駄目な女神にもフグを食わせる、慈悲深いケーマさん

前回のあらすじ

女神を自称している女神のローラは

フグを食べれないことに涙した。


――――――――――――――――――



 ツノフグのツノを取ったオレは、ツノを眺めた。

 普通のツノだ。

 このまま食べられるような感じはしない。


「料理法ってどんな感じだ?」

「わたしが本で読んだ範囲ですと、まずは最初に、大きな入れ物を用意します」

「ほぅ」


 砂魔法で砂を起こし、水を混ぜて土器を作った。


「次に、入れ物の中にツノフグの胃袋と、水を入れます」

「ふむふむ」


 言う通りにした。

 じっと待つ。


「こうしていれば、胃袋の成分でツノの外殻が溶けて食べれるようになるそうです」

「ほほぅ」


 言葉を証明するかのように、ツノの外殻が、ぴしり、ぴしりとヒビ割れ始めた。

 輝きが現れる。


「おおっ……?!」


 まるで黄金が入っているかのような輝きだ。

 ツノを取りだす。


 まな板の上に乗せ、丁寧に切った。

 外側同様、金色に輝く肉が見える。

 金粉をまぶしたかのような輝きだ。


 これは……うむ。ヤバい。

 あまりにもおいしそうで、語彙力が死ぬ。


「ふえぇん……。おいしそうぅ……。

 ケーマの神さまやっててよかった……!」


 オレはひとつ、摘まんで食べた。

 ぐにゅっ……。ぐにゅっ……。もぐっ。

 つい先刻の肝に、勝るとも劣らないうま味がきた。

 しかしこのうま味――終わらない。


 噛んでも噛んでもいくら噛んでも、至福の時が続き続ける。

 肉が崩れず味が残って、ただひたすらにうまい。


「ケーマ。ケーマあぁ」


 ローラが口を、あーんとあけた。

 最後の希望にすがるかのような、切なさがあった。

 さすがのオレでも、ここでいじわるする気にはなれない。


 ローラの口に、ツノ肉を入れた。

 くちゅ……。くちゅ。くちゅ。

 ローラが静かに咀嚼する。


「ふええんっ……!」


 漏れるのは歓喜。


「やわらかいのにお肉の触感がしっかりとしてるぅ……。

 噛んでも噛んでも、おいしい味がおいしいままぁ……!」

「だよなぁ……!」

「ケーマの神さま、やっててよかったぁ……!」


 ローラが、祈るように両手を合わせた。

 閉じられた瞳から、はらりと涙をこぼれ落ちた。


 フグがおいしくておいし泣きする、自称・知の女神。

 相変わらずだと思いはするが、今回ばかりはそれも許そう。

 この味は、それほどにすばらしいのだから。


「ケーマの神さま、やってて良かったあぁぁ……!!」


 いつもアホな比喩ばかり言っているローラが、今日はほめる感想しか言わない。

 この一事だけでも、ツノフグのうまさがわかるだろう。


「もうアタシ……、満たされすぎて成仏しちゃいそう……」



 そしてローラの体から、魂が抜けだした。



 天から光が差し込んで、腐れ駄女神が召されていく。


「うおぉいっ!!!」


 オレは思わずビンタした。


「へぶらぁ!」


 ローラの口から、女神がだしてはいけないような声がでた。

 しかし正気に戻ったらしい。

 抜けでていた魂も、元に戻った。


「えっ、ええっと、今……」

「魂が抜けてたぞっ?!」


「そうよねっ?!

 一瞬だけど、魂が抜けてたわよねっ?!

 ケーマ! 叩いてくれてありがとうっ!」


「……」

「…………」


 ローラが成仏しかけたせいだろう。

 フェミルとロロナが、とても食べにくそうな顔をした。


「安心しろ。成仏しそうなぐらいおいしいってだけで、実際に死にはしない」

「もしも危ない感じになっても、ケーマが引き戻してくれるし!」


「それで安堵しろというのも、無理はあるが……」

「とてもおいしそう、ですものね……」


 ふたりはそろって、はむ(><) と食べた。


「はうぅ……!」

「ふわぁ……!」


 ふたりはじんわり顔をあげ、幸せに浸った。

 オレやローラとまったく同じく、幸せの涙を流す。


「おいしいです……!」

「わたしが生まれてきたことの意味を述べるなら、ケーマ殿に出会えたことと、この味に出会うことのふたつだ……!」


 大絶賛だった。

 それからもオレたちは、このすばらしい美味に舌鼓を打ち続けた。


 てれれ、てってってー。

 レベルもあがる。

 あまり確認していなかったステータスも見る。

 ステータス的には、『微妙にあがった』という感じだが、気になるスキルが手に入った。



 テトロドトキシン健康法



 なによそれっ?!

 オレは解説の項目を開いた。



 ◆スキル解説・テトロドトキシン健康法

 体内にあるフグの猛毒――テトロドトキシンの量に比例して、病気に対する免疫力が上昇する。



 なんというスキルだ。

 フグと言えば毒魚どくさかな

 しかしその毒は、食べもので集めている。

 毒のある貝やヒトデを食べることで、体内に毒を溜めるのだ。

 無毒なエサで育てた養殖のフグは、無毒であったりもする。


 ただし無毒状態のフグは、病気にもなりやすい。

 なので養殖のフグは、ほかのフグに噛みついてでも、テトロドトキシンを補充しようとしたりする。

 人にとっての猛毒も、フグにとっては健康の維持に必要なのだ。


 しかしまさか、人の身で習得してしまうとはねぇ……。

 思うところがないわけではなかったが、フグがおいしかったので気にしないことにした。

 再び食べる。

 てれれ、てってってー。

 レベルはあがった。



――――――――――――


次回更新は5月12日(金)の予定です。

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