女の子を雇う。

 リーゼルを女体化させたオレたちは、食べ歩きをしながら街の出口へと向かっていた。


 てれれ、てってってー。

 てれれ、てってってー。

 てれれ、てってってー。


 新しいスキルなどはないが、レベルは勝手にあがっていく。

 頭の悪いローラにも、屋台のものを食べさせていく。

 その途中、ローラが何気なく口を開いた。


「ねぇケーマ」

「なんだ?」

「リーゼルちゃんのこと女の子にしてたけど、元に戻す魔法とかはあるの?」


「ああ、それか。それについて、一言で言うとな……」

「言うと……?」


「HAHAHA」


「笑って終わり?!

 リーゼルちゃんの視点で言ったら、絶望スマイルになると思うんだけど?!」

「本当に申し訳ない」

「それで済ますのっ?!」


「いやまぁ世界は広いし、フツーにしてればそのうちなんとかなるかなって」

「ならなかったら、どうするの……?」


 オレは空を見上げて言った。


「この空の広さに比べたら、犯罪者野郎の性別なんて、どうでもいいことだとは思わないか……?」

「確かに、それもそうかもね……」


 ローラは納得してくれた。

 してはダメだと思うのだけれど、ダメなことを平然とするのが駄女神だから仕方ない。


「ところで、ケーマ殿」

「なんだ? ロロナ」

「つい先刻から、気になる視線があるのだが……」


 ロロナはチラりと、背後を見やった。


(じぃ………。)

(!)

(サッ!!!)


 建物の陰から顔だけを出して、こちらを、(じぃ………。)と見ていて少女が、ロロナに見つかると同時(!)と驚き、(サッ!!!)と隠れた。


 だがしかし、隠れ切れていない。

 髪のぴょこっとハネた部分が、建物の陰からちょこっとでている。


「確かあの子は、マリン……だったかな?」


 オレにサメをごちそうになって喜んだり、ツノフグを取りに行くときは道案内をしてくれたりといった少女だ。


(こくこくこくっ!!!)


 建物の向こうでうなずいたらしい。

 わずかに見える、ぴょこっとハネている髪が、三回のうなずき分だけ動いた。

 しかしそのうなずき具合で、喜んでいることはわかった。


「それじゃ伝わらないだろ、マリン」


 建物の奥から声がした。

 マリンの兄である少年が、マリンの手を引っ張ってでてくる。


(わたわたわたっ。)


 マリンはとっても焦っていたが、兄である少年は構わずに言った。


「すいません。

 ウチのマリンが、お兄さんを気に入ってしまったようなんですが……」

(じぃ………。)


 マリンは兄の背中に隠れて、オレを見つめる。

 ほっぺたはほんのりと赤く、頭のぴょこハネは、ひょこひょこと動く。


「ついてきたいわけか」

(こく………。)


 マリンはかわいくうなずいた。

 が――。


「やめたほうがいいわよっ!!!」


 ローラが叫んだ。


「ケーマはね、ハードコアドエスなんだから!

 アタシを踏んだりほっぺたをつねったり、悪いことした人のおちんちんをむしり取ったりもするんだから!!」


「にっ、兄ちゃん、そんなことするのか?」


 少年が、自身の股間を押さえて青ざめた。


「むしり取るだと語弊はあるが、ひとりの男を女にしてやったのは確かだな」

「ね?! 危険がデンジャラス一〇八号でしょ?!」


「そそそそっ、そんなことはありません!

 ローラさまにはお冷たいケーマさまですが、わたしやロロナさんにはおやさしいです!」


「あっ、ああ、そうだ!

 ローラ殿には冷たいが、ローラ殿以外にはやさしい!

 キミがローラ殿でない限り、天国を味わえることは間違いない!」


「ちょっと待って!

 ロロちゃんもフェミちゃんも、アタシがひどい目に遭うことは諦めてないっ?!

 もうちょっと、ケーマに抵抗してもいいのよっ?!

 『かわいくって国士無双に偉大なる知の女神のローラさんへのあつかいが悪いのでは?』って問いかけたっていいのよっ?!」


「…………」

「……あの工芸品、よい形をしているな。姉上たちへのおみやげに…………」


「フェミちゃん、どうしてアタシから目をそらすの?!

 ロロちゃんも、今工芸品を買う必要はなくないっ?!」


「それは仕方ないだろ。

 姉さんへのおみやげはもちろんのこと、意味もなく目をそらすことだって、

 オマエの事情と天秤にかければ世界より重くなる」


「そこまでえぇ?!?!?!」

「それよかローラ。あそこに露店に金色のカラーサボテンが売ってるぞ」

「ほんとだすごい!」


「しかし珍しいみたいだな。

 赤とか青のカラーサボテンはたくさんあるのに、金色のはひとつだけだ」

「そうみたいね……」

「だがあえて、そのひとつをオマエのために買ってやろう」

「ふえぇんっ! 好きー! ケーマ好き! 大好きいぃ!!!」


 今日もオレの駄女神は、ひたすら頭が悪かった。

 オレは┌(・_・)┘な形をしているサボテンを買う。


「ほぅ、ゴールドを買うのかい」

「はい」

「ゴールドは、ちょっとばかり特殊でねぇ。食べるんじゃなくって飲むんだ」


 おっさんは、サボテンの上をスパッと切った。

 サボテンを傾けて、中の液体をコップにそそぐ。

 シュワシュワシュワァ……!

 コップの中が、黄金色の炭酸で満ちた。


「ふえぇ……?!」


 ローラの瞳が、まばゆく輝く。

 こくんっ――と、ローラが炭酸を口に含んだ。


「ふええっ?!」

「どうした?」

「ケーマもちょっと飲んでみて!」


 オレはコップを手に持った。

 黄金色の液体の中で、白い泡がシュワシュワと言っている。


 こくりと飲んだ。

 炭酸の泡が、痛いぐらいにジイィン……と響く。

 しかし直後に駆け抜けるのは、レモンを彷彿とさせる爽やかな風味に、しっかりとした甘み。

 最後にゴクンと飲み干せば、砂漠の熱で火照った体を、冷気がひんやり癒してくれる。

 うまい。


「すごいでしょ?! わかるでしょ?!

 お口の中でつぶつぶのきらめきが、ジュワッと弾けてパチパチするでしょ!

 ファンクでパンクでロックでファンシー!

 おいしいぃぃぃぃ!!! すごいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」


 ローラはオレからコップを奪い、再び飲んだ。


「ふえぇんっ!!!」


 (><)な顔でご満悦だ。


(くい、くい。)


 かわいいマリンが、少年の陰に隠れたままで、オレの服の裾を引っ張る。

 放置されて悲しかったらしい。眉毛はちょっぴり垂れ下がっていた。


「わたしは、だめです………か?」

「ダメってことはないんだが……」

「おやくにたちます………です。」

「特技があるのか?」

「おそうじ………。おりょうり………。できます………です。」


「採用します」


「ちょっ、ケーマ?!」

「料理はともかく、掃除をやってくれる子は貴重じゃん。オレは掃除嫌いだし」

「掃除ぐらい、ロロちゃんやフェミちゃんにだってできるわよっ!」


「どうしてそこで、『アタシにでも』とは言わないんだ……」

「ゼッタイ無理に決まってるもん!!!」


 笑えるほどに即答だった。


「でもできるでしょ?! ロロちゃん! フェミちゃん!」

「わたしは無理だ!

 自分の分はともかく、ケケケケ、ケーマ殿の部屋の掃除など……」


「わたしは……ゴミ掃除などはできるかと思いますが、モノを捨てることができませんです……ぴょん。

 穴のあいたお布団は、暑い日に……。足の折れた椅子は、座りたくないときなどに……」


 過剰反応すぎるロロナと、ゴミステレーヌな貧乏症にかかっているフェミルであった。


「それとオレがマリンを採用したいのには、別の理由もあるんだよ」

「別の?」

「オレたちが使っている宿、ちょっと狭いと思わないか?」


「確かにそうね!

 女神のアタシが住むんだから、もっと豪華で国士無双でもいいと思うわ!」


「そう考えると、家事が得意な子ってのは、いたらいいよな?」

「それは賛成なんだけど……」


 ローラはチラりとマリンを見ると、オレにジト目で言ってくる。


「ヘンなこと……しない?」

「オマエはオレをなんだと思っているんだ。

 いくらなんでも、こんな小さな子には……」


 オレはマリンを、ジ……と見て言った。


「許可がなければしない」


「あったらするんだっ?!」

「そこはまぁ……うん」


 マリンは、右手をグッと握って言った。


「きょか、だします………です。」


 これでなんの問題もなくなったな!

 HAHAHA!


「ふえぇんっ?!」


 ローラはわめいていたのだが、ローラの言葉だし無視しておいた。



――――――――――――


ネタの投稿、ありがとうございました。

ネタのいくつかは、使用する構想が固まりつつあります。

それはそれとして募集はしておりますので


・こんな食べもの食べてほしい。

・こんなネタを書いてほしい。


などがございましたら、お気軽にコメントください。

採用できるかどうかはわかりませんが、イケルと思った場合には採用させていただきます。

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