食べるよ! ツノフグ!
オレが作ったフグ刺しを目の前にした、ローラが言った。
「ふええっと、フォーク、フォーク。それとも、スプーン? 箸?」
「その前に、オマエの分はこっちだ」
オレはフグ刺しが乗っているのとは違う、普通サイズの皿を差しだす。
ピンクの刺身が、桜の花びらのように乗せられていた。
「これは……?」
「約束したじゃん。
お前には、一番うまいところを振る舞ってやるって」
「ふえぇん……、ケーマあぁ…………」
感動しているらしい。ローラの瞳が、うるうるとうるむ。
「でも……みんなでわけましょう!!」
「は?」
「アタシの分しかないようだったら、アタシひとりで食べるわよ?!
だけどこれ、みんなの分があるじゃない!
だからみんなでわけましょう?!」
「オレはともかく、フェミルやロロナには食わせないほうがいいと思うぞ」
「どうして?」
「猛毒だから」
「ふええっ?!」
「いやだから、フグの肝には猛毒があるんだって。
一番うまいって言われてるとこだけど、猛毒があるから普通は食えない」
「なにそれひどいっ! 生殺しっ?!」
「ま、そうなるな」
と言いつつオレは、フグの肝の刺身をすくい取った。
爽やかな笑顔で言ってやる。
「ほら、食え」
「猛毒って伝えたあとで食べさせようとするってなんなのっ?!
ドエスの範囲を超えてないっ?!?!?!」
「今日のドエスは、SATUGAIのSだ。問題はない」
(どきっ……)
どういうわけか、ローラからそんな効果音が聞こえた。
ほっぺたも赤くなってた。
しかしローラは、すぐにブンブン首を振る。
「すごく爽やかでカッコいい顔で、なんていうこと言ってくれてるのよっ!」
「だけどオマエは、一応とはいえ女神だからな。たぶん大丈夫だろ」
「たぶんってついている時点でイヤアァァァァァァァァァァァ!!!」
「そうは言うけど、約束は約束だからなぁ……」
「イヤアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
駄女神は、神とは思えない勢いで叫ぶ。
オレはわりと満足し、ローラをひしっと抱きしめた。
かわいいっ……!
「ドエス……だな」
「ドエス……です」
ロロナとフェミルも、ちょっと引いてた。
仕方ない。
「そういうことなら、オレがもらうか」
「ふええっ?!」
「毒物耐性も解毒耐性もあるからな。食ってもたぶん死なんだろ」
「たぶんっ?!」
「オレに万が一があった時には、フェミルとロロナのことを頼むぞ……?」
「食べなければよくないっ?! そんな悲壮な顔をするならっ!!」
「男には、無謀であるとわかっていても立ち向かわないといけない時があるっ……!」
「今じゃなくないっ?!」
「今じゃなければいつ食うんだよ」
「食べることを前提にしないでえぇ!!!」
「それよかオマエ。ヤシの木のところで小鳥と砂漠猫がたわむれてるぞ」
「なにそれかわいいっ!!」
ローラは後ろを振り返った。
「どこどこどこっ?! 小鳥と砂漠猫ちゃんどこっ?!?!」
豪快に騙されたローラは、隙だらけになった。
オレは刺身を摘まむ。
「猫ちゃんなんていないじゃ…………あぁーーーーーーーーーーーー!!!!!」
ローラは叫ぶが既に手遅れ。オレはキモを口に入れてた。
くにゅりと響く独特の弾力の肉が、噛んでいくごとにとろける。
舌で転がし泳がしてみると、うま味が口いっぱいに広がる。
唾液がとまらず溢れでてくる。
ごくりと飲み込む。余韻だけで幸せになる。
「うめぇ……」
とつぶやいた四秒後。
毒が回った。
舌が痺れる。足が痺れる。まともに立っていることができない。
ヒザをつく。
バタリと倒れる。
息がかすれる。死にかける。
思ってたよりヤバい気がする。
「ふえぇぇんっ! ケーマぁ! ケーマあぁ!!」
「ケーマ殿っ!」
「ケーマさまあぁ!!!」
ローラたちが寄り添ってくるが、どうしようもない。
今までの毒とは種類が違う。
体力を削る毒ではない。麻痺毒っていう特殊な毒だ。
オレが持っている毒物耐性や解毒体質の効果が、半分程度にしか効いていない。
そして半分程度では、まかない切れない毒量がある。
これが異世界のテトロドトキシン……!
地球であっても0.002グラムで人を殺せると言われた毒物の、異世界バージョン……!
が――。
てれれ、てってってー。
レベル 1756→1761(↑5)
HP 23042/23050(↑40)
MP 22540/22540(↑35)
筋力 23385(↑45)
耐久 25190(↑30)
敏捷 22165(↑35)
魔力 21960(↑30)
習得スキル
麻痺毒体質LV6
麻痺毒耐性LV6←←←←←←←←
「レベルがあがれば問題ないぜえぇーーーーーーーーーーー!!!」
オレは全回復した。
HAHAHA! 最高にハイってやつだぁー!!
空も飛べるはずうぅ!!
史上最大級のピンチから脱出したオレは、奇妙なテンションで爽やかに言った。
「心配かけたな。オレはもう大丈夫だ(キラッ)」
「大丈夫って大丈夫なのっ?! なんかもう、人間としてっ!!!」
「それを言われると難しいところだが……」
オレはフグのキモを摘まんで食った。
美味に舌鼓を打ち、心から言う。
「この美味のためであれば、人間をやめることなど惜しくはないっ……!」
「なんか普通に食べてるしいぃ!!!」
「さすがはケーマ殿……」
「すごいです……」
ロロナとフェミルが、半ば引きつつオレを称えた。
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