邪知暴虐なケーマさん

 サソリを倒したオレたちは進む。

 外敵が近づくと動いて威嚇する、踊りサボテン。

 穴を掘って暑さを凌ぐ、あなほり子豚。

 サボテンにくっついて擬態している上、こっちが近づくと針を飛ばしてくる、サボテンハリネズミなどもいた。


 てれれ、てってってっー。

 てれれ、てってってっー。

 てれれ、てってってっー。

 食べたおかげでレベルもあがった。


 レベル    1721→1751(↑30)

 HP      22962/22962(↑270)

 MP      22440/22440(↑240)

 筋力      23300(↑245)

 耐久      25090(↑200)

 敏捷      23130(↑254)

 魔力      21920(↑220)


 習得スキル

 あなほり  LV2  23/300

 針飛ばし  LV2  10/30

 サボテンの振りLV1 2/50

 ふしぎな動きLV1  3/150


 スキルも色々ゲットしたが、ほとんどハズレだ。

 あなほりは普通に使えそうだが、針飛ばしは使えない。

 前にも習得したスキルだが、人が使うと髪の毛を飛ばす――つまりHAGEに近づくという、トンでもないスキルなのだ。


 サボテンの振りとふしぎな動きに至っては、もっとわかりやすく使えない。

 例えばオレがサボテンの振りを使うと、こうなる。


 └(・_・)┘


 以上だ。

 これ以上の効果はない。

 ふしぎな動きも発動させると、└(・_・)┘の状態でくねくねと動くことになる。


 事情を知らない人の前で使うと、呪われているんじゃ……? と心配されてしまう動きだ。

 しかもふしぎな動きのほうは、『音を聞くと自動で動く』っていうシステムだ。

 つまりスキルをonにしてると、音を聞くたび体が勝手にくねくねと動く。

 完全に呪いだ。


 食べた生きもの以外だと、サボテンに穴をあけてその中に住んでいるキツツキなどがいた。

 とてもかわいかった。

 サボテンの中から、顔をちょこんとだしていたのだ。


 オレたちに気がつくと、つぶらな瞳で首をひょこっとかしげたりもしていた。

 特にローラは、気に入ったらしい。


「ふえぇん、かわいぃ~~~~~~~~~~~~~~~」


 と悶え、オレから木の実を受け取り小鳥に与えた。


〈ぴちゅっ?〉


 小鳥はちょこっと首を伸ばして、ローラの手のひらのエサを突っついた。

 絵になりそうな一枚だ。

 しかしながらオレは思った。


「焼き鳥にしたら美味いかな……?」

〈ピイィ?!〉

「ダメよぉ! ダメぇ! ダメダメダメえぇ! なんていうか……ダメえぇ!!!」


 そんなふうに止められたので、食べるのは諦めた。

 体のサイズを考えると、肉もあまりなさそうだしな。


 改めて進む。

 奇妙なオブジェクトを見つけた。

 巨大サソリの死体だ。

 つい先刻にオレが倒したやつより、一回り大きい。

 そんな死体がサボテンに、突き刺さった形で置かれていた。


「なんだこりゃ」

「ガ……ガルガロスのハヤニエ……かと」

「知っているのか? フェミル」


「硬いサボテンとか尖った岩に、大きなモンスターを突き刺す行動です。

 捕えた獲物を保存するためとも、ナワバリを誇示するため、とも言われております……」

「どっちにしても、ガルガロスの生活圏内には入ったわけか」


 オレが言うと、ロロナとフェミルがつぶやいた。


「しかし、この大きさのサソリを捕えてしまえるとは……」

「相当な強敵と言えそうですね……」

「ということは、アタシの出番ね!!」


 ローラが叫んだ。


「あの布を被せている『秘密兵器』、使ってもいいんじゃない?! ケーマ!!」

「そうだな」


 オレは布を取り去った。

 果たして現れたのは――。


 オリ。


 ライオンなどの、猛獣を入れるオリである。

 オレは船からオリをおろした。


「これが……『ひみつへいき?』」

「リーゼルの宮殿にあった、鋼鉄とハーフミスリルの合金で作られたオリだ。

 ピュアミスリルほどではないが、強固だと聞いている」

「頑丈そうなのはわかったけど……」

「けど?」


「このオリだけじゃ、アタシはなにもできなくない?

 それにオリの入り口が、あのサソリよりも小さい感じよ?

 オリってことは、ガルガロスを入れるんでしょ?」


「妙な時だけ察しがいいな……」

「ふえ?」


 オレは言う。


「あ、空飛ぶロースが空を飛んでる」

「なにそれすごい!!! どこどこどこっ?!?!?!」


 そんなもんあるわけないだろうに、ローラはめっちゃ首を振り、空飛ぶロース肉を探した。

 オレは隙だらけになったローラの襟首を掴み――。


 オリの中に放り込む。


「ふええっ?!」


 扉を閉めてカギをガチャン。


「ふえええっ?!?!?!」


 ローラは格子を引っ掴み、ガチャガチャと暴れた。


「なにこれケーマ、どういうことっ?!

 どういうことおぉぉぉ?!?!」


 オレは爽やかに言った。


「せっかくだから、オマエを囮に使おうと思って」

「なんでそんなトンデモナイこと、澄み渡る青空みたいな顔で言ってるの?!?!?!」

「オマエが寝ながらでも活躍できそうなことって思うと、それしか思い浮かばなくってな……」

「いやあああああああああああああああああああああ!!!」


 ローラは必死に叫んでた。


「ロロナ」

「うっ、うむっ」


 オレはロロナから、各種の玉が入ったバックパックを受け取った。


「閃光玉や粘着玉が十個ずつ、この中には入ってる。やってきた敵にうまくぶつけろ」

「待って待って待って! 本気なのっ?! ケーマってば本気なのおぉ?!?!?!」

「いくらオレでも、冗談でこんなひどいことはできない」

「余計にタチが悪いんだけどおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!?!?!」

「安心しろ、ローラ」


 オレはローラの両手を握りしめ、まっすぐな瞳で言い切った。


「オマエのことは……絶対に守る」

「ふえっ……」


 ローラのほっぺが赤くなる。

 トクゥン……みたいな擬音がでてきていそうな感じだ。

 が――。


「ってナニをアタシはときめいてんのよ!

 犯人はケーマ! 邪知暴虐にして、除かねばならぬケーマなのに!!!」


「HAHAHA」


 オレは高らかに笑うと言った。


「まぁでも、真面目にイヤならやめてもいいぞ?

 さすがにこれは、ちょっとばかり鬼畜かなって思ったし」

「これで『ちょっとばかり』って、ケーマの辞書はどうなってるのよ!!」

「この世界にきて以来、改稿作業が多発してな……」


「ふえぇんっ!!」

「とにかくそういうお話だ。真面目にイヤならやめてもいい――が」

「が……?」

「もしも囮役を完璧に決めたら……ツノフグの一番うまいところは、オマエにくれてやろう」


「ふえっ……?!」

「屋台で食べたモチモグラ、おいしかったよなぁ……?

 アレよりもうまいらしいツノフグの、一番おいしいところがオマエのものになるんだぜェ……?」

「ふえっ、えっ、ふえぇ……!」


 ローラの瞳がうるやかに輝いた。

 口からヨダレも湧きでてる。


「オマケにそんな危険な役割を無事に遂行したとなれば……尊敬しちゃうかもなぁ、オマエのこと」

「今までしてなかったの?!?!?!」

「そりゃそうだろ……」


 オレは呆れてしまったが、ローラはしばし悩んで言った。


「わ、わかったわ!

 こここ、今回は特別に、囮役をやってあげるわっ!!」

「そうか」


「ちゃちゃちゃちゃ、ちゃんとわたしに一番おいしいところを食べさせるのよっ?!

 でないとでないと絶交だからねっ?!

 邪知暴虐なケーマのことを、除かねばならぬと決意するからねっ?!」


「わかったわかった」


 オレはローラの頭を撫でた。



――――――――――――――――――――


【ご報告】

食べるだけでレベルアップの新刊が、3月の18日に発売されます。

http://www.fujimishobo.co.jp/sp/fantasiawebnovel/#201703taberudake


リンク先を見ていただければわかりますが、駄女神がとてもかわいいです。

大幅な書下ろしもついておりますので、お買い求めくださるとうれしいです。

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