ツノフグのヒレ酒を飲む

前回のあらすじ


幼い女の子が加入しました。

エロいことは、許可がなければやりません。

あったらやります。


――――――――――



 マリンという名の幼女を仲間に引き入れたオレたちは、元いた街に帰還していた。

 長い旅をしていた影響か、なんていう名前の街だったかも思い出せない。

 しかし泊まっていた宿の名前は思い出せる。

 アーシャの三日月亭だ。


 そこの店主のアーシャさんは、おっぱいが大きくてねお酒が好きな人だった。

 もう本当に、すばらしいおっぱいだった。

 三日月亭の扉をあける。


「今日もお酒は最高ですわあぁ!!」


 アーシャはすばらしいおっぱいと、お酒好きが特徴の人だった。


「おひさしぶりですわね、ケーマさま! 首尾のほうはいかがでしたか?!」

「最高だったよ」


 オレは魔法袋から、成果物を取りだした。


「こっ……これは……、獲得難易度S級クラスの、『ツノフグのヒレ』では」

……?」

「知ってるんだ」

「それはもう、お酒をたしなむ者の常識ですわぁ!」


 そうなのだろうか?

 オレはアーシャの周囲にいた、冒険者たちを見た。

 誰もうなずいていなかった。


 アーシャは孤独な人だった。

 すばらしいおっぱいを持っているのに、恋人募集中のままだ。

 誰かもらってあげてほしい。


「と……ところで、ケーマさま。

 このヒレは、どのようにするおつもりで……?

 もしもギルドにおろすのでしたら、このわたくし、ケーマさまの言い値で買うことはもちろん、この身を捧げることも辞さない構えですわよっ?!」


「酒のためにそこまでするのかっ?!」


「もちろんただのお酒でしたら、わたくしそこまではいたしませんわっ!

 しかし今回は、ツノフグではございませんか……!

 もしもわたくしに万が一のことがあったら、わたくし思うのですわよ?

 あのとき、ツノフグのヒレ酒を飲むことができていたら、『ツノフグのヒレ酒を飲めたわたくし』として天に召されることができたのに――と」


 相も変わらず、お酒好きすぎおねーさんだった。

 お酒趣味のせいで婚期を逃し続けているはずなのに、やめるつもりはなさそうだった。


「それでは、ケーマさま、行きましょう!

 めくるめくヒレ酒の旅に!」


 アーシャは返事を待たなかった。

 オレの手を引き階段を登り、オレを部屋まで引っ張り込んだ。


「ちょっ、ふたりとも! ヒレをテーブルに置き忘れてるわよっ!!」


 いつもは頭の悪いローラが、まともなことを言っていた。


  ◆


 オレの部屋。

 もえもえの木、と呼ばれているらしい半透明な木に火をつける。

 ロウとアルコールを含んでいるらしいその木は、ろうそくのように立ったまま、アルコールランプのようなか弱い炎を発した。

 ヒレを手のひらサイズに切って、アミの上に乗せる。

 ゆっくりと炙る。


「ヒレの炙りは、けっこう難しいらしいんだよな……。

炙りが甘いと生臭くって、逆にキツいと焦げるとか」


 オレは自分に言い聞かせる意味も含めて言った。


「はふぅん、ですわ♥ はふぅん、ですわ♥ はふうぅん、ですわあぁ……♥♥♥」


 一方のアーシャは、興奮しまくっていた。

 口元も胸元もゆるみ、顔は激しく紅潮し、目にはハートが浮かんでいる。

 エロ漫画にでてきそうな顔だ。


 ぶくぶくぶく。

 ヒレの表面に気泡が浮いた。

 白いヒレが、こんがりとしたキツネ色になってくる。


「このタイミングかな」


 オレはヒレを火から離した。

 熱燗にしていた酒の中に入れる。ジュウッと軽い音がした。


 おちょこのような容器を手に取った。

 オレとアーシャのふたり分、ヒレ酒を入れてやる。

 ふぅー、ふぅー、ふぅー。

 息を三回ふきかけた。


「いただきます」


 白い器を下唇につけ、ゆっくりと傾ける。

 香ばしい風味といっしょに、熱いお酒がとろりと口に入り込む。

 酒は液体であるはずなのに、とろり、だ。


 口を閉じ、酒を舌の上で転がす。

 香ばしい香りを伴った独特の苦みが、しかしうま味となって口の中に広がってくる。

 こくりとノドを鳴らしてみれば、幸せが胃の中に落ちる。


「うまい……」

「すばらしき……ですわぁ…………」


 アーシャは感極まっていた。

 祈るかのように瞳を閉じて、感じ入っている。

 閉じられた瞳からは、澄んだ涙が一本の線を作っていた。

 くいくいくい。

 ロロナがオレの服の裾を引っ張った。


「ケ、ケーマ殿……」


 隣では、フェミルもオレを見つめていた。


「ケーマ様……」


 オレはあまっていたおちょこっぽい容器を、ロロナとフェミルに手渡した。

 こくり。

 ふたりは並んで飲み込んだ。


「なんといううま味……!

 深き湖の底に住まうありとあらゆる湖の恵みを、この一口に凝縮したかのようだ……!」

「はうぅ……!」


 ロロナは丁寧に、フェミルはシンプルに喜んだ。


(じぃ………。)

「マリンはジュースな」

(ぴこんっ!!!)


 オレがオレンジジュースをだしてやると、マリナの髪がぴこんとハネた。


(こくっ、こくっ、こくっ………。)


 まだまだお酒は早いマリンは、ジュースをこくこく飲み始めた。

 ぷはぁ(*´ワ`)

 とっても幸せそうである。


「ケーマ、ケーマ、ケーマああぁ」


 そしてローラが、涙目でオレにすがりつく。


「あーん、あーん、あーぁん!」


 いつものように口をあけ、涙目のままほしがった。


「でもお前、酒を飲むと倒れるだろ?

 酒はたしなむものであって、倒れるほど飲んだらいけないものなんだぞ?」


「倒れちゃっても飲みたいのぉ!

 ケーマがおいしそうに飲んでいるのに、アタシはダメってさびしいのぉ!

 国士無双にさびしいのおぉ!!」


 頭の悪いローラだが、なかなかかわいいことを言う。

 オレは穏やかな気持ちで、ローラの頭に手を当てた。


(スキル譲渡!)


 貯めに貯めた毒物耐性のスキルを、ローラに丸ごとくれてやる。

 アルコールは、毒物という判定だ。

 致死性の毒ガスですら耐え切れるオレの耐性をつけてやれば、ローラも酒を飲めるだろう。オレといっしょに飲めるだろう。


 オレの耐性は弱まるが、それでもいいとオレは思った。

 コイツがおいしそうに飲み食いしている姿は、正直言って嫌いじゃない。


「ほら、飲め」

「ありがとう、ケーマ♪」


 ローラはニコりとほほ笑んだ。

 おちょこみたいな容器をかたむけ、ツノフグのヒレ酒を飲む。

 ローラの白くて細いノドが、コクンと鳴った。

 そして――。


 倒れた。


「はあっ?!」

「ふえへへぇ、おいひいぃ……。しあわひゅぇえ……。くうぅ…………」


 しかも赤ら顔のまま、眠りに入ったりしてしまった。


「いやオマエ、どういうことだよっ?!」

「ふへえぇん……。けーみゃあぁ……もっとおぉ……。むにゅむにゅ……」


 肩を掴んでゆすってみたが、反応らしい反応はない。


 スキルとは、野球で言うところのピッチングフォームに近い。

 フォームがいくら優美でも、元々の筋力が弱いと速い球は投げられない。

 毒物耐性の場合、元々の耐性値とでも言うべき概念があって、スキルの耐性はそれとの掛け算めいた格好になる。

 ただ基本的には、アホなレベルで弱くなければ、スキル通りに耐性も高くなるのだが――。


 駄女神ローラは、アホなレベルで弱かった。

 肩書き上は、女神であるのに。


「返せよドアホ! オレのやさしさと毒物耐性のスキル、今すぐ返せよっ!!」


 オレはローラの、胸倉を掴んでゆすった。


「ふえへへへぇ……。らめよぉ……。

 けーまぁ。いくらアタシが、だいしゅきらからっひゅえぇ……♥」


 しかしローラはアホなので、まともな反応はしなかった。

 仕方ない。


「あした椅子かソファーの代わりにすることで許してやるか」

「それは許していると言うのかっ?!」


 ロロナの声が響いていたが、オレの基準では許しまくりだ。

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