なんだかんだで。

 半ば自主的に服を脱いだローラが、オレに服を取ってこいと言った。

 オレはカゴのほうを見る。

 茶色いカゴがみっつある。


 ロロナの服が入っているカゴがあり、フェミルの服が入ってるカゴがあり、ローラの服が入っているカゴがある。

 頭にふわりと、選択肢が浮かんだ。

 ローラの服が入っているカゴ……どうしようか。


 →捨てる。

  燃やす。

  焼き払う。


 ふしぎなことに、『持っていく』という選択肢は浮かばなかった。

 オレは真ん中を選んだ。


「ファイア」


 手からでた火が燃え移り、カゴがメラメラと燃える。


「ふにゃあぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 ローラの悲鳴が響き渡った。


「ちょちょちょちょ、ケーマ!

 なにやってんの?! なにやってんのおぉ?!?!?!」


「オレがこの服を燃やしたら、オマエはその格好で街まで行くのかな……? と思ったらつい」

「それが理由で『つい』ってひどくないっ?!」

「安心しろ。イザとなったら――」

「なったら……?」


「オレも裸で歩いてやる」


「安心できる要素がなくない?!

 むしろアウトがライジングしてるわよねっ?!?!」

「まぁ、さすがに冗談だ」

「そっ、そうよね……。

 いくらケーマだからって、自分も裸になったりはしないよね……。

 アタシを裸で歩かせることはあっても……」


(ローラ殿は、自分が裸で歩かされる想定はしているのか……)

(さすがです……)


 ロロナとフェミルが、謎の感心をしていた。


「っていうかオマエ、自分の服の構造ぐらいは把握しとけよ」

「ふえ?」

「耐火性だろ、オマエの服」


 オレは燃え尽きたカゴから、無傷の服を取りだした。


「ニワトリの炎を食らった時とかも、焦げ目のひとつもついてなかったじゃねーか」

「そっ……そう言えばそうだったわ……!」

「まぁ渡さないけどな」

「ふええっ?!」

「こっちつけろって話だよ」


 オレはローラに水着を渡した。

 フリルのついた白いビキミだ。


「普通のがあるなら、最初の時点で渡してよぉ……」


 ローラは渋々言いながら、オレが渡した水着を着こんだ。

 スタイルだけなら女神なローラは、水着がとても似合ってた。


「よし、行くか」


 オレはオアシスに入った。

 ざぶん。と腰まで浸かる。水はひんやり冷たくて、透明度も高い。

 ナマコとか魚とかが見えた。


「……」

「……」

「……」


「どうした?」

「わたしは先刻述べたように、水の中に入る予定は……」

「アタシは、ケーマが採ってくればいいかなって」


「フェミルは?」

「わたしは、水が……、その……」

「泳げないのか?」

「そもそも、もぐろうとしたことがないです……ぴょん」

「そうか」


 オレはひとりで先に進んだ。

 進むごとに傾斜がキツくなってくる。

 慎重に進んでいたが、水が肩のあたりまできたのでもぐる。

 ふたつの事実に気がつき浮上。陸地に向かう。


「おかえりケーマ! ツノフグ採れた?!」

「まだなんだが……重要なことに気がついた」

「なにっ?!」


「水の中では息ができん」


「当たり前でしょバッカじゃないのっ?!」

「水魔法」

「あいたぁー!」


 叫んだローラは、水の魔法で目潰しを食らって喘いだ。

 座るのにちょうどよさそうなうつ伏せにもなったので――。


 オレはローラの上に座った。


「げふうぅ!!」


 女神がだしてはいけない声がでていた。


「これが必殺の女神ソファーか……」

「女神ソファー?!」

「女神ソファーとは、四つん這いになった女神の上に座る、煉獄の奥技!」

「意味わかんないわよおぉ!!」


 ローラは必死に叫んでいたが、オレは作業を始める。

 ロロナに頼んでナイフと簡易テーブルとまな板を持ってきてもらい、オアシスの中にいたナマコを乗せる。

 泥みたいにくすんだ色の、まずそうなやつだ。

 いざ切ろうとしたところ、ローラが叫んだ。


「おりてよおぉ!!」

「重いか?」

「そう聞かれると……、重くもないし、苦しくもないし、

 凝ってたところにケーマのお尻が当たってて、

 ちょっと気持ちいいぐらいだったりはするけど……」


「座られて気持ちいいとかヘンタイかよ」

「座ってるケーマには言われたくないわよ!!」


 もっともである。

 しかし気持ちいいんなら、オレはおりないことにした。

 というか苦しくならない程度に、手加減はしてるしな。


「ふえぇんっ……、そこっ……」


 オレがわずかに動くたび、ローラは気持ちよさそうだった。

 やはり胸が大きいと、肩が凝るってことなんだろうか。


(今度は普通に、マッサージでもしてやるかな)


 などと考えながら、作業を続ける。

 ナマコの頭と尻の硬い部分を切り落とし、仰向けにして包丁。

 まずそうな見た目から、そこそこおいしそうな白身がでてきた。

 内臓を取り除き、丁寧に水洗い。


 トン、トン、トン。

 細かくスライスしていった。

 形容しがたい見た目だが、あえて言えばカマボコといった感じになった。

 ひとつ摘まんで食べてみる。


 ぐりゅっ、ごにゅっ、ごにゅっ。

 なんとも微妙な味だった。

 というか味がまったくない。

 においのしないゴムを噛んでいるような感じだ。


 だが触感は、なかなかに楽しい。

 噛むたびに歯を押し返す、独特の弾力がある。


(味付け次第の食材って感じだなぁ)


 と思いながら飲み込んだ。

 てれれ、てってってー。

 レベルがあがる。


 レベル     1755→1756(↑1)

 HP      23010/23010(↑8)

 MP      22514/22514(↑7)

 筋力      23335(↑5)

 耐久      25153(↑3)

 敏捷      22133(↑3)

 魔力      21934(↑4)


 ステータスの上昇は些細だったが、問題はスキル。

 果たして――。


「あった」


 水中呼吸レベルMAX 9999/9999


 ◆スキル解説・水中呼吸

 水の中でも呼吸ができる。


 これさえあれば、水の中でも平気だぜぇー。

 HAHAHA!

 しかし食べたもののせいか、イヤなスキルも身についた。

 これだ。


 なかみでいかく レベル3 80/500


 ◆スキル解説・なかみでいかく。

 敵がきた時に中身――つまり内臓をだして威嚇するナマコのお家芸。

 人が使ったら死ぬ。


 効果も絵面えづらも最悪だった。

 無数のハズレスキルを習得してきたオレであるけど、ぶっちぎりの最低スキルだ。

 確かにナマコは、敵がきたら内臓をだして相手を威嚇する生き物だ。

 だからって、それがそのまま身についてくるとか……。

 人が使ったら死ぬっていうのも、まったく意味がわからない。

 永久封印確定である。


 そんなナマコを二匹食べ、ローラから降りた。

 オレの下にいる寝そべったままのローラを、足で仰向けにして抱きあげる。


「ふえっ?!」


 ローラは戸惑っていたが、いっしょにオアシスに飛び込んだ。


(ん~~~~~~~~~~~~~~~○×△$■っ!!!!!)


 窒息すると思っているらしい。

 ローラは鼻や口を押さえた姿勢で、パニックを起こしていた。

 オレはほっぺたをつねる。


(お・ち・つ・け)

(ふぎぇ……)

(普通に息できてるだろ)

(ふえ……?)


 ローラは口をぱくぱくと動かし、水を飲んだ。

 普通であれば苦しいはずだが、今は完全に平気だ。

 声はうまくだせないために口パクだけれど、なんとなく伝わりはする。


(ほんとだ……)

(まったく。腐れゴミ駄女神が)

(そこまで言わなくってもいいじゃない!)


 オレはため息ならぬ、ため水を吐いた。


(っていうかどーして、アタシを引き込んだのよ!)

(これだよ)


 ローラの頭を引っつかみ、首を九十度回転させた。

 ローラに見せるは、オアシスの絶景だ。

 赤や青、緑に黄色の色鮮やかな熱帯魚たちに、クッションサイズの桜貝。

 エメラルドグリーンの巻貝を背負った、赤いヤドカリなどもいる景色。


(きれぇ……)

(だろ?)

(アタシにこれを見せようとしてくれたの?)

(結論としてはな)


 ローラの顔が、にわかに赤くなってきた。


(もおっ、もおぉ、ケーマってば、ケーマってばあぁ。

 なんだかんだで、アタシにラブラブなんだからぁ~~~~~~~~)


 腐れ駄女神は、右手をほっぺたに当てた。

 身をくねらせながら左手で、オレをぽかぽかと叩く。


(ふえへへぇ。そうよねぇ。

 見た目も中身も国士無双に完璧なアタシ。

 好きじゃないはずないわよねぇ~~~~~~~♥♥♥)


 その顔は愛らしく、オレの顔が熱くなる。

 赤くなっていやがるんだろうと思い、恥ずかしくなった。


(そっ……、そういうのじゃねーから!)

(じゃあ、どういうのだっていうのよぉ~~~)

(この景色は見せてやりたいと思っただけっつーか……。

 まぁ、そんな感じだよ)


(ふえへへぇ、そうなんだぁ。ふえへへへぇー♥)


 ローラはやたらニヤけてた。

 オレはため息をつきたい気分だったが、つくにつけなかった。

 やはり赤くなっている顔が、ローラの言葉を否定し切れないからだ。

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