チートなケーマvsチートなリーゼル



 ゼフィロスをしりぞけたオレたちは、さらに階段を登った。

 屋上にでる。

 リーゼルがいた。月の光りを浴びて、悠然と佇んでいる。

 怒りがふつふつと湧いてくるが、抑えて尋ねた。


「リシアとロロナは、どこにやった……?」

「その前に、ひとつ尋ねるんだが――こちら側につく気はないかな?」

「なに……?」


「ゼフィロス様の作ったジェレイムを倒し、ゼフィロス様もしりぞけた。

 その実力は、ボクに次ぐものと言えるだろう」

「自分が上ってのは前提かい」

「残念ながらね」


 リーゼルは、やれやれと両手を広げて首を振った。


「もちろんタダで――とは言わない」


 リーゼルは、くるりと後ろを振り返る。なにかを隠す白いシーツをはいだ。

 そこにいたのは――リシアとロロナ。


『んんっー……!』


 妊婦のように足を開かされると同時に、口輪のようなものもハメさせられていた。

 血液が沸騰しそうになるが、抑えて尋ねる。


「どういうつもりだ……?」

「楽しもう――っていうことさ。

 今回キミに渡すのは、元々キミを慕ってもいた子たちだ。

 でもボクのところにくれば、性処理玩具には困らない」


 身勝手な言葉を続けたリーゼルは、意味深な笑みを浮かべて口元に手を当てた。


「ボク個人としても、キミにはなかなか興味があるしねぇ……」


 それは這うような視線。

 ローラやロロナにいつもセクハラしているオレにはわかる。


(オレの貞操も狙われている……?!)


 鳥肌が立った。

 いくらなんでも、男に狙われるとは思わなかった。


「まぁボクとするのがイヤだって言うんなら、無理強いはしないさ。

 その代わり、ボクの神殿にくる女の子を好きにできる権利をあげよう。

 嫌いじゃないんだろう? そういうことは」


 それはまぁ、その通りではある。

 やらしいことは大好きだ。

 が――。


「女を大切にしないやつってのは、あんまり好きになれないな」


「?!?!?!?!?!?!?!?!」


 オレがピシリと言ってやると、ローラが凄まじい顔をした。


「どうした? ローラ」


「まさかの発言に驚いてるのよ!!

 アタシの中での、ケーマが言っちゃいけないランキング歴代ぶっちぎりのワーストワンよ!!!

 しばらく更新されることのないと思っていた頭の悪いおっぱい発言が、今の一瞬で過去のものに変わったもん!!

 殿堂入り候補だったのに!!」


「そこまでか」

「そこまでよっ!!

 っていうかそんなポリシーがあったなら、アタシにもっとやさしくして!

 アタシのことを甘やかして!」


「そんなことするぐらいなら、女装をした上で火の中や水の中に飛び込んだほうがマシかなぁ……」

「そんなにいぃ?!?!」

「一割は冗談だ」

「九割も本気なの?!?!?!」

「そこは十割じゃない点を褒めてほしい」

「ふえぇん!」


 といったやり取りをしたオレは、ローラの耳をふさいだ。

 風魔法も使用して完全に音が聞こえないようにしてから、リーゼルに言う。


「そういうわけだ。

 なんだかんだ言いながら、オレはコイツを気に入っている。

 来る者は拒まないが、わざわざ確保しにいくほど困ってもいない。

 コイツさえいればな」


「どうしてわざわざ、声が聞こえないようにして言うんだい……?」

「それを言ったら、腐れ駄女神は調子に乗るからな」

「なるほど……それは残念だ」


「フン……」

「しかし戦闘が避けられないなら、ボクの能力を紹介しよう」

「……能力?」

「ボクたち神の使徒は、使徒になった時点でなんらかのスキルを獲得するだろう?」


 オレが持ってる、食べるだけでレベルアップのリーゼルバージョンか。


「ボクたち人間が強さを可視化するには、細かい実験が必要だ。

 どのくらいの岩を持てるか、百メートルを何秒で走れるか、ファイアーボールを何発撃てるか……みたいなね」


「……そうだな」

「ところが神と言われる方々には、そういうレベルや能力を、『ステータス』という形で見ることのできる存在もいる」

「……」


「ここで重要になるのはレベルだ。

 これは百か二百もあれば達人と呼ばれる。

 ボクを含めた神の使徒でも、三百以上は見たことがない」

「なにが言いたいんだ……?」


「ボクはそのレベルを、自由に下げることができる」


「っ……?!」

「そしてこのスキルが強いのは、発動条件が『自分の言葉を聞かせること』――つまり会話をしているだけでいいのさ。ボクの声を聴かせるだけで、相手は弱くなっていく」


 リーゼルは身を翻し、ナルシストな笑みとポーズを浮かべて叫ぶ。


「聞かせるだけでレベルダウン! それがボクの能力だ!!

 ボクのしゃべる一文字につき、オマエのレベルは一さがる!!!」


「なん……だと?」


「今のボクは415文字しゃべった。キミのレベルは415もダウンする」

「と言いつつつも42文字。キミのレベルは、42もダウンした」

「この説明で15文字。最初のと合わせ、470レベルはさがる」


「もちろんこの解説をしているあいだも、キミのレベルはさがり続けだ!」


 その発言にウソはなかった。

 オレのレベルはぐんぐんさがり、体も重くなっていく!


「へにゃあぁ……」

「はうぅ…………」


 ローラとフェミルに至っては、立てないほどになっていた。


「ほらほらほらほら、どうだいどうだい? そろそろそろそろ急激に衰えた筋力が、自分の体すらも支え切れなくなってくるころじゃないかいっ?!」


 などとリーゼルが叫んでいたので――。


 オレは普通に突撃し、全力でぶん殴った。


「ぐぼぎゃあっ!!」

「ふぅ……」

「どうひて……?!」


 鼻血の鼻を押さえて言うリーゼルに、オレは答えた。


「オレのレベルは、この戦いが始まった時点で1700あったからな」

「せっ……?!?!?!?!」

「300が限界だって言うオマエの基準じゃ、異次元レベルに高いだろうな」

「ひいっ……!」


 絶望に染まったリーゼルに、追い打ち的に言ってやる。


「ついでにオレは、レベルとは違う方向の、独特な流れでステータスを上昇させてもいる。もしもレベル1になったところでオマエが相手ならたぶん勝てるよ」


「そんなあぁーーーーーーーー!! バカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなアァ「ウインドショット!」ぐぎゃああ!!!」


 必死にこちらのレベルをダウンさせにきていたリーゼルではあったものの、風魔法に煽られて吹き飛んだ。


「オラオラオラオラアァ!」


 落下してきたところに、拳の連打を叩き込む。

 オイタしたがる悪い金玉を――。


 蹴りあげるっ!!!


「○×△$■っ!!!!!!」


 声にならない悲鳴をあげたリーゼルに、回し蹴りを入れてやる。

 ごしゃっ、ぐちゃっ、ずちゃあぁ。

 吹き飛んだリーゼルは、何度も地面に叩きつけられた末に床の上をすべっていった。

 吹っ飛ばしたせいだろう。

 さがったレベルも元に戻った。


「ローラ」

「あいつの口を縛ればいいのね!」

「はうっ……?」

「どうした? フェミル」


「今ので、わかっちゃうんですか……? と思いまして……」

「ケーマの声の感じから、もう大丈夫な感じだったし……」

「その上でコイツにできそうな用事って言えば、そのぐらいだしな」

「すごいです……」


 フェミルはなぜか感動していた。

 オレは奇妙に照れ臭く、舌打ちせざるを得なかった。

 ロロナとリシアも解放してやる。


「さすがはケーマ殿であるな……?」

「まさか、これほどに圧倒的であるとは……」


 しかし今回のリーゼルは、なかなかにヤバかったな。

 結果的にはロロナやリシアを人質として使われる隙も与えずに圧勝できたが、レベルはごっそり削られた。

 今は元に戻っているが、一時期はこうなっていた。


 レベル    1716→1131(↓585)

 HP      16898/16898(↓5745)

 MP      16429/16429(↓5728)

 筋力      17745(↓5265)

 耐久      19145(↓5715)

 敏捷      17700(↓5116)

 魔力      16640(↓5014)


 メチャクチャな下がりっぷりである。

 オレじゃなかったらヤバかった。

 ゼフィロスにしてもリーゼルにしても、自信を持ってしまうわけである。


 オレとの相性は最悪だったけどな!

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