戦い終わって。

 リーゼルをローラに任せたオレは、ロロナとリシアの元に近寄る。

 拘束具の外し方はよくわからなかったので、ベルトを切った。


「大丈夫か?」

「ケーマ殿……!」


 ロロナはむくりと起きあがり、オレをひしっと抱きしめた。

 体は小さく震えてる。

 気丈なような見えていたが、相当に怖かったことがうかがえる。


「助かり……ましたわ……」


 フェミル拘束を解いてもらったリシアは、ぐったりとしてそう言った。

 その眼の下には、クマもできてる。


「ロロナよりもキツそうだな」

「いろいろと、思うところがございましたので……」

「……そうか」


 すると背後で声がした。


「ケーマ! 悪いやつ縛ったわよ!!」


 ローラがリーゼルの体と口を、縄で縛って拘束している。

 オレはロロナをやさしく抱きあげ、ローラのところへと向かった。

 お姫さま抱っこされたロロナは、あたふたと叫ぶ。


「ケケケケ、ケーマ殿っ?!」

「今回いろいろがんばったからな。このぐらいは気にするなよ」

「クウゥン……!」


 ロロナはチャンスと言わんばかりに、オレにくっつく力を強めた。


  ◆


 リーゼルを前にしたオレは、ロロナをおろした。ロロナとリシアのふたりに尋ねた。


「で……どうする?」

「わたしは……、ケーマ殿に従う……♥」


 ロロナは、そんなふうに言った。


「今回の件があってケーマ殿に抱っこをしていただけたと思えば、むしろ感謝だ……♥」

「それはそれでどうかと思うが……」

「クウゥン……♥♥」


 オレは冷静に突っ込むが、ロロナは聞いちゃいなかった。地面へとおろされたのにオレに抱きつき、すりすりべたべた頬ずりしてくる。


「リシアは?」

「わたくしは――」


 リシアは目を伏せリーゼルを見つめると、静かに目を閉じ考えた。

 おもむろに目を開き、ハッキリと言った。


「許します」

「「っ――?!」」


 リーゼルとローラが、驚きに目を見開いた。

 しゃべれないリーゼルに代わってローラが叫ぶ。


「許しちゃうの?!」

「かつて……わたくしは孤児でありました。

 まっとうに稼ぐことを知らず、盗みや暴力といった『罪』によって日々の糧を得ておりました」


「……?」

「その時に出会ったのが、アレン神父さまでした。

 教育もなにも受けていなかったわたくしは――」

「わたくしは……?」


「神父さまを刺しました」


「っ?!」

「しかし神父さまは、自らを刺したわたくしをお許しになってくださいました。

 のみならず、わたくしを拾って育て、日々の糧を得られるようにしてくださったのです」

「それ神様がどうこうじゃなくって、その神父さまがいい人だっただけじゃないの?!」


 女神ローラ様による、神様の効能全否定だった。

 実際そうかもしれんけど、オマエが言っちゃダメだろう。

 ウソでもいいから女神はすごいって言っとけよ。


「と……とにかく、わたくしとしては、そういうことです。

 ケーマ様のお言葉には従いますが、わたくしがどう思うかと問われれば、『許す』とお答えいたします」


「そうか」


 オレは目線で、ローラに縄を解くように伝えた。


「許すのぉー?」

「ロロナとリシアが許すって言っているのに、まだ処罰したいって言うなら考えるが」

「そこまで言われて許さないって言ったら、アタシの心が狭いみたいな感じしないっ?!」

「そんなことを気にしている時点で、相当に狭いと思うが」

「ふええんっ!」

「で、どうすんだ? 今回はオマエも痛い目みたし、意見があるなら意外と聞くぞ?」

「ローラ殿も、痛い目を……?」


「オレにほっぺたをつねられる。オレにアホ毛を引っ張られる。

 オレに頭の悪いおっぱい呼ばわりされる……っていう感じに、いろいろとあったな」

「そうね。今回はアタシも…………って、全部ケーマが原因じゃないっ?!

 リーゼル意外と悪くないわよっ?!?! アタシにとっては!!!」


「そういう見方も、あるいはあるかもしれないな」

「かもじゃなくって、120パーセントそうじゃない?! 確信フルアーマーよ?!」

「オレが悪いと仮定して、オマエはどんな罰をオレに望むんだ?」

「ふえっ、えっ、ええっ……」


 ローラは下唇に指を当て、一生懸命に考えだした。

 ここで即答できないあたり、頭が腐れ駄女神である。

 オレはリーゼルにヒールをかけた。縄も解く。


「ずいぶんと余裕だな……」

「ボコボコに殴りまくってスッキリしたしな。つーか……」


 オレはにこっと笑って言った。


「もう片方も潰すぞ?」

「ひっ……」


 リーゼルは、自分自身の股間を押さえた。

 先の金的攻撃で、リーゼルの玉は片方が潰れてる。

 ヒールはかけたが、そこについては治していない。

 もう今後、オレに抵抗することはないと思われる。

 もう一回したら、もう片方も潰した上でぶち殺すしな。


「それでもあえてなにか言うなら――――うまいモン食わせろ」

「なに……?」

「このへん支配していたんなら、なんかいろいろ知ってるだろ?

 このあたりで採れる、一番うまいモン食わせろ。または教えろ」


「情報という意味なら、西方の巨大オアシスにいる、ツノフグがおいしい――とは聞いている。そこそこ強いモンスターだが、キミなら問題はないだろう」

「それはいいな」

「だけどオアシスの周辺には、ガルガロスがいる」

「なんだそりゃ」


「恐竜だ。ナワバリに入ってきた相手は容赦なく殺して食らい尽くす性質を持っている」

「なるほどな」

「あとツノフグは、体に毒を持っている。食べるのは、毒のない部位だけにしておけ」

「ツッ……、ツノフグの毒の位置なら、わたしは一応知ってはいます……」


 フェミルが小さく手をあげた。


「もしも毒のところを食べちゃっても、オレなら死なないだろうしな。

 致死性の毒ガスでレベルアップするぐらいだし」


「「…………」」


 塔でのことを思いだしたのだろう。フェミルとローラは並んで引いてた。

 確かにアレは、人間としてどうなのかもと思った。

 だけどおかげで、フグも安心して食べることができる。

 人間をやめるぐらい平気だ!!!


「しかしおすすめはしない。ガルガロスは、ボクでも苦戦するほどの強敵だった。

 キミなら簡単に勝てる可能性はあるが、絶対だとは言い切れない」


「危ないと思ったら、その時は逃げるさ」


 オレは軽やかに言い切った。

 しかしこの時のオレは、思ってもみなかった。

 この軽い決断が、あのような悲劇に繋がろうとは――。

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