実食! ゼリークラゲのミルク味

「ミルクの花、なんてのもあるのか」

「お客さんですよぉ?!」

「まぁ、そうだな」


 オレは花を見る。

 百合のように白い六枚の花びらが、百合のように咲いている。


「これは食べ物でいいのか?」

「いいんですよぉ!」


 少女はミルクの花を手に取ると、花びらをむしった。

 小鉢の中に入れる。

 花びらは溶けて、小鉢の中の透明な水が、ミルクの色に変わった。


「いいじゃないか」


 オレはこくりと飲み込んだ。

 杏仁豆腐のような甘い香りに、まろやかな味わい。

 てれれ、てってってー。

 オレのレベルも上昇し、新たなスキルが身についた。

 この味わいから察するに、たぶん『まろやか』だろう。

『なんの役にも立たない気がするし実際役に立たないんだけど、定期的に取得されるので気になってきたスキルナンバーワン』の『まろやか』だ。

 きっとそうに決まってる。

 そんな気持ちで、獲得したスキルを見ると――。


 ◆習得スキル

 まろやか(甘い)


 なん……だと……?

 予想は確かにあっていた。

 まろやかな味わいのミルクで、『まろやか』が身についた。

 が――。


 後ろに(甘い)がついている……だと……?


 オレは早速、スキルの詳細を見た。


 ◆スキル解説・まるやか(甘い) 

 まろやかなだけでなく甘い。

 おいしい。


 毎度のことだけど思う。


 これってスキルか?

 ただの味の解説じゃないのか?


 まぁそれはおいといて、まろやかの亜種はすごいことだ。

 甘くておいしくてまろやかな食べ物は、過去にも何度か食べてきた。

 しかしまろやかのレベルがあがることがあっても、まろやか(甘い)なんて亜種はなかった。

 それなのに、ミルクの花ではまろやか(甘い)が身についた。

 これはこのミルクの花の、特殊性を意味しているのではないだろうか……?


「ちなみに値段は……一輪で六〇〇〇バルシー?!」


「何それ高い! 花びらが六枚だから、六杯分で、ええっと…………計算ができないレベルの数字ね! とんでもないわ! 家が一軒買える可能性もあるんじゃない?!」


「とんでもないのはお前の頭だ」


 オレは突っ込みを入れる代わりに、ローラの頬を軽くつねった。


「ふええ~~~~~」

「まぁとりあえず、三輪買おう」

「ありがとうですよぉ!!」


 オレは三輪購入し、宿に戻った。

 クラゲの入った器をたくさん用意し、それぞれに水を入れる。


「一番右のは、水をコップ一杯分、二番目のはコップ二杯分、三番目には三杯分。四番目のにはコップ一杯分の水と、刻んだイチゴジャムを……」

「いろいろめんどくさいわねぇ」

「砂糖水でやった限り、一晩漬ける必要はあるからな。一度にたくさんやったほうが、結局は楽だ」

「腐ったりしない? こんなにあると、腐ったら大変よ?」

「その時は……」


 オレはローラを、じぃ……と見つめた。


「まさかアタシに食べさせる気?!」

「HAHAHA」

「笑ってごまかすのはやめてえぇ!!!」

「まぁ冗談だ。さすがのオレでも、腐ったものは一口しか食べさせない」

「一口は食べさせるの?!」

「HAHAHA」

「笑ってごまかすのはやめてってばあぁ!」


 軽いジョークを挟みつつ、オレは作業を終えた。

 氷魔法で簡易冷蔵庫を作る。

 適当に食事を済ませ、ベッドで眠る。


 次の日の朝。

 オレは器を取りだした。


「おお……!」

「これは……すごいな」

「腐ってもなさそうね!」

「おいしそうです……」

(ふるふるふる………。)


 みなが感嘆の声をあげ、マリンは感動で震えていた。

 おいしそうだったのだ。


 ヨーグルトの表面をミルク色に近づけて、雰囲気でもう甘い感じがする物体が完成している。

 イチゴを入れたものはイチゴミルクの色になり、ミカンを入れたものはミカン色になっている。


「よし……!」


 オレはスプーンを差し込んだ。

 ゆっくりと持ちあげる。

 スプーンの上で小さな山が、質量の詰まったプリンのようにたぷっとゆれた。

 杏仁豆腐のような風味が、オレの鼻孔をくすぐった。


「これは美味い気がするぞ……?」


「待って待ってケーマ待って! ケーマは先日、まずそうなクラゲをアタシに味見させたわよね?! それならおいしそうなのも、アタシに味見させるのがスジだって思わないっ?!」


「もっともだな」


 オレはローラに、ゼリー化しているクラゲを食わせた。


「んっ……」


 ローラは静かに、それを味わい――。


「ふえっ、えっ、えええんっ!」

「まずかったのか?!」


「ちがうの! すごいの! おいしいの! 口に入れた瞬間あまいのが溶けて、口いっぱいに広がってくるの! 舌でいじるとハラハラ溶けて、あまいのが終わらないの!

 それからねぇ、それからねぇ、口を閉じて鼻で息をすると……」


 ローラは深く息を吸い込むと叫ぶ。


「いい匂いするうぅ~~~~~~~。

 匂いまであま~~~~~~~~~~~いっ!

 花のにおいで鼻とほっぺたが、グロテスクに溶けるうぅ~~~~~~~~!!!」


「グロテスクにっ?!」


「えっと、えっと、違うわよ!

 ロマネスクとかロマンチスクとか、そんな感じの言い間違えよ!

 気分で感じてフィーリングして!!!」


「そういうことか」


 そしてオレは安堵した。

 コイツ特有の残念な比喩が飛び出すと、本当においしい料理なんだ、という感じがする。

 砂糖水とクラゲではしっくりとこなかったのも、コイツが普通に評価していたからだろう。


「味は完璧。残る問題は値段か……」

「それは価格が、どうして高いのかにもよるな」

「そうだなぁ」


「どういうことっ?! アタシにも説明して!」

「そもそもオマエは、『値段が高い』はどうして起こる現象だと思う?」

「…………珍しいから?」

「三十点だな」

「ふええっ?!」


「珍しいものは高くなりやすい。ただそれ以外にも、『作るのが大変』、『腐りやすいから維持が大変で維持費がかかる』、『運ぶのにおカネがかかる』ってケースもある」

「維持費や運ぶのに金銭がかかるケースなら、わたしが姉上に便宜を図ることで安くなる可能性もある」

「やってくれるか」

「偉大なる姉上は、聡明なる姉上でもある。この味の価値は、すぐに理解してくれるだろう」


「どういうことなの?! 安くなったら、たくさん食べれてうれしいってことなの?! ケーマって、クラゲミルクをそんなに気に入ったの?!」

「そういうことではないと思います……ぴょん」

(こくっ。)


 頭のいいフェミルと幼女のマリンですら感づいたのに、ローラだけは気づいてなかった。

 ロロナが言った。


「ケーマ殿は、商品化を考えているのだ」


「あのクラゲたちが人気になって、取り尽くされればそれでよし。逆に取り切れなかったら、クラゲの儲けで屋敷を買える」

「何それすごい! すごすぎて卑怯! 国士無双に邪知暴虐ね!」

「普通に褒めろバカタレ」


 オレはローラのほっぺたをつねった。


「ふえぇ~~~~~~~~~~」


 しかしどうなるんだろうなぁ、クラゲビジネス。

 不安もあるが楽しみだぜ。

 フフフ……。

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