駄女神も、ごくごくたまにはやる気だす。
一日がすぎた。
ファントムシャドウになってしまったフェミルだがせっせとがんばってくれたおかげで、玉はたくさんできあがった。
「閃光玉と悪臭玉が三〇個に、粘着玉が二〇個か」
「はい……!」
「かなり多いんだな」
「低級のモンスターを狩る場合には、採算の問題もあるので玉はあまり持っていくものではありません。
しかし中級や大級のモンスターと戦う場合には、これぐらいは必須かと……」
「ロロナから見てもそんな感じ?」
「わたしの場合、中級であれば単独でも討伐はできる。
しかしそれ以上となると、二桁近い精鋭からなる部隊を組むか、玉なりマジックアイテムなりを持っていくかはしないと厳しい。
ケガをしてもよいから勝てばよい――というものではないからな」
「ああそっか。無傷で勝つことを前提に考えてるのか」
「ケガをしたら治るまでは動けませんし、治癒魔法をかけてもらうのにもおカネがかかりますし……」
フェミルはどんよりうつむいた。
普段は明るくていい子なのだが、金銭が絡むとナイーブになりやすい。
「しかしこれだけの玉ってなると、持ち運ぶだけでも大変じゃないか?」
「だから基本は、ダンジョンキャディやハンターキャディを雇う」
「必要なアイテムを投げ渡したり、倒したモンスターの素材や肉を運んでくれる人ですね」
「モンスターやダンジョンの生態や特徴を教えてくれることもあるな」
「フェミルもロロナも詳しいんだな」
「わたしたちが詳しいというよりは……」
「ケーマ様が、知らなすぎるのでは……」
どうも今のお話は、この世界では常識らしかった。
「ケーマって、意外に常識を知らないのよねえぇ~~~」
しかしローラが、にたにたと笑顔で言ってくるのはムカついてくる。
ほっぺたをつねった。
「ふええぇ~~~~~~~~~~」
はぁ……。
落ち着く。
静かな湖畔で小鳥のさえずりを聞いているかのようだ。
「ローラさんは、常識よりもケーマさんのことを知るべきでは……」
「しかしながらアレはアレで、羨ましいものが……」
フェミルとロロナは、そんなふうに言っていた。
◆
準備が終わり、そろそろ出ようかとなったところでローラが叫んだ。
「ケーマ!!」
「なんだ?」
「ツノフグを取りに行く戦い、アタシも活躍させてもらうわ!!」
「どういう風の吹き回しだ?」
「最近ケーマ、アタシに対するあつかいが、不当に軽くて国士無双にひどいじゃない!」
「不当に……?」
「ほらほらほらほら、それそれそれぇ!!
そうやって、アタシがダメな女神っていう前提でお話しようとしてるうぅ!!」
「まるでオレが、事実ではないことを言っているみたいだな」
「たっ……ただアタシもね、まったく思うところがないわけじゃないのよ!
確かに最近はちょっと、活躍していないかなっていう気もしてるのよ!」
最近。
ちょっと。
気もしてる。
駄女神による、突っ込みどころの無双三段であった。
しかし駄女神が働きたいと言ってくるのは、なかなかにうれしい。
(ようやくコイツも、女神らしいことをする気になったのか……!)
今までの役に立たないローラの姿が、走馬灯のように蘇る。
ライオンと対峙した時、くしゃみで居場所をバラしたローラ。
クリオネと対峙した時、くしゃみで居場所をバラしたローラ。
ニワトリと対峙した時、自分から突っ込んで行って悪目立ちしたローラ。
街についてからは毎日ごろごろだらだらとして、惰眠と惰食をむさぼるだけの毎日で、たまに料理をしたかと思えば、人を爆殺できるバクレツダケを鍋に入れようとしていたりで……。
オレは思った。
(ろくな思い出がねぇ!!!)
待って待って待って!!
いくらなんでもひどすぎない?!
腐れ駄女神、腐れ駄女神だとは思っていたけど、想像以上に腐ってないっ?!
たまにかわいいのとおっぱいが大きいのとを取り除いたら、いったいなにが残るんだ?!
たまにかわいいし、かわいいけど!!
しかしその駄女神が、今回は真面目にやってくれると言うのだ。
その心意気だけで、もう抱きしめてやりたい。
「どんな作戦があるんだ?」
「ないわっ!」
即答であった。
「こういうふうにがんばりたいとか、そういうのは……?」
「ないわっ!!」
即答であった。
「寝てるだけでいいぐらいに楽で、なおかつアタシが大活躍できるようなやつ!
まぁちょっとぐらいなら、動いてもいいけど!」
「それを考えるのは……?」
「ケーマ!」
「尊敬されるのは……?」
「アタシ!!!」
「おおぅ……」
想像以上にダメすぎる。
オレは頭痛が痛くなった。
そしてオレの頭の痛みを、ローラは別の意味に捉えたらしい。
慌てた感じで言ってくる。
「けけっ、ケーマがうまいこと思いつかないんなら、ロロナちゃんやフェミルちゃんと考えてもいいわよっ?!」
「ひとつ……あると言えばあるんだが……」
「どんなの?! ……って、やっぱりいいわ! 聞かないでおく!
現場のぶっつけ本番で決めたほうが、なんかすごくてケーマもアタシを尊敬してくれる気がするもん!!」
「……そうか」
「うんっ!」
ローラはぴょーんっとジャンプして、ベッドにパフンとダイブした。
白い枕に顔をうずめて耳もふさぐ。
「さぁケーマ! 存分に準備して!
アタシは見ざる聞かざるで、完璧に作戦をこなしてみせるから!!」
そして二分後。
(くぅー……。すぴぃー……。くうぅー……)
駄女神は寝入った。
やる気にあふれていたはずなのだが、やっていることはいつもと同じ、ベッドでスリープであった。
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