ミルク探し
「ここが市場ねっ!」
市場についた。
肉や魚が売っているゾーンを超えて、ミルクが売っているところへ出向く。
「安いよ安いよー! ウシュのミルキュだよー!」
「ペガサシュの高級ミルキュ、ビン一本で五〇バルシーだよー!」
「ホットでレッドでベリーに熱い、ドラギョンミルキュがビン一本で二〇〇バルシーだよー!」
なんか色々売っていた。
「失敗しちまった産廃ミルキュ、『農家の悲しみ』、今なら十本三〇〇バルシー!
嫌いなやつへの嫌がらせや、なにかの罰ゲームにどうだぁー?!」
明らかに売ってはいけないようなものまで売っていた。
しかし全体的に怪しかった。
ミルキュと言っている時点でよくわからないし、ペガサシュやドラギョンのミルキュってなんやねん、とも思った。
「ふええ~~~、すごい! ミルクって、こんなに種類があったのねぇ~~~~~!!
ケーマケーマケーマ!
ペガサスのミルクとか、いいんじゃない?!
アタシのイメージにぴったりだし!!」
「ふーむ……」
オレはコメントしなかった。
漂うパチモン臭さが、どうしても気になったのだ。
視線でロロナに説明を求める。
「ミルキュというのは、ミルクを加工した飲料や駄菓子だ。ペガサシュやドラギョンと言っているのも、『ペガサス』や『ドラゴン』をモチーフにした架空の生き物だ。
本物のペガサスやドラゴンのミルクなどを使用していたら、五〇や二〇〇では足りん」
「なるほど……」
オレはうなずき、ローラに言った。
「確かにオマエのイメージにぴったりだな」
「ケーマのばかあぁぁぁ!!!」
ローラは泣いてダッシュした。
モヒカンの男にぶつかって、尻餅もついてしまう。
モヒカンの男が持っていたミルキュがこぼれ、ズボンが濡れた。
「なんだテメェ?! 恨みでもあんのか?!」
「ちっちっちっ、ちがうのよ! わざとじゃないの! わざとじゃないのぉ!
ふえぇんっ、ケーマあぁ!」
尻餅をついたローラは、起きあがることなくオレに助けを求めてきた。
やれやれ。
「オレのツレがすいません。
土下座させるか腹を切らせるかするんで許してください」
「おっ、おうっ?!」
モヒカンは戸惑っていた。
「ほら、ローラ。頭をさげろ」
オレはローラの頭を押さえた。
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇんっ! 待って待って待ってえぇ!!
こんなところで土下座はいやっ!
こんなところで土下座はいやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「腹を切るのを望んでいるのか……?」
「フツーに謝るっていう選択肢をちょうだいって言ってるのおぉ!!!」
「仕方ない。次の選択肢から選べ」
「うんっ!」
「選択肢一。悪いことをしたオマエは、腹を切って詫びる。
選択肢二。悪いことをしたオマエは、土下座して詫びる」
「選択肢三はっ?!」
「存在しない。現実は非情である」
「ないなら作ってえぇ!!!」
(なんだコイツら……ヤベエ)
怒っていたモヒカンは、そそくさと逃げ出した。
「ローラの過失で飲み物を台無しにされたうえ、ズボンまで汚れたのに何も言わずに去っていくとは……爽やかな男だったな」
「どちらかと言えば、ケーマ殿に関わりたくなかったのでは……」
オレがそれっぽくまとめようとすると、ロロナが冷静に突っ込んだ。
それはさておき。
「ミルク的なものがたくさんあるけど、おすすめとかってあるか?」
オレが言うとローラが言った。
「おいしいやつっ!」
オレは無言で、ローラの頭をべしっと叩いた。
「へぶしっ!」
変な声がでていたが、それほどの力はこめていないので大丈夫なはずだ。
「ロロナは?」
「一般的に飲まれている、という意味なら、農場ヤギュの量産型ミルキュではある」
「ふーん、なるほど。フェミルは?」
フェミルは言った。
「飲み物でしたら、あまみずが好きです!!」
まさかの雨水?!
いや。
待て。
フェミルは、『あまみず』と言った。
オレは『雨水』だと思ったが、甘い水で『甘水』という可能性もある。
しかしフェミルは、勢いよく続けた。
「雨の日は、ゴミ捨て場から拾ってきたツボとかタライとかビンとかたくさん用意して集めてました!!
特に春の日の雨水は、ほんのり甘くておいしかったです!
花の香りっていうんですかね? がついてるんですよ!!」
やめてえぇ!
そんな悲しいエピソード、うれしそうな顔で言わないでえぇ!!
(こくこく。)
フェミルの悲しい発言に、幼女のマリンは、こくこくとうなずいた。
まさかの同志っ?!
「ですよねぇ。おいしいですよねぇ。なのに雨水のよさを、わかってくれない人が多くって……!」
フェミルはうれしそうだった。
マリンの手を取り、うふふ、あははと踊ってる。
色々と突っ込みたいところではあるが、幸せそうなのでよしとしてあげた。
オレはローラに、小声で尋ねる。
(この世界の水分事情って、どうなってるんだ?)
(基本的には川や湖。水の採れる木や草や花。アタシたち女神が噴水作ったりしてる街もあるわね!)
雨水はなかった。
しかし噴水を作れるって、さりげにすごい。
本当になんなんだろうな、女神って。
この世界の法則や謎に、深い関わりを持っている気がするぞ。
まぁいいか。
今のオレには、キノコクラゲを調理する、という崇高な役割がある。
世界の秘密がわかったところでおいしいモノは食えないが、キノコクラゲをおいしくできれば、おいしいデザートを食べることができる。
だったら優先するべきは、キノコクラゲになるのは当然だよなぁ?
オレは色々なミルキュを飲んで回ることにした。
「『正統派! 農場ヤギュの量産型ミルキュ』ってのを一本くれ」
「一本一〇〇バルシーだよっ!」
オレは一本分払い、ひと口だけと飲んだ。
まろやかな味わいだ。
牛乳よりもほんのわずかにとろっとしていて、まろやかな感じが強い。
てれれ、てってってー。
レベルがあがった。
レベル 2450→2451(↑1)
HP 30550/27550(↑5)
MP 26040/26040(↑4)
筋力 30400(↑3)
耐久 30200(↑3)
敏捷 26165(↑2)
魔力 25960(↑2)
スキル上昇
まろやか
『まろやか』がきた!
このまろやかというスキル、一見してなんの役にも立たないが、実際なんの役にも立たない。
しかし色んな食べ物についているため、上昇するとなんかうれしい貴重なスキルだ。
その後もオレは、『ペガサシュのミルキュ』とか、『ドラギョンミルキュ』なども飲んで回った。
てれれ、てってってー。
てれれ、てってってー。
レベルがアップし、スキルなども身についてくる。
それらはこんな感じであった。
◆スキル解説・ペガサシュフライ
華麗なるペガサスのごとき飛翔――を、したかのような気分になれる。
たのしい!
◆スキル解説・ドラギョンブレス
すべてを焼き尽くす灼熱のブレス――を、吐いたかのような気分になれる。
たのしい!
気になる説明ではあるのだが、ひとりで使うとバカっぽくなるような気がする。
なのでローラに譲渡した。
ローラの頭に手をおいて、『スキル譲渡』のスキルを使う。
「ふえ……?」
「オレは今、『ペガサシュフライ』と『ドラギョンブレス』というスキルをお前に渡している。覚えたと思ったら使ってみてくれ」
「強そうな名前ね!
よろこんで使ってあげるわ!!」
オレたちは、市場を抜けて人のいない空き地に移る。
なにかあるとは思えないスキルだが、念のためにというやつだ。
「よし、いいぞ」
「いくわよケーマ! ペガサシュフライ!」
デレデレデレ!
呪文の効果音を脳内で流し、効果を待つ。
「ふええっ……?!」
ローラは体を、左右に小さく動かした。
「なんかよくわかんないけど……空を飛んでるみたいな気分!
たのしい!!!」
目に見えるような効果はないが、たのしいらしい。
「ドラギョンブレスはどうだ?」
「使っても大丈夫なのかしらっ?!
名前からしてアタシにふさわしい、強くてカッコいい炎がでそうな感じだけど?!」
「オレなら大丈夫だろう」
ローラは右手を、前に突きだして叫んだ。
「ドラギョンブレス!!」
デレデレデレ!
呪文の効果音を脳内で流す。
しかしなにも起こらなかった。
「なにも起こらなかったけど……ふええ?」
「どうした?」
「なにも起こらなかったのに、すごい炎をだせた気がする!
たのしい!」
「たのしいのか」
「うんっ!
ドラギョンブレス!!!」
気に入ったらしい。
ローラは再び放ってた。
が――。
「ふえぇん……」
放った直後にふらっとした。立ちあがることもできないらしく、四つん這いになっている。
「どうした?」
「魔力が……」
「たのしいだけで効果はないのに、魔力は消費しやがるのかっ?!」
「一回で十ぐらいは消費するみたい……ふえぇん」
色々とひどかった。
たのしいだけで効果はないのにファイアーボールと同じくらいの魔力は消費するのがひどければ、ファイアーボール二発分でフラフラになるコイツもひどい。
本当に女神なんだろうか。
自分を女神だと思ってるバカ。と言われたほうがしっくりとくる。
「立てるか?」
「むりよぉ~。ふえぇ~~~ん」
「やれやれ」
オレはローラを、おんぶしてやる。
「ふえっ?!」
「スキル使わせたのはオレだしな」
「鬼畜でひどいケーマだけど、こういうところは好きー♪ ふえへへぇ~~~♪」
ローラはオレの背中に、ぺったりとくっついてきた。
やれやれである。
そしてこの市場にきた目的は、『キノコクラゲにあいそうなミルクや果物を見つけること』だ。
その目的も、忘れてはいない。
忘れてはいないのだが……。
(うぅん……)
が、正直なところだ。
ミルクもミルキュも、まずくはなかった。
まずくはなかったのだが、これだと思うものがなかった。
そんな中、とある店を見つけた。
「ミルクの花のミルクですよぉ。おいしいですよぉ。あーまいですよぉ」
真っ白な花を売っている、ポニーテールの少女だ。
小さなリアカーを引いて、こじんまりとした店を構えている。
『ミルクの花』という言葉に惹かれ、オレは立ちどまった。
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