閃光玉や絵の具を作る~デストロイフォロー編~

 買い物が終わって宿屋。

 少年が材料をおくと、フェミルが言った。


「買い物をしていて思ったのですが……作るのは、閃光玉と悪臭玉ですか?」

「そうだけど……」


「それならわたしも、作り方を知ってます!!

 学園で作ったこともあります!! ケーマさま!

 わたしは作り方を知っていて、作ったこともあります!!!」


 フェミル渾身の、お役にたちますアピールであった。


「そういうことなら任せようかな」

「はいっ!」


 フェミルは満面の笑顔でうなずいた。

 ウサギの耳はピィーンっと立って、お尻の尻尾はパタパタと振れている。

 ウサギの獣人と犬の獣人のハーフでもあるフェミルは、バニーのかわいさとわんこのかわいさの両方を持っている。


 まずフェミルは、光虫を取りだした。

 金色に輝くカナブンのような虫だ。

 大きさは、手のひらサイズと大きめだ。


「ええっと……マリンさんは、こちらを手伝ってください」

(こくっ。)


 フェミルはマリンに粘土を渡すと、光虫をすり鉢に入れた。

 ゴッゴッゴッ。


(ねりねりねり。)


 ゴッゴッゴッ。


(ねりねりねり。)


 フェミルが光虫を砕こうとする横で、マリンが粘土を練り始める。

 一生懸命だったフェミルだが、顔は苦痛にゆがみ始めた。


「はうぅ……」

「どうした?」

「授業で潰した個体より、少々硬くって……」

「そんならオレが潰そうか?」


「いえいえいえいえ大丈夫ですっ!

 ケーマさまは、じっと見ていて休んでいてください!!」


「でも作り方を覚えておくことは、オレの経験にもなりそうだし」

「はうぅ……」


 オレは半ば無理やりに、フェミルの手前にあったすり鉢を奪った。


「アタシ以外にはやさしい……」


 ローラがぼそりと言ってたが、気にしないことにした。


「えっ、ええっと、ケーマ様。

 その光虫は、見た目以上に硬いですからね?

 ケーマ様でも、コツを掴むまでは少々大変……」


(ぐしゃっ! ごりごりごりごりごり)

「…………」

「どうした?」

「なんでもありません……」


 フェミルはしょぼんとうなだれた。

 頭のかわいいウサミミも、しおっと垂れる。


「潰したが、どうするんだ?」

「粉になった光虫を、特製のハーブを入れたお湯で煮込みます」

「ほぅ」


 オレは鍋に、ハーブを入れた。

 お湯が沸騰したところで、光虫の破片を入れる。

 金色の外殻が溶け、お湯が金色に輝き始めた。


「これ潰す必要はあったのか?」

「元々の体にも、金色の部分を溶かす成分があるらしいんです!

 ですから丸のままゆでると、時間がかかると習いました!」


「へぇ」

「そうだったんか……」


 オレはもちろんのこと、作りかたを知っているはずの少年まで驚いていた。


「ししししっ、仕方ねぇじゃん!

 おれは学校なんて行ってねぇし、そういうモンとしか聞いてねぇし!!」

「まぁちゃんと作れるんなら、オレとしてはどっちでもいいかな」


 と言いながら、鍋を見守る。


「光虫が溶けたら薄いゴム袋に液体を入れて、粘土で包みます」

「粘土の種類はなんでもいいのか?」

「基本的には、なんでもいいはずです」

「そうか」

「あとはこのまま、一晩おけば完成なんですが……」

「が?」


 フェミルは、黄色い鉱石を取りだした。

 薄い革袋に入れ、短剣の柄で潰す。

 ガッガッガッ。

 ガッガッガッ。


 出来上がった粉を、小皿に入れて水で溶かす。

 しばらくすると、黄色い部分が下に、透明な部分が上に生まれた。

 時間をおいた味噌汁みたいな感じと言えば、伝わるだろうか?

 フェミルは透明な部分をスプーンですくって、色のついたところだけを残す。


「次はどうするんだ?」

「一晩おいて、乾くのを待ちます!」

「時間かかるな」

「こっちを早く作ったところで、玉が乾くまでの時間がありますので……」

「だけど早く完成を見たいな」


 オレは手から熱風をだした。


「はうっ?!」

「ケーマ殿っ?!」


 驚くフェミルとロロナに、解説を入れてやった。


「火魔法の熱エネルギーを発火寸前まで高めて、風魔法で送ってやってる感じだな」

「比較的相性のよい風と火とはいえ、二属性魔法を同時に使用できるなどというトンでもスキルを前提に会話されても困るのだが……」

「でも、さすがです……♥」


 ロロナは呆れたように目を伏せて、フェミルはうっとり頬を染めた。

 液体が乾いた。

 黄色い粉だけが残る。


「あとはこの粉に、セッチャクアルマジロの皮から取れた、アルマジロニカワと呼ばれる、透明な接着剤的なものを入れれば完成ですが……」

「が?」

「わたしにやらせてください!!」

「えっ?」

「ニカワの配合は今までと違って、大雑把な感じではできません! ケーマ様でも、失敗する可能性がございます!!」


 フェミルは一生懸命に、『お役に立ちたいですアピール』をしてきた。

 かわいい。


「じゃあ任せるか」

「はいっ!」


 フェミルは尻尾をふりふり振って作業に入る。

 スプーンを使ってニカワをすくい、量を測って小皿に入れる。

 眼差しは真剣で、お尻の尻尾もピイィン……! と立ってる。

 緊張の仕草だ。


 チマチマ入れては棒で混ぜ、チマチマ入れては棒で混ぜる。

 できあがるのは、黄色い絵の具。

 使われている材料の性質に違いはあれど、基本的には地球における『石から絵具を作る方法』とほとんど同じだ。

 フェミルは筆で絵具をすくい、玉にペタペタ塗っていく。


「こうして玉に色をつければ、ほかの玉と混合したりすることもなくなるんです! へへぇー」


 フェミルはほっこりと愛らしい笑みを浮かべた。

 オレやロロナもにこりとほほ笑み、やさしい空間が生まれる。

 だがしかし、余計な発言に定評のあるローラが言った。


「玉も絵の具も、普通に買えばそれでよくない?」


 ピシッ――。

 部屋の空気が凍ってしまった。


「た……玉も絵の具も、けっこうな値段がしますので……」

「作れば一個二〇〇かそこらなのに、買うと六〇〇バルシーとかするもんなぁ」

(………こく。)


 少年とマリンのフォローも入るが、ローラはさらりと続けてしまう。


「四〇〇の差なら、買ったほうが早くてよくな――――ふみいぃ~~~~~~~~」


 オレはローラのほっぺたをつねる。


「なにするのよケーマ! 今のアタシ間違ってないでしょ?!」

(いいからアレ見ろ。アレ)

「ふえ?」


 ローラはオレが指差した先を見る。


「ふへへ……いいんですよ。ローラさんがおっしゃる通りですから……。

 買うか作るかで四〇〇バルシーの差がでる閃光玉や悪臭玉は、十個作れば四〇〇〇バルシー、二十個作れば八〇〇〇バルシーの差がでます。

 でもケーマさんの力と財力があれば、そのぐらいはなんていうこともなく稼げますからね……。

 ふへへへ、へへ……。

 日ごろ影の薄いわたしが、目立とうとか思ってすいませんでした……」


 どんより落ち込むフェミルを見つめ、ローラはようやく気がついた。


「だだだだ、大丈夫よ! フェミルちゃん、影が薄いとかないから!

 むしろ今のフェミルちゃん、国士無双に影そのものだから!

 ファントムシャドウそのものだから!!!」


 悪気はないが流れがひどい、ローラのデストロイフォローであった。

 フェミルは、「はうぅ……」と落ち込んでしまう。


「どどどど、どうしよう、ケーマあぁ」

「とりあえず土下座か?」


 オレはローラの頭を掴んだ。


「ふええっ?!」


 そんなこともあったりしたが、玉はかなりの出来だった。

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