ツノフグgetと調理編

 オレとローラは、並んで進んだ。


(ふえぇん、すごい……。きれえぇ……)


 オレのローラはさっきから、同じことしか言ってない。

 しかし実際、そういう景色だ。

 夜のように暗い湖に差し込む太陽の光が、背景をマリンブルーに照らしだす。

 白い岩肌にはピンクのサンゴがくっついて、その周辺には金色の小魚。

 もう本当に、幻想的で美しい。


 しかしいくら美しくとも、ここは自然の空間だ。

 大きな魚が小魚を食べたり、紫のヒトデが大きな桜色の貝に張りついたりもしている。


 ツノフグの群れは、そんな湖の底にいた。

 抱きかかえれそうなほどの大きさに、丸々とした体躯。

 その大半はぷかぷかと漂っているが、一部が湖の底をツノで掘り、貝やカニをほじくり返し、ガリガリバリッと食べている。


 地球のフグも歯は堅い。

 カニや貝を、甲羅やカラごと食べていた。

 この世界のフグも、そういうところは同じらしい。


 オレは群れから離れたフグに近づく。

 フグもオレに気がついた。

 目があった。

 次の瞬間。

 

 フグがチャージをかけてきた!!!


 しかも速い!!


 オレは咄嗟に身をよじり、フグのツノを脇に抱えた。チョップで脳天を打つ。

 フグは死んだ。

 筋肉には、大きくわけると二種類ある。

 持久力の遅筋と、瞬発力の速筋だ。

 遅筋は赤く、速筋は白い。


 魚でも、この特徴は同じだ。

 肉が赤い魚はマグロのように泳ぎ続けて、白い魚は普段は動かず敵や獲物がきた時にビュッと動くものが多い。


 フグは後者の代表だ。

 のんきな顔をしているが、地味にハードボイルドなのである。

 ただそこを差し引いても、今の突撃は速かった。

 このフグはたぶん、ロロナより強い。


 まぁ殺ったからいいんだけど。

 オレはフグを肩に背負って、陸地へと向かった。

 体がでるほどの浅瀬へと辿りつく。

 顔をだしたと同時、戦っているロロナが見えた。


『ガーッ!!』


 雄叫びをあげて滑空してくるプテラノドンめいた翼竜と交差して、その足を切る。

 鮮血が舞い散る中でくるりと反転。剣を構えて翼竜を見やる。

 翼竜が、こちらを向いた頃合いを見計らい――。

 閃光玉。

 オレはさっとガードをしたので、『うおっ、まぶしっ』で済んだ。


「あぎゃー! 目がぁ! 目があぁ!!」


 ただしローラは食らってしまい、両目を押さえて喘いでた。


『ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


 翼竜が落ちてくる。


「ハアアッ!!」


 水着のロロナ、タンと地を蹴り竜に乗る。

 その首筋を、ブスリと刺した。

 しなやかな肢体を持った水着の少女が戦う姿。それはなかなかによいものだ。


「うむ……」


 フェミルが木の陰から顔をだす。


「やっつけました……ぴょん?」

「ああ」

「ロロナさま……すごいです……」

「ケーマ殿のほうがすごい」

「それは確かにそうですが……」


 なんて会話をしていたふたりだが、オレに気付いた。


「ケーマ殿、戻ったか」

「うん」

「肩のものを見るに……成功したようだな」

「ロロナたちも、大変だったみたいだね」

「ねぎらわれるほどのことはしていない」

「そのように言われますと、隠れていたわたしの立場が……」

「フェミルは魔術士ではないか。剣士のわたしとは違う」


 ロロナは淡々と答えていた。

 なかなかの男前である。

 おっぱいも大きい。

 お尻はすばらしい形をしている。

 陸地にあがったついでに撫でた。


「きゃあっ!」


 ロロナは悲鳴をあげてたが、オレは軽やかに流す。


「ごめんごめん。ロロナのお尻がかわいかったんでつい」

「さわるのはよいが……いきなりなのは……」


 ロロナは自身の尻を押さえて、恥ずかしそうに言っていた。

 しかしさわるのがオッケーってのは、本当にかわいい。

 頭をポンポン撫でてから、用意していたテーブルの上にツノフグをおろす。


「こうして見ると立派なフグだな」

「いいいい、一番おいしいところはアタシにくれるのよねっ?!」

「食べごたえがありそうです……」

「…………」


 派手に食い意地が張っているローラが目を輝かせると、

 地味に食い意地の張っているフェミルがうっとりとつぶやいた。

 真面目なロロナは、魔物を警戒して周囲に気を配った。


 オレは調理を開始した。

 ナイフではなく剣技を使う。


 ズババババ。

 超高速で剣を振る。背びれに尾びれに、皮も飛ばした。

 ただしヒレは宙に舞い飛んだヒレは、持ち帰り用の箱の中に入った。


「ヒレが箱の中に入ってしまったな」

「それはそれでいいんだよ、ロロナ」

「はぐ……?」


「フグのヒレはお酒に入れると、お酒がおいしくなるっていうお話があるんだ。

 世話になってる宿屋の人がお酒好きだし、おみやげにする予定」

「博識だな……、ケーマ殿は……♥」


 ロロナはぺたりとくっついてきた。

 オレのスキンシップは唐突かつアレだけど、ロロナもわりと負けていないと思う。


 なにはともあれフグである。

 皮を剥かれた真っ白な体は真珠のようで、早くもおいしそうである。

 ヨダレがでてくる。


「だけどフグには、毒があるんだよなぁ」


 種類にもよるが、皮や腸、卵巣などは危険なはずだ。

 オレは剣を横に振る。白い腹部がズバアッ! と裂けた。

 内臓を引きずりだす。

 ペロッと舐める。舌がビリビリと痺れる。


「これは……テトロドトキシン……!」


 青酸カリの千倍とも言われる猛毒である。

 この世界でも同じ成分かどうかは不明だが、基本的な毒性はほぼ同一と思われる。

 摂取すると呼吸器官も含めた全身が痺れ、息ができなくなって死ぬ。


「っていうかいったいなに考えてんのよっ!

 ペロッと舐めて確かめるって!!」

「オレなら大丈夫かと思って」

「実際大丈夫だったけどぉ!!」

「人間離れを通り越し、人外離れの領域に入りつつあるな……」

「はうぅ……」


 オレはさばきを続行した。

 腸や卵巣を専用の箱に入れ、肉をオアシスの近くまで運んだ。

 丁寧に洗う。

 内臓に付着していた毒が、魚肉についていたりすると危険だ。


「ずいぶんと慎重に洗うのね……」

「毒のある魚だからな」

「なのに食べようとするなんて……、

 本当においしいおさかなってことなのね……!」


 駄女神が、希望に満ちた顔をする。

 オレは肉を丁寧に洗う。

 弾力に満ち溢れた肉は、洗っていて気持ちよかった。


 そして完成する。

 フグ刺しだ。

 魔法陣のように美しい紋様が入った大皿の上に、透き通ったフグがバラの花びらのように配置されてる。


「ふええっ……、すごいっ……、きれえぃ……!

 ドエスで悪魔なケーマから、ドエムで天使な芸術が生まれたっていう感じぃ……!」


 今日もローラの語彙力は、嫌な方向に全開だった。


「食べてしまうのが惜しいな……」

「きれいですぅ……」


 ローラが謎な語彙を発揮し、ロロナとフェミルが普通に褒めた。

 さぁ、食うぞ!

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