ミルクの花と砂糖の森と、ミルクの雨に空賊たち
ミルククラゲ商品化のメドを立てたオレは、昨日の売り場へと向かった。
「よう」
「昨日のお客さんですよぉ?!」
「覚えててくれたのか」
「それは色々、印象に残るおかたでしたからですよぉ……」
少女はローラをチラと見た。
確かにコイツのアホっぷりは、一度見たら忘れにくい。
オレはもう慣れているが、初見では相当なものだろう。
「えへへぇ~。そうよねぇ。
やっぱりアタシ、かわいくって神々しいもんねぇ~。
一目見たら覚えちゃうわよねぇ~。えへへぇ~~~」
かわいいはともかく、神々しいはあり得んだろう。
かわいいはともかく。
「ええっとぉ……。そうですよぉ。ははは……」
少女も明らかに引きつっていた。
まぁいいか。
「まずここにあるミルクの花を、全部買いたい」
オレは金貨の詰まった袋をだした。
「ふえっ?!」
「それで今後の相談なんだが……」
オレは話を始めるが、少女は聞いちゃいなかった。
「ありがとうですよぉ~!
最後の最後に、いい思い出ができたですよぉ~~~!!」
「最後?」
「そうなんですよぉ~。今日の分で、もうおしまいにする予定だったんですよぉ~~~」
「どういうことだ?」
「ミルクの花は、南東にある砂糖の森――シュガーフォレストを超えた先にある丘に咲く花なんですよぉ」
オレはフェミルをチラと見た。
「花のことは知りませんが、森のことは知ってます!
モンスターランクは平均Bで、ベテランの冒険者が六人以上いなければ危険な土地です!
ただしその森は、『土ですら甘い』と言われるほどに糖分があって、そこに茂る木々の葉っぱや草花もおいしい、と言われております!」
「その森を抜けた丘には『ミルキークラウド』と呼ばれる雨雲があって、その雲が甘い雨を降らしてくれるんですよぉ。ミルクの花は、その雨を浴びれる土地でしか育たないんですよぉ…………」
「オレが聞きたいのは、どうしてそれが今回で終わるのか、っていうことだ」
「空賊が現れるようになって、ミルキークラウドを取っていってしまうんですよぉ……」
「ギルドや騎士団に頼んでどうにかできないのか?」
「ミルクの花を採取するのも、空賊の方々がミルキークラウドを取るのも、国からすれば『個人が勝手にやってる』でしかないんですよぉ……」
「そんな感じなのか」
「そんな感じなんですよぉ……」
「よしわかった。ミルクの花が咲く丘に案内してくれ」
「お話、聞いていたですよぉ?!」
「空賊が原因なら、平和的な拳で話し合えばなんとかなるってことだろう?」
「平和的な……?」
「拳で」
「拳の時点で平和じゃなくないっ?!」
ローラが苛烈に突っ込んだ。
このローラ、アホなクセに時々鋭い。
だがオレは、いつものように笑ってごまかす。
「HAHAHA」
その時だった。レベルアップの音がする。
てれれ、てってってー。
HAHAHA@LV2 0/200
◆スキル解説・HAHAHA@LV2
HAHAHAとは、ハンバーガーを頻繁に食べる人間の魂である。
レベル2ともなれば、その笑い方はよりハンバーガー食べ人に近づくであろう。
亜種スキルとして、『ハッハー!』も使用することができる。
それもまた、ハンバーガー食べ人の笑い方である。
食べものではなく純粋な修練で、HAHAHAのレベルがあがったらしい。
っていうかハンバーガー食べ人ってなんだ。
ハンバーガーをよく食べるアメリカンは、そういう人種って設定になっているのか?
そもそもこのスキル解説ってなんだ。
さりげなく流してるけど、わりと真面目にかなりの謎だぞ。
まぁいいか。
世界の謎は気になるが、そんなことよりおいしいお菓子だ。
「案内してくれ。ええっと……」
「わたしの名前でしたら、ミルキィですよぉ。ミルク売りのミルキィと、覚えやすくて評判ですよぉ」
「では改めて頼む」
「…………」
「どうした?」
「先にもお連れのかたがおっしゃっておりましたが、シュガーフォレストのモンスターランクは、平均Bなわけですよぉ……?」
「そういうことなら心配するな」
オレではなくてロロナが言った。
自分自身のギルドカードを、ミルキィに見せる。
「わたしはAランク冒険者のロロナ=ハイロード。そしてこちらのケーマ殿は、このわたしを蹂躙したレベルのモンスターを、軽く一蹴した英傑だ。すべての人に等しくやさしく、過度にいやらしい点を除けばまさに完璧と言える人格者だ」
明らかに褒めすぎであった。
「何言ってるのロロナちゃん! ケーマは基本、邪知暴虐でしょ?!
アタシに暴行を加えたり毒を飲ませたりして喜ぶドエスじゃない!」
逆にコイツは貶しすぎだな――と言いたいとこだが。
「間違っていないのがタチ悪いな」
「あなたは女性に、暴行を加えたり毒を飲ませたりしているですよぉ?!」
「概要としては間違っていない」
「ひいっ……ですよぉ……!」
「だが安心しろ。オレはアホ以外には暴力を振るわんし、毒を飲ませたりもしない。平均的なドエス紳士だ」
「ケーマで平均ってヤバくない?!
っていうかその理屈なら、アタシのほっぺたつねったりするのはおかしいと思うんですけどっ?!
アタシは知の女神でアホじゃないのにっ!!」
「そんなことよりコイツを見てくれ。コイツをどう思う?」
オレは黄金色に輝くりんごを出した。
「おいしそう!!!」
「よし」
オレはりんごを、ローラの口元にやった。
「えへへぇ~。ケーマ大好きぃ~~~」
アホのローラはかわいい顔でりんごを持つと、はむっとかわいく噛みついた。
もしゅもしゅと食べる。
そのかわいらしい笑顔からは、つい先刻の苦情は完璧に消えていた。
「?!?!?!」
ミルキィは、信じられないアホを見る目でローラを見ていた。
そういえばそうだった。
オレにとってこのやり取りは、もはや日常の景色。『君が隣にいるだけで、一分間が六十秒のように思えるんだ……』っていう当たり前ポエムぐらいに当たり前な光景だ。
しかし初見の人が見ると、ローラが尋常ではないレベルのアホに見えるんだよな……。
そうなんだよな……。
コイツって、アルティメットにアホの子なんだよな……。
「えっ、ちょっ、ケーマ?!
どうして涙を浮かべてるのっ?!
このりんご、もしかしてケーマが食べたかったの?!
それともアタシなにかしたっ?!」
「なにもしてない……。なにもしていないよ……」
逆になにかできるような知恵のある存在だったら、同情の涙は流さない。
「それならいいんだけど……。とにかく行きましょう!
ミルクの雨を降らしてくれる、ミルクの雲を守りに!!」
ローラは元気に走りだす。
それを見て、ミルキィが言った。
「道はそっちじゃないですよぉ……」
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