キノコクラゲと試食係

「それではわたしは、仕事があるので帰還する。

 クラゲたちを駆除できそうなら、五〇〇万バルシーで買うといい」


「それでは姉上、お達者で!」


 ロロナが、帰還していく姉のリリナを見送った。

 オレは屋敷に沸いた、巨大キノコクラゲたちを見やった。


「オレの中でキノコと言えば、電子レンジで調理するイメージだが……」


 頭の空想した。

 シイタケをひっくり返し、カサのへこみにバターを乗せる。続いてしょう油をちょろりと垂らし、レンジでチン。

 シイタケの汁がバターしょう油とほどよく絡んで、舌の上でとろける。

 アレは最高に美味い。


「でもこの世界に、電子レンジはないからなぁ……」


 となるとアレかな?

 そしてアレの前には……。

 オレは色々と考えてから言った。


「おいローラ。

 女神ポイントってどのくらい溜まってる? オマエに捧げたあれこれを消費して、スキルを覚えたりアイテムを獲得できたりする例の力だ。

 最近はろくに使ってないから、かなり溜まってるはずだよな?」


「あ、えーっと。

 使うの……? ケーマ」

「使うから聞いてる」


「それなんだけどね……。

 えへへ……。

 あはは……」


「使い込んだのか……」

「ちがうのよっ!

 ツノフグはおいしかったし、なんだかんだでケーマには世話になってるし、ツノフグもおいしかったから、お礼をしようと思ったのよ!

 でもそうしたら、『おいしいお菓子』ってアイテムもあって……」


「食ったのか」

「一個だけ、一個だけって思ったんだけど、食べてみたらすごくおいしくって……」

「食ったんだな?」


「でもこれでわかったでしょ?!

 アタシは意外と悪くない!

 おいしかったお菓子が悪いんだって!!」


「それでオマエが悪くねぇなら、ここでオレがオマエを殴っても悪くねぇってことになりそうだな」

「ふえぇんっ?!」


「まぁいい。気にするな。

 オレの中でオマエはもはや、顔がかわいくておっぱいが大きいだけの存在だ」


「それはそれでショックなんだけどぉ?!

 期待して! ののしってもいいから期待してえぇ!!

 アタシのことは、かわいいだけの女神じゃなくて、かわいい上に役に立つ女神だって思ってえぇ!!

 働きたくはないんだけど、期待されないのも傷つくのよおぉ!!!」


 最低の発想だ!!


「まぁ、いい。

 心の広いオレは、そんなオマエにも期待してやる」

「ケーマ……!」


 瞳を輝かせたローラに対し、爽やかな笑顔で言った。


「クラゲの試食は任せたぜ?」


「ふえ……?」


「クラゲが大量にいる。毒があるならまだいいが、まずいクラゲは食いたくない。誰かが犠牲になる必要がある。そしてやらかしたオマエ。

 この状況で、誰が試食係をするべきだと思う?」


「99パーセントの確率で、アタシ……かしら…………」


 ローラは決まり悪げに目を伏せて、しばしもじもじとしてから言った。


「でもアタシ、1パーセントを信じたい!

 鬼で悪魔なケーマだけど、アタシを試食係にはしない!

 そんな奇跡に賭けてみたいっ!!」


「そこまで考えていたのか」


 オレはフッと笑顔を見せた。


「確かにオレは、1パーセントの可能性にも賭けてみようって考えは嫌いじゃない」

「ケーマ……!」


 ローラのうるんだ瞳にも、穏やかなやさしさとぬくもりを持ったオレの笑顔が見える。


「でもひとつ、勘違いしている」

「ふえ……?」


「オレがオマエを試食係に持っていく確率は――――100パーセントだ。

 1パーセントの奇跡だなんて、入る余地が存在しない」


「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」


 ローラは逃げようとした。

 しかしすぐさま襟首をつかんで捕える。

 笑い声が口から漏れた。


「ハッハッハァーー!!!!!」


「ケーマ殿、すこしよいだろうか?」

「なんだ? ロロナ」

「試食であれば、わたしがしてもよいのだが……」


 ロロナは一本のスプーンを取りだす。


「これはわたしの組織で作られた、特殊な金属でできているスプーンだ。200種近い毒素を検出することができる。毒でさえなければ、食すことも……」


「そのスプーンは使わせてもらおう。

 でも試食係はローラに任せる。

 どうしてなのか、ちゃんとした理由もある」


「理由……?」


「細かい理屈はどうでもいいから、まずい食べ物で涙ぐむローラが見たい」


「ケーマ殿にあった大義名分が、音を立てて爆発したような気がするのだが?!」

「HAHAHA」


 オレは楽しげに笑った。実際、楽しかった。


「このケーマさん、わたしたちが好きな人なんですよね……?」

「わたしたちにはやさしいが、ローラ殿には鬼畜だな……」


 フェミルとロロナも引いていた。

 しかし改めるつもりがないのだから、わりとタチが悪い。

 それは認める。


 だけどやめない!

 キノコクラゲをローラに食わせる!!

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