードだ。


「気持ちいぃーー!」

「そっそっ、そうです……ね」

「たまには悪くないな」


 ローラが満面の笑みで言い、フェミルは軽く震えてうなずく。ロロナは穏やかな笑みを浮かべて――。


(ふううぅ……)


 幼女のマリンがオレに抱きつく。

 完全に怖がっていた。

 体が小刻みに震えている。

 ロロナがハッと気づいて言った。


「恐怖を感じていると言えば、ケーマ殿にくっつくことができたのか……!」


 基本的に優秀で冷静なロロナだが、時たま残念な子になる。

 そうこうしているうちに、目的の村についた。

 村と呼ぶにはやや大きいが、街と呼ぶには明らかに小さい。

 そんな感じの村だった。

 ミルキィが、とある家に入る。


「長老、こんにちはー、ですよぉ!」

「ミルキィか。ミルクの花はどうだったかね?」

「全部売れたでーすよぉ! 一割取っていってくださいです!」  


 ミルキィは、金貨が入った袋をテーブルの上に置いた。


「うむ」


 長老は金貨を数えると、一割抜いてミルキィに返した。


「して……後ろに連れている方々は?」


 オレは言った。


「ミルクの雲を取ってしまうという空賊と、話し合いに参りました」

「話し合いができるような輩ではなかったと思うが……」

「そんなことはありません。拳を込めて丹念に殴れば、必ずわかりあうことができます」

「拳を込めて丹念に殴る?! それはただの暴力じゃろうっ?!」

「ハッハー!」


 オレは笑って誤魔化した。


「トンでもない存在を連れてきたのぅ……」


 ミルキィは、両手をパタパタ振って叫んだ。


「でもでもでもっ、実力は確かなんですよぉ!」


 ロロナのことをチラと見る。


「わたしのギルドカードは、このような感じだ」

「ロロナ=ハイロー…………もももももしやっ、黄金平原五大幹部のひとり、鉄血のブラックバーサーカー様でっ?!」


「そ、そう名乗っていた時期も、ないことはなかったが……」

「黒いマスクに黒い手甲、黒い軽ヨロイなどで身を固め、使用する剣の鞘も黒!」

「そのような格好をしていた時期も、なかったとは言わないが……」

「ただひとつ、剣だけが銀色に輝き『黒ではないわたしを見た者は死ぬ』という言葉を――」

「言っていた時期も、ないことはなかったがあぁ!!!」


 村長の解説は、ロロナの心臓にダメージを与えた。

 オレもフェミルも、なんとも言えない顔でロロナを見てしまった。


「かっこいい……!」

(です………!)


 ただふたり、ローラとマリンは目を輝かせていた。


「鉄血の……」

(ぶらっく・ばーさーかー………。)

「はぐっ!」


 ロロナは両手で顔を押さえてのけぞる。


「黒ではないわたしを見た者は……」

(死ぬ………!)

「はぐうぅぅぅぅぅぅ!!!」


 そのまま後ろに倒れこみ、ゴロゴロ転がりもだえ苦しむ。

 まさに文字通り、黒歴史の召喚である。


「とてもいいわね! 鉄血のブラックバーサーカー!

 アタシもロロナちゃんみたいに、黒い真っ黒の漆黒ブラックゴッド、みたいに名乗りたい!」


「ぐあああああああああああああ!!!」


 その絶望的なネーミングセンスによって、ロロナのライフは限りなくゼロに近づいた。

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