怪しいクラゲをローラに食わせる
「ローラに試食させることも決まったし、クラゲを取ってくるとしようか。
ロロナとフェミルも協力してくれ」
「うむ」
「はい!」
「それとマリンは、ローラを捕まえておいてくれ」
(こくっ!)
マリンはローラに抱き着いた。この状態で逃げようと思えば、この小さい子を振り払うことになる。
それはローラもしないだろう。
オレたちは、クラゲに近づいた。
これといった策も持たずに、まっすぐだ。
(!)
クラゲがオレに気がついた。触手をオレのほうに向け、透明のナニカを放つ。
ゆるやかに回避した。背後の地面に針が刺さる。
「このタイミングで出してくるってことは、毒針かねぇ」
あとで拾っておこう。
なんて考えていると、クラゲの触手が伸びてきた。
「大したスピードではないな」
オレは手刀で触手を切った。
「ケーマ殿はもちろんのこと、わたしでも対応できるな」
五、六体に囲まれていたロロナも、クラゲを難なく切り裂いた。
「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアー……ひええぇ~~~~~~~~~~!」
逆にフェミルは苦戦していた。
炎が近づくとクラゲは水を吐き出して、その反動でフェミルから離れる。
そして別のクラゲが近づいてきて、フェミルに触手を伸ばしていく。
「ファイアーボール! ファイアーボールうぅ~~~~~!!」
フェミルは必死に防戦するが、複数のクラゲからヒット&アウェイをされてどうにもならない。
「ファイアーボール! アイスニードル! ファイアーボールうぅ~~~~~!!!」
ファイアーボールは相殺されるしアイスニードルは効かないし、色々と散々だ。
「よっ!」
オレは石ころをぶん投げた。
ボシュウゥンッ!!
石はクラゲの頭のド真ん中を貫通し、空の彼方へと消えていった。
クラゲは即死だ。
「ありがとうございますです……ぴょん」
「気にするな。敵がどの程度の強さなのかも、オレは知っておきたかったからな」
しかし結構倒したが、数がデタラメに多い。
空のかなり高いとこまで、クラゲはふよふよと漂っている。
高層ビルの屋上の高さになっても、普通に漂っていそうな感じだ。
それがたくさんの風船を飛ばしたかのように、ふよふよぷかぷかしてるのだ。
しかもイソギンチャクのような形をした物体――ポリプから、ぽこぽこ量産されてる。
「二〇〇〇とか三〇〇〇じゃ効かねー数だな」
それはともかく。
倒したクラゲを拾い集めて、ローラのところへと戻った。
「さぁて。楽しい楽しい試食タイムだ」
「ふええぇん……」
「まずいといいなぁ、ローラ」
「そこはウソでも、おいしいことを期待しようっ?!」
オレは持ってきたテーブルのまな板の上に、透明なクラゲをおいた。
その大きさは、バレーボールぐらい。
最初ということで、いくらか小型のやつを選んだ。
「さすがに最初は、毒がなさそうなやつにしてやる」
「途中からなら毒があるやつもokみたいな言い方しないでぇ!!」
「実に冴えたツッコミだな」
オレはローラを褒めつつも、淡々とクラゲをさばいた。
触手を除き、カサのような部分と別々にする。
「カサのほうは、わりと普通に食えそうだな」
カサを八等分して握る。
水がジワッ……と漏れてきた。
その弾力は、ナタデココとよく似ていた。
「料理法で変わる食材のような気がするな……」
オレはロロナから受け取ったスプーンを、クラゲに当てた。
「毒もない――と」
ローラに食わせてみるとするか。
「ほら、口あけろ」
「ふえぇん……」
ローラは、涙目になりながらも口をあけた。
オレは透明なクラゲを、ローラの口の中に入れた。
(もぎゅっ、もぎゅっ、もぎゅっ)
ローラの口が動く。
「どうだ?」
「ふえぇ~~~~~~~~ん」
「まずかったか?」
「味がなくってぐにゅぐにゅしてて……にがいぃ~~~~~~~~」
「なるほど」
オレは自分でも食ってみた。
ローラが言った通りであった。
味がなくってぐにゅぐにゅしている。
だがしかし、苦みなどは特にない。
どういうことだ?
オレは無傷のクラゲを見てみた。
触手を除いてカサだけにして、丹念に調べる。
カサの内側に、しこりのようなものが見つかった。
ピンポン玉ぐらいの大きさをした玉だ。
ぺろりと舐めたら苦かった。
「カサというよりは、この苦み玉が苦いってことか」
これはいい情報だった。
オレは苦み玉を取り除き、改めてローラに食わせる。
「味がなくってぐにゅぐにゅだけど……苦くはないわね……」
いい情報だった。
オレは味のないクラゲを食べて、軽く飲み込む。
てれれ、てってってー。
レベルがあがった。
ステータスを見つめるが、レベルは1しかあがっていない。
ただしスキルは習得していた。
取得スキル
ふよふよ
◆スキル解説・ふよふよ。
ふよふよと、宙に浮かぶことができるようになる。
これだけ見れば、悪くない。
だが文面には、注釈があった。
※『ふよふよ』を使用している途中は、自らの意志で動くことはできない。
風で流されるままになる。
完全にハズレだ。
ほかのクラゲも、ローラに食わせた。
シイタケみたいな形のクラゲや、赤と白の水玉模様のクラゲも食わせた。
カサの部分を食わせたのなら、触手の部分も食わせた。
ロロナのスプーンで様子見しながら、毒がない部分を食わせた。
「ふえぇ~~~ん、にがいぃ~~~~~」
「しぶいぃ~~~~~~~~~~~~~」
「まずいぃ~~~~~~~~~~~~~」
評価は散々であった。
ローラがまずいと言ったものは、オレも軽くかじったりしてみた。
それは確かに、とてもまずい。
しかし味わった感触で言うと……。
(料理法次第じゃないか……?)
ニンジンや大根も、ナマで食ったらまずい。
ここはひとつ、色々やってみるとするか。
「土魔法」
まずオレは、土魔法で釜戸を作った。
ピザを焼くかのような釜戸を作り、シイタケみたいなキノコクラゲを中に入れる。
そして熱した。
釜戸の中は、電子レンジのような熱がたぎっていると推測される。
次にシイタケっぽくないクラゲを、砂糖が入ったボールに入れた。
「水っぽいナタデココって感じの触感だったからな。
砂糖に漬ければ、いい感じになるかもしれん」
あとは白と赤の水玉模様の、苦いだけのキノコクラゲ。
「コイツは軽い毒もあったし、どう料理してもダメそうな気がするが……。
煮るのと焼くのと塩水に浸すのとでやってみるか」
うまくいけばラッキー。
全部ダメでもトントンだ。
オレの考えているキノコクラゲ撲滅計画は、おいしいクラゲが二割か三割いればいい。
二割か三割のおいしいクラゲでどうなるかってのは――。
腕の見せどころだぜ。
フフフ。
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