戦後処理・リーゼル編

前回のあらすじ。

駄女神ローラは、フグを食べると成仏の危険性があります(叩けば治ります)

あとリシアの様子を見るために、神殿に向かいました。


――――――――――


 さて。


「ところでリシア。今後はどうする予定なんだ?」


「この地に残ろう――とは思っていますわ。

 教団に追われたこととは別にして、わたくしの存在そのものを必要となさっている方々が、たくさんいることがわかりましたので。

 わたくしが教団の方々から追われたのも、あるいはベルクラント様の試練と導きのゆえである――と感じてさえおります」


「ずいぶんと前向きだな」

「そそ、そう思うに至ったのは、ケーマ様に出会え…………いいい、いえぬ なんでもございません!」


 なんか知らんが惚れられているっぽい雰囲気だった。

 ローラがオレの服を引き、神殿の隅に移動させる。


(いちおー言っておくけど、アンタ普通に好かれることやってるんだからね!

 人を平気で殺すやつがいるってのに、無報酬で砂漠まで同行したり、

 ピンチなところを助けたり、そのクセそれを、恩に着せるようなこともしなかったり!)


(そうやって言われると、確かにすごいことな気もするな……)

(どうしてそんな謙虚なの?!

 アタシには、いっつもすっごいゴーマンなのに!)


(オレにとっては、暗殺者がついてくるだけの旅行っていう認識だったし)

(暗殺者がついてくる時点で、旅行としてはおかしくないっ?!?!?!)

(冷静に言われるとそうかもしれん)

(そうでしょ?!冷静に言われなくってもそうでしょ!!!)


 ローラが珍しく突っ込みに回った。


(とにかく、そういうわけなのよ。

 ケーマはもっと、自分がアタシ以外にはやさしいってことを自覚しなさい!

 そしてそのやさしさを、アタシにも分け与えなさい!

 具体的には、アタシをもっと甘やかして!

 いっぱい愛でて! 国士無双にかわいがって!)


(かわいがりなら、いつもやってるじゃねぇか)


 言いつつオレは、ローラのほっぺたをつねった。


(ほういう意味ひゃ、ないっへばあぁ~~~~~~~)


 ほんとかわいい。

 ある意味いつものそれとも言える、ローラいじりは終わった。

 オレはリーゼルに向き直る。


「さて」

「……なんだよ」


「ハッキリ言うと、オレはオマエを信用してない。

 オレが近くにいるあいだは保身のためになにもしないだろうが、

 いなくなったらなにをするかわからない」


「……」

「ついでに言うと、リシアのことも信用してない」

「えっ……?」

「ケーマどの!」


 リシアが傷ついた顔をして、ロロナが叫んだ。

 ロロナにしては珍しい、非難の眼差しである。


「ふたりが思ってるような意味じゃない。

 『リーゼルが悪いことしても、なんかあっさり騙されそう』って意味だ」


「それなら……確かに……」

「ロロナさまっ?!」


「いや……すまん。

 しかし正直に言って、リシア殿は騙されそうだ。

 見るからに怪しいモヒカン男が『東に病人がいる』と言えば駆けつけて騙されて、『西に潰れそうな孤児院がある』と聞けば、とりあえず騙されてから寄付を送りそうだ」


「た……確かに一昔前のわたくしであれば、騙されたかもしれません!

 しかし今のわたくしは、以前のわたくしとは違います!

 今回の旅で学んだ、真・わたくしです!

 そう簡単には騙されません!!」


「そういやリシア。ここにくる途中、病人を見かけたぞ」

「そうですの?!」


「この神殿をでて、海砂側に六百歩進んだあたりの民家にいたグスマン家のばーさんだ。

 体は重く、神殿にも行けない状態らしい」


「わかりましたわ!

 わたくしただちに向かいます!」


 リシアはダッと走りだす。

 その背に向けて、オレは言った。


「もちろんウソだ」


 べちゃあぁんっ!!

 リシアは盛大にこけた。


「ケーマさまあぁ!!!」

「おおぅ……」


 あっさりと騙されてしまったリシアに、ロロナは不安の表情を強くした。

 今のリシアに対する信頼度は、『漫画などにおける99パーセント成功する作戦』よりも低くなっている気がする。

 つまり絶望である。

 もう誰も信じられない。


「ちがうのですわ! ちがうのですわあぁ!

 今のは今のは、ケーマさまのお言葉でしたから……!」


「気持ちはわかるが、今の話のタイミングで、一切の疑いも持たないのは……」

「ふあんです……」

「ひいぃん……」


 ロロナはもちろんフェミルにも言われた。

 リシアは、頭を抱えてうずくまる。


「まぁ、そういうわけだ。だからここはひとつ――」


 オレは世にも爽やかな笑顔で言った。


「リーゼルに、呪い的なものをかけておこうと思う」


「爽やかな笑顔で言うことぉ?!」


 ローラがまともなことを叫んだ。

 ここ数分のローラは、とても常識的な女神だと思う。


「リーゼルはいいの?!

 ケーマが、すごく外道なことを言っているけど!」


「立場と前科を考えれば、そのぐらいはむしろ当然だ……。

 ボクが逆の立場でも、近いことはしている」


 外道であっても愚鈍ではないリーゼルは、自分の運命を受け入れた。


「いい度胸だ」


 オレはリーゼルの頭に手をおいた。

 とあるスキルを、『スキル譲渡』でリーゼルに移す。


 渡すのは、つい先刻に獲得したスキル。

 あとでババーンと使おうと、内緒にしていた特殊なスキルだ。


 リーゼルの体が光り輝く。

 オレは目を閉じ、リーゼルの変化を待った。


 光りが薄れる。

 オレは目をあける。


 リーゼルの背丈は十センチほど縮み、体は華奢になっていた。

 肩などはなで肩になり、まつ毛は長く唇はぷっくりとふくらんでいる。

 まぁ端的に言えば――。


 女になってた。


「え……? は……?」


 リーゼルは、自分の両手を交互に見つめた。

 細長くなっている指に手を見つめた。


 視線を胸元におろす。

 そこにあるのはいささか控えめでありながら、男としてはふくらんでいるおっぱい。

 リーゼルは、最後の確認と言わんばかりに、自身の股間に手を伸ばす。


 おそるおそる。

 おそるおそる。


「ボクのボクが……、股間のボクが……!」


 オレは爽やかに言った。


「オマエの『ボク』なら、オレが消したぞ!!!」


「うあああああああああああああああああああ!!!!!!」


 リーゼルは半狂乱で泣きながら、オレの肩を掴んでガクガクとゆらした。


「気持ちはわかるがオレに万が一のことがあったら、オマエは一生そのままだぞ?」

「うっ……」


 リーゼルの動きが止まる。

 リーゼルはそのままその場に崩れ落ち、自身の股間を押さえてうずくまった。


「ボクの……ボクのぉ……。

 かろうじて、ひとつだけ残っていたのにぃ……」


「ちょっとケーマ!

 いくらなんでもひどくない?!

 悪魔や鬼でも、ここまではしないと思うわよ!」


「即ちオレは、悪魔や鬼よりひどかった――ということか」

「そっちで納得しちゃうのぉ?!」


「いやでもこの方法じゃなかったら、『もしもリシアになにかあったら、オレのピーでオマエのアナルの寿命が終わるぞ』ぐらいしか言えないぞ?」


「それはそれでエゲつないわね!」

「というか……ケーマどのはそれでよいのか……?」

「その罰は、リーゼルさま以上にケーマさまも辛いと思うであります……ぴょん」

「リーゼルが相手なら、女装させればイケるかなって。

 見た目だけはわりといいし」


「ヒイイッ」


 股間を押さえていたリーゼルが、その手を後ろに移動させた。


「魔王なの?! ケーマって、将来の夢は魔王なの?!

「HAHAHA」


 オレは涙目のリーゼルの肩を、ポンと叩いた。


「そういうわけだ。

 オレはこの街を離れるが、定期的に遊びにはくる。

 もしそのときリシアになにかがあったりしたら、オマエは一生そのままだ。

 男に戻りたいと思うなら、日々励め」


「うん……」


 リーゼルは、涙目のままうなずいた。

 しかしうなずくリーゼルは、中々にキュートで愛らしい。

 エロいことしたくなる。


 ただし流石に自重した。

 すっくと立って、ローラたちに言う。


「じゃあ、帰るか」

「うんっ!」

「「はいっ!!」」


 三人はうなずいた。


「ボクの大事な……。ボクの大事なぁ……」


 ただひとりリーゼルは、丸めた両手を目元に当てた、( p_q)な顔で泣いていた。

 座り方もあひる座りで、なんかもう普通にかわいかった。

 ちなみに今回、リーゼルに使用したスキルはこれだ。


 雄性先熟LV3

 

 ◆スキル解説・雄性先熟

 成長したオスの個体が、メスに変わる。


 地球で言えば、魚のクマノミや一部の植物。貝のカキなどが所持している性質だ。

 クマノミなどの生き物は、幼いころはオスであろうと、大きくなったらメスになる。

『体が大きい個体がタマゴを産んだほうが有利だよね? だったら大きい個体がメスになったほうが、色々と便利だよね?』というわけだ。


 この性質によって、クマノミや一部の貝は、幼いころはオスだけど、大きくなったらメスになる。

 さっき内緒にしていた魚の丸焼きで身についたスキルは、ズバリこれであったのだ。



――――――――――


そろそろ新章に移るわけですが、どうしようかなー、と考えています。

こちらでもネタは考えているのですが、自分ひとりで考えるよりは、複数の人からネタを募ったほうがよいかなと思いまして。


冒険させたい舞台や食べてほしい食べもの、出してほしいキャラクターなどがあれば、応援コメントか作者ツイッターのほうによろしくお願いします!

作者ツイッターは、「@kt60_60」で検索すればでます!


次回更新は、六月十六日の金曜日ごろを予定しております。

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