砂漠モチモグラを食べる。
ツノフグの話を聞いた次の日の朝。
オレはバザーに参加していた。
ホロのついた屋台が並び、思い思いの商品を売られている。
オレやローラたちの前には、ひとりの少年。
スラムにいた、サメの漁師の息子だという少年だ。
「だけどにいちゃん、ほんとにツノフグを狩りに行くのか……?」
「ヤバくなったら逃げるけどな」
「ガルガロスは、デカい上に早い。逃げるのも一苦労だってウワサだぜ?」
「それでもオレならなんとかなるだろ」
(きゅっ………。)
オレが軽く流してやると、幼い少女がオレの服の裾を掴んだ。
妖精のような雰囲気と白い髪が特徴的な、少年の妹らしい少女だ。
「ほらー、マリンだって心配してる」
(………。)
マリンと呼ばれた白髪の少女の瞳は、ほんのわずかにうるんでいた。
サメをあげたぐらいしかしていないのに、妙に懐かれている。
「まぁでも行くって言うんなら、できる限りのアイテムを用意しないとな!
前金もらっちまったし!」
少年は、受け取った金貨をじゃらっと鳴らした。
それが大金だったおかげか、存外に機嫌がいい。
「ハリツキ
少年は真剣な顔で、いろんなアイテムを買い始めた。
屋台の品物を値切っては買い、古ぼけた籠に入れている。
なにがどんな役割を持つのかは知らないが、遠足の準備をしているみたいでワクワクとはする。
「ケーマ! ケーマ! ケーマ!」
不意に駄女神が、オレの手を握った。
こちらからさわるのはよいのだが、不意にさわられると照れる。
オレは手を振り払って叫んだ。
「なっ、なんだよ! いきなり!」
「えっ、ええっと……、あれ」
駄女神もオレの照れが移ったかのように頬を染め、屋台を指差す。
「砂漠モチモグラ……?」
「よくわからないお肉だけどおいしそうでしょ?!
よくわからないお肉だけど!!」
確かにおいしそうだ。
ふっくらとしたモチのような体が、ほどよく焼けたモチのように焼けて、パチパチと音を鳴らしている。
「確かに、あれは……」
「おいしそう……ですね」
(きゅうぅ………。)
ロロナとフェミルがうなずくと、マリンのおなかも小さく鳴った。
ほっぺたをほんのりと赤くして、小さなおなかを押さえてる。
オレは屋台に近づいた。
一本買って味を見る。
かぷりと噛んだ瞬間、もちりとした触感が歯に伝わった。
肉汁があふれ、香ばしい香りが鼻孔を抜ける。
さらに噛んでも、肉汁はとまらない。
もちり、ぷしゅっ、もちり、ぷしゅっ。
しょう油がほしくなるところだが、単体でもうまい。
てれれ、てってってー。
レベルもあがった。
レベル 1716→1721(↑5)
HP 22692/22692(↑40)
MP 22200/22200(↑43)
筋力 23055(↑45)
耐久 24890(↑30)
敏捷 22866(↑50)
魔力 21700(↑46)
習得スキル
砂魔法LV1 2/50
新しい魔法だ。
しかし砂魔法……砂魔法か。
「ケーマ……?」
「ああ、悪い。新しい魔法を習得したんだが、使い勝手が微妙そうでな」
「どんな魔法?」
「砂魔法だ」
「ダメなの?」
「ダメっていうか……そうだな」
オレはローラやフェミルらを、すこし離れたところに立たせた。
「ウインド!」
「「「きゃああああああああああああああああ!!!」」」
風でスカートをめくられたローラとフェミルとロロナが、必死になってスカートを押さえた。
「なに考えてるのよっ! ケーマのばかっ!」
「ケーマ様になら構いませんが、ほかのかたにも見られるのは……」
「見たいのであれば、普通に言ってくれれば……」
三人はスカートを押さえたまま、違う理由で苦情を言った。
オレはそんな三人に、水魔法をぶっかける。
「ウォーター!」
「「「きゃあああああああああああああ!!!」」」
三人はぐしょ濡れになった。
色っぽくってすばらしい。
「とまぁこんな感じで、風や水は練習する意味というかモチベーションもあるんだが、砂となるとな……」
「実演する意味はあったの?!?!?!」
「まったくない――が、オレがしたかったからな」
「ケーマのばかあぁ!! どうするのよ!
もうアタシ……ぐしょぐしょじゃない!!」
「これで許せ」
オレはローラを抱きしめた。
「きゃっ?!」
「火炎放射の応用で熱をだして、服を乾かす的なアレだ」
「ちょっちょっちょっ、ケーマのばかっ!
ケーマのばかあぁ! こんなのでアタシが誤魔化されるとでも……ふええぇ…………」
ごちゃごちゃ言ってたローラだが、オレは構わず抱きしめ続けた。
体がやわらかいのとおっぱいが気持ちいいのと、嫌じゃないけど恥ずかしいからやめてほしい感がでているのがたまらない。
「ケーマさま! わたしはわたしは誤魔化されます!」
「わわわわ、わたしもだ! ぜぜぜぜ、全力で誤魔化されるぞ!」
ふたりがそんな風に言ってきた。オレはローラを自由にしてやる。
「場所……考えなさいよ……ばか……」
ローラの声は聞こえていない振りをして、フェミルとロロナを抱きしめる。
「はうぅ……熱いですうぅ……!」
「クウゥン……。ケーマどのおぉ……!」
「ふたりとも……おかしいわよ。
ケーマなんて、ドエスだし、いじわるだし、アタシ以外にもやさしくするのに……」
ローラ以外にもやさしいのは、ローラ以外にとってはメリットなのではないだろうか、とオレは思った。
まぁいいや。
「とりあえず食えよ」
オレはほとんどモチみたいな形をしている、モチモグラの肉をローラの口元にやった。
「それでアタシが怒ったら、なでなでとか食べ物でごまかそうとする!
アタシのことを、どれだけやっすい女神だと――」
「いいから食えよ」
「ふえっ、んっ…………おいしいぃ!!
もちっとした触感に、ジュワッとでる肉汁!
それがねぇ、噛んでも噛んでもエンドレス! モチモチもジュワジュワもおいしさも幸せも止まらないぃ~~~~~!
国士無双の無限ループに幽閉されて、心も体もズタズタになっちゃいそうぅ~~~~~~~~~~!!!」
「オマエはどうして、最後の最後で落とすんだっ?!」
「ふえぇ~~~んっ、おいしいおいしいおいしいぃ~~~~~~~~~~!!!」
オレは苛烈に突っ込むが、ローラは串焼きを持つオレの手を握ったままで、おいしいおいしい連呼していた。
まばゆいばかりの満面の笑みは、どんな怒りも串焼き一本で吹き飛ばしてしまう、やっすい女神そのものだった。
ロロナももぐもぐ頬を染め、モチモグラを食べている。
「しかしこのような美味があるなら、リシア殿もくればよかったな……」
「仕方ないよ。リーゼルといっしょみたいだし」
「むぅ……」
いっしょにさらわれたせいだろう。ロロナとリシアのあいだには、ある種の友情が芽生えているようだった。
「焼き立てでなければこの味はでぬと思うし……時間があいたら誘ってみるか」
なんてつぶやいてもいる。
そして――。
「はうぅ……」
(………。)
「っ……」
フェミルとマリンと少年が食べてなかった。
「どうしたんだ?」
「いえ……」
(ジ………。)
「…………」
三人は、串焼きの屋台の値札を見ていた。
串焼きの値段は、一本で五〇〇バルシーもしていた。
味を考えれば妥当だが、おやつとして食べるにはちと高い。
「はううぅ……!」
貧乏生活が長かったせいで高い食べ物に拒否反応を示してしまうフェミルなどは、ぷるぷると震えてる。
「おごりだから気にすんな」
「はっ……はいっ……!」
(ぱく………。)
「そういうことなら……」
そんなふうにうながされ、ようやく食べた。
「おいしいですうぅ……!」
(………もぐもぐ。)
「うめェ……!」
三人並んで、幸せそうにしていた。
おごった甲斐があるというものだ。
しかし謙虚な三人である。
「ふえぇん、ケーマぁ。おかわりちょうだい! おかわりちょうだいぃ!!」
「ほらよ」
「えへえぇー♪」
そういう意味では、この駄女神をすこし見習ってもいいのではないか、と思った。
食べものを食べるときのおいしそうな笑顔は、素直に魅力的だと思う。
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