屋敷はクラゲに支配されてた

「細かいあれこれも終わったし、改めて家を買いに行くとするか!」

「ケーマ殿! 家を買うなら姉上にも話を通してくれ! わたしの姉上は、大規模鍛冶組織にして商人組織でもある黄金平原・五大幹部のひとりだ! きっとお役に立てると思う!」

「そうか」


 オレはロロナの提案を受け入れた。

 リリナとは、過去にリリナが出していた依頼を受けたことがある関係だ。

『将来有望な冒険者』として目をかけてもらっているので、有望な物件があれば話はしてくれるだろう。

 ロロナの姉の、リリナの家へと向かう。


「姉上! わたしだ!」

「ロロナか。ひさしぶりだね。砂漠地方に出向いたと聞いて、色々心配していたよ」

「色々あったりはしたが、ケーマ殿のおかげで無事だ! いやらしい上にドエスなところもあるケーマ殿だが、すばらしく高潔でおやさしい!!」


「待ってくれロロナ。『いやらしい上にドエス』と、『高潔さでおやさしい』は、混ぜると爆発を起こしかねない危険物に思うのだが」

「そのミステリアスな矛盾が、ケーマ殿の魅力のひとつだ……フフフ」


 ロロナはにやけた。

 とても可愛らしい反面、『大丈夫だろうか、この子……』と思ったりした。


「ちょっと心配になるわね……」


 ローラにも言われているあたり、相当だと思う。

 ローラに心配されるというのは、地雷原でタップダンスを踊るよりヤバい。


「だだだだ、大丈夫ですよ! ケーマさまはいやらしいですが、本気で嫌がる人にはしません! ドエスなことも、ローラさんにしかしません! ロロナさんは大丈夫です!!」


「それはそれで心配になるのだが?!」

(おいしいもの、くれます………です。)


 ウサミミ少女のフェミルや、最近加入してきた家事手伝い志望の幼女マリンも、オレをかばった。


「キミたちの言葉が事実だとしても、余計に不安になるのだが?!」


 しかしリリナの言ってることは、とてつもなくもっともであった。

 これこそが、正しい反応であると思う。


 まぁオレに、改めるつもりはまったくないが!

 HAHAHA!


 それはさておき。


「オレは家がほしいです。それを言ったら、『姉上に話を通してくれ』とロロナから言われました。心当たりがあったら教えてください」

「そのように言われると、不用意な物件を紹介するわけにはいかんな……」


 思慮深いリリナは、形よいアゴに手を添えて考えた。


「ちなみに……どういう家を欲しているのだ? それによって、紹介する物件も変わるが」


 ロロナが答えた。


「二十人が住める家だ! それよりも広い分には構わんが、狭いのは困る! わたしたちとケーマ殿の愛の巣にふさわしい建物を紹介してほしい!」


 ロロナはくるりと振り返った。

 目線で伝えてくる。


(と、いうことで合っているだろうかっ?!)


「細かいところはともかくとして…………大雑把にはあってるよ」


 オレはロロナを撫でてやった。


「くうぅ~~~~~~~~ん♥♥♥」


 ロロナはかわいいお尻の尻尾を、パタパタ振って喜んだ。

 エルフと犬系の獣人のハーフであるロロナには、オオカミっぽい尻尾がついているのだ。

 オレにベタ懐きなのも、犬の血がそうさせているのだと思う。


「あと条件をつけ加えるなら、広い庭もあるとうれしいです。植物の実験などをしたいので」

「予算は?」

「五〇〇万バルシーぐらいですかね」

「普通の家ならばともかく、屋敷となるとケタが足りんな……」

「曰くつきの家、とかはありませんか? 幽霊がでるならぶん殴りますし、魔王がくるなら蹴り飛ばしますよ」

「そういう家でもよいのなら、心当たりは一ヵ所あるな」


   ◆


 リリナに案内された屋敷は、街から一キロ離れた森にあった。

 静かな湖畔の森の陰から、もう起きちゃいなとカッコウが鳴く。

 カッコー。カッコー。

 カッコー。

 カッコー。

 カッコー。

 という歌が聞こえてきそうな、白く美しい建物だ。


 だがひとつ、致命的な問題があった。

 それは遠目に見てもわかる、とても大きな問題だった。


「あれはなんです? クラゲ……のように見えますが」

「ああ、クラゲだ。巨大キノコクラゲだ」


 そうなのだ。

 巨大なクラゲがぷかりぷかりと、屋敷の周辺を漂っている。

 カサのところはキノコのように変色していた。

 シイタケのような茶色があれば、シメジのような白。


 はたまたゲームでしか見たことのないような、白と赤との水玉模様のカサを持ったクラゲもいた。

 ゲームでは食べるとパワーアップするキノコだったが、実際に見るとけっこう不気味だ。

 絶対に毒だろ、あれ。


「ローラに食わせてみるまでは、自分で食う気にはなれんな」

「アタシに食べさせること前提っ?!」

「ダメージは受けてもたぶん死なないところが、オマエの唯一の長所だしな……」

「たぶんってなに?! 唯一ってなに?! もっとたくさん色々あるでしょアタシの長所! 賢いとことか、賢者なとことか!」

「なんだそれは。遺言か?」


「死なないしぃぃぃ!!!」

「だけどあいつらが食えるなら、『食べ物を粗末にしてはいけない』の法則が働くからなぁ……」

「食べれるかどうかわからないものに、その法則を当てはめるのはやめようっ?!」

「とにかくあのクラゲたちを駆除しないと、とてもじゃないと住めないってわけか……」

「そういうことだ。しかも屋敷の、右端を見てほしい」


 リリナは、屋敷の右端を指差した。

 屋敷の壁には、イソギンチャクのようなものが取りついていて――。

 

(ぽふ、ぽふ、ぽふ、ぽふ)


 小さなクラゲを作りだしていた。


「ポリプと呼ばれる小さなイソギンチャクのようなものから、クラゲを大量に生み出し続けるのだ。しかもあのポリプ、どこに何ヵ所あるのかもわからん」


 こいつは確かに厄介そうだ。

 オレは言った。


「しかし一番重要なのは、やっぱり味だな」


 このミッションが成功するか否かは、巨大キノコクラゲがおいしいかどうかにかかっている。



――――――――――――――――


今回のネタは、結城愛菜さんの「クラゲとかはどうだろう?」と機構魔神さんの「キノコなんかはどうでしょう?」を足してみました。

ありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و

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