砂漠に突入!

 作戦の詳細は伏せたまま、オレはあれこれ準備を始めた。

 バザーはもちろん、リーゼルの宮殿にも出向いてあれこれ素材を入手する。


「色々と悪いなぁ、リーゼル」

「今のボクは、見逃してもらった身だからな……」

「あと、これとは別に、西の巨大オアシスに行くまでの船ともうひとつ…………を頼む」

「なんに使うんだ……?」

「それは企業秘密ってことで」


 オレは軽やかに流した。

 そして次の日。

 オレは海砂漠の前にきていた。


「うーんっ、いいお天気と風ね! アタシの前途を象徴してるわ!!!」


 駄女神が伸びをする。

 きのうたっぷりと惰眠を貪ったせいだろう。肌はツヤツヤで顔はイキイキとしていた。


〈キュー!〉


 船を引く砂イルカたちも元気だ。


「ところでケーマ。船の後ろに繋がれてるアレはなに?

 白い布が被さっていて見えないんだけど」


「秘密兵器だ。オマエを大活躍させるためのな」

「それは楽しみね!」

「閃光玉に悪臭玉に、粘着玉や発煙筒も準備ができているな……」


 ローラが揚々と答え、キャディをやってくれるロロナが自身の荷物を確認した。

 かなりの重装備である。

 腰の左右に玉を入れたバックパック。

 ほどよくむっちりとした太ももには、発煙筒の入ったホルスター。

 タバコ的な草とトウガラシ的な草を織り交ぜて作られた発煙筒は、かなりの催涙性がある。

 きのうローラで試したが、ひどいことになっていたので間違いない。


 背中には、二本の剣をX《クロス》の形で背負っている。

 オレの剣が折れた時のための予備である。


「キャディって、本当に重装備なんだねぇ」

「マスターがダンジョンの攻略やハントに集中できるよう、最善の準備を整えながら、自身もモンスターの攻撃を回避することが要求されるからな。

 モンスターにはあまり接近しなくてもよい分ハンターよりも楽ではあるが、油断できるものではない」


「なるほど」


 オレはロロナの姿をしげしげと眺め――。


 おっぱいを握った。


「きゃああっ!!」


 ロロナは胸元を押さえ、真っ赤になって抗議してくる。


「ななななっ、なにをするのだっ?!?!?!」

「その胸元のふくらみには、なにか仕込んでるのかなと思って」

「さわる前に聞けばよかろうっ?!」

「答え聞いたら、さわる口実がなくなるし……」

「ケーマ殿おぉ!!」


 怒られてしまった。

 言えばさわらせてくれるロロナだが、急なセクハラとなると怒る。


「にいちゃん、行くなら早く行こうぜ!」


 少年の声にうながされ、オレは船へと乗り込んだ。

 船は高速で進む。

 南国のようにカラリと爽やかな風が、頬を撫でて髪をなびかす。

 船の先頭に立って、ヘリに手をかけていたローラが叫ぶ。


「ふえぇーん、気持ちいぃ~~~~~!!」


 やたら短いスカートがはためくが、その下は見えない。

 ローラのスカートはふしぎなことに、オレがめくらないとその下が見えない。

 ただ今は、スカートよりも風を感じていたい気分だ。


 オレは目を閉じ風を感じた。

 気持ちいいなぁ……ほんと。

 進むことしばらく。

 少年が叫ぶ。


「見えてきたぜ!」


 オレは目をあけ、ローラの隣に立った。

 かなり遠目に、オアシスらしきものがうっすら見える。

 それが段々、濃くなってきた。

 残り二十メートルか三十メートル。


〈キキィー〉


 しかしイルカは、止まってしまった。

 少年が、三メートル近い棒を取りだした。砂を突っつく。

 ずぷっ、ずぷっ、ずぷっ。

 棒は半分程度しか埋まらなかった。


「浅瀬に入ったってことか」

「そうなるな。

 だからあとは、船に乗せた小舟で、海砂じゃない普通の砂があるところまで……」


 少年がなにか言ってたが、オレはローラを抱えてジャンプしていた。

 風魔法も使用して滑空し、着地できる砂地の上に着地する。

 踏むと沈んでしまう海砂は白いため、普通の砂との違いは簡単につく。

 ローラを着地させたオレは、再びジャンプして船に戻った。


「…………」

「どうした?」

「今のジャンプは、色々おかしいと……」

「しかしそれが、ケーマ殿でもあるからな……♥」


 ロロナがオレの背中にひっつく。

 オレはジャンプし、ロロナも運んだ。

 再び船に帰還して、船の後ろのロープを引っ張る。

 ロープの先には小舟がある。ローラ大活躍の秘密兵器を乗せているものだ。


「そっちに行くから気をつけろよー」


 小舟をグイッと足で押す!

 ずごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!

 小舟は白い海砂をかきわけながら、岸にまで届いた。


「じゃあここで、気をつけてな」

「あっ、ああっ」

(こくっ。)


 少年とマリンにそう言って、フェミルをおんぶして跳んだ。

 ザク、ザク、ザク。

 砂を踏みしめて進む。


 秘密兵器を乗せた船は、オレが引っ張っている。

 この小舟は犬ソリのように、普通の砂漠の上でも使えるのだ。

 海砂と砂漠が混合しているこの地方ならではの知恵である。


 本当は専用の動物を使うらしいが、オレの場合は普通に行ける。

 ロロナとフェミルは先頭に立ち、敵の気配や音を聞く。

 ロロナの尖ったエルフの耳と、フェミルのかわいいウサギの耳がぴくぴくと動く。

 ロロナが叫んだ。


「ストップだ!」

「どうしたの? ロロちゃん」

「今そこの砂丘から、イヤな気配を感じた」

「ふえ……?」


 ローラは首をこくりと傾げた。

 確かに一見する限り、ただの砂丘にしか見えない。

 だがオレも、スキルの力でイヤな気配を感じている。

 右手をかざして風を放った。


「ウインド!」


 ぶわっと巻き起こる風が、大きな砂丘を吹き飛ばした。

 巨大なサソリが現れる。


 体の色は砂の色。

 その大きさは三メートル超。

 ハサミも禍々しいほどに大きい。丸太や人の胴体であれば、軽く両断できそうだ。

 威圧するかのような形の尻尾は、振り回すだけでも凶器になりそうである。


「砂丘に隠れてるとか」

〈Kisiiiiiiiiiii!!!〉


 巨大サソリがいきり立つ。


「どいてろ」


 オレはロロナをかばうように前にでた。

 斬撃を放つ。

 ズババババッ!

 木をも切り裂く剣圧は、しかしサソリには効かなかった。


 カウンターのハサミ。

 サイドステップで回避する。


 バツンッ!

 五メートルぐらい後ろにあったサボテンが、真っ二つに切断された。


「風圧だけでこの威力か」

「ファイアーボール……です!」


 フェミルがサソリの横手から、ファイアーボールを放った。

 岩をも溶かす、直径二メートル級の豪火球。

 が――。


 効かない。

 完全に無傷。


「はうぅ……?!」


 サソリの体が、戸惑うフェミルのほうに向く。


「はっ!」


 ロロナがサソリに、粘着玉を投げつけた。

 玉はサソリの目に当たる。


〈Kishaaa?! Kisiッ、Kisiiiiiiッッッ!!!〉


 突如視界を奪われたサソリは、その場でメチャクチャに暴れ狂うっ!!

 大きな岩やそそり立っていたサボテンなどが、目茶苦茶に破壊された。

 どの攻撃も、生身の人間が食らえば一撃で破壊されかねない。


 それでいて硬い。

 岩をも溶かすファイアーボールや、丸太や石の床なども切り裂ける斬撃を当てても無傷。

 こんなやつが普通にいるんじゃ、いろんな玉が必要って言われるのも納得だ。


 とは言いつつも、オレなら普通にいけそうだな。

 剣圧だと難しいので直で切る。


 ズバーッ。


 巨大サソリは、中央から真っ二つになった。

 緑色の体液がエグい。


「ケーマ殿……」

「ケーマ様……」


 ロロナとフェミルが、あきれたようなジト目でオレを見てきた。


「そこはやっぱり、さすがのケーマっていうことね!」


 ローラはなぜか、得意げだった。

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