ローラはケーマを好き好きだとか違うとか

――これまでのあらすじ――


家を買いたいと思ったケーマは、知り合いのおねーさん(商人)の人に相談を持ちかける。

曰くつきでいいから安く買いたいと言ったので、曰くつきの格安物件を紹介された。

それは湖畔が美しい森の中にある、クラゲまみれの洋館だった。

そのクラゲたちには、毒があるのもいるという。

ケーマは宙に浮かぶクラゲを料理し、ローラに食わせる。


ローラが毒で幻覚を見たり、惚れ薬と思わしき毒でケーマ好き好きモードになったりするが、ケーマは思った。


「ローラなのでまぁいいか」


――あらすじは以上――



「もう食べないわよっ! ゼッタイに、ゼッタイに食べないわよっ! そもそもアタシ、知の女神さまなのよっ?! そんな国士無双で偉大なるアタシに毒見をやらせるってことが、そもそもおかしいお話なのよっ! アタシがするべきは、もっとこう……天才的に頭がよくって天才的に賢くって、天才的に天才的な感じの、天才的なアレよ!!」


 頭脳労働を望む主張そのものが、すさまじくアホっぽい。

 まさにローラ・クオリティであった。


 しかしコイツが言うとおり、ローラの分類は知の女神なのである。

 知の女神らしい能力も、持っていないわけではない。

 そこでオレは気がついた。


「今気づいたんだが……。食べる必要はあったのか?」

「ふえ?」

「オマエは知の女神だろ?

 知の泉っていう、知識が溜まってる空間にアクセスできるトクベツな女神だろ?」

「そうよっ! なかなかいない女神なんだからね!」

「だったらクラゲも、食べる前に『知の泉』を使って、どんなクラゲか調べればよかったんじゃ」

「っ?!」


 指摘されて気がついたらしい。

 アホのローラは、ハトが豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていた。


「オマエ頭悪いだろ」

「わっわっわっわ、悪くないわよ! ケーマがたまたま、国士無双に大賢者なだけよ!!」


 これで大賢者とか、世界の賢者は35億人か?

 まぁしかし、『ローラは知の女神である』という事実を覚えている記憶力に関しては、大賢者級かもしれない。

 少なくともオレは、ローラが知の女神だっていう設定は忘れていた。

 というか今も忘れそうだ。


 知の概念がゲシュタルト崩壊を起こし、宇宙の法則が乱れる。

 ローラの『知の女神』とは『知識の女神』であって『知恵の女神』ではない。知の泉と呼ばれる、知識が溜まった空間にアクセスできるだけなのだ。

 なので矛盾はないのだが……。

 やはり違和感はあるし、宇宙の法則は乱れる。


 まぁいいや。

 オレはテーブルのそばに寄った。まな板に乗っていた、黄色いクラゲをローラに示す。


「コイツはどんなクラゲかわかるか?

 ネズミに食わせたら麻痺していたが」

「んんっとね……」


 ローラはひたいに指を当て、知の泉にアクセスをかけた。


「キノコクラゲ(パラライズ)ね! 麻痺毒を持っているキノコクラゲよ!」

「この赤紫は?」

「キノコクラゲ(幻覚毒)よ! 毒玉を食べると幻覚を見るわ! 楽しい幻覚が多いみたい! 鳥になって飛べるとか、そんな感じの!」

「青紫のほうはどうだ? ネズミに食べさせてみたら、箱庭の中で暴れたんだが」

「キノコクラゲ(幻覚毒)よ! 毒玉を食べると幻覚を見るわ! でも赤紫のとは違って、悪い幻覚が多いみたい! ゾンビの群れに囲まれるとか、そんな感じの!」


 すごいな。

 普通に役に立っている。

 クラゲを食わせたネズミが暴れたってことは凶暴化させるものかと思いきや、悪い幻覚を見るせいで暴れてたってこともわかったし。


「なかなかやるじゃないか」

「ほめてもいいのよっ?!」

「よしよし」


 オレはローラの頭を撫でた。


「ふえへへぇー」


 ローラは、穏やかな笑みを浮かべた。


「ちなみにこれはどうなんだ? 食った途端に、オマエがオレのことを好き好き言い出したピンク色のクラゲだが」

「検索しなくてもわかるわよ! 近くにいる人をいい人に見せちゃう幻覚作用を持ったクラゲよ! 食べた途端にケーマがいい人に見えて、すごい好き! すごい好きいぃ~~~~~ってなっちゃったもん!」

「まぁそれはそれとして、調べるだけ調べてみてくれ。国士無双に偉大なる知の女神であるお前なら、できないことじゃないだろ?」

「フフフン。仕方ないわねぇ」


 ローラはクラゲに手を当てた。


「これはね……。フンフン。キノコクラゲ(解放毒)ね。その人に隠れさていた本音を、わかりやすく誇張して解放…………ふえええっ?!?!?!」


 先刻のローラは、オレを好き好き言いまくった。

 そしてローラの分析によれば、先のクラゲは食べた人間の隠された本音を、わかりやすく誇張して解放してしまうらしい。

 ということは……。


「ちっちっちっち、ちがうわよ! きっと何かの間違いよ! 女神語でメソポコタンよ! アタシはケーマのことなんて、感謝していることもあるし、おいしいもの食べさせてくれるところも……。

 だけどケーマはドエスだし……。

 アタシのこともすぐ踏むし……。

 でもなんだかんだ言いながら、アタシが本当に大変なときはちゃんと助けてくれて……。

 てってってってっ、ちがうわよ!

 とにかくとにかくちがうわよ!

 実はケーマが大好きなんて、認めたら恥ずかしいじゃない!

 だからアタシは、ケーマのことなんて全然大好きじゃないんだからあぁ~~~~~~~~~~!!!」


 ローラは走って逃げだした。

 しかし五秒と経たないうちに、クラゲに襲われ逃げ惑う。


「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ! ケーマあぁぁぁぁ!!

 ケーマケーマケーマあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 助けてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」

 

 やれやれだ。

 オレは剣を片手に持って、クラゲの群れに突っ込んだ。

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