ケーマさん、息をするかのように無双

 リーゼルがいるらしい神殿についた。

 質のよさそうなヨロイに身を包んだ衛兵ふたりが、槍で道を塞ぐ。


「「何者だ?」」


 神殿を守る人間は、相応に選んでいるようだ。

 雰囲気に、荒くれという感じがない。


「諸般の事情で常識をなくしたケーマさんだ。リーゼルさんに用がある」

「リーゼル様なら、聖神官たるリシア様と会話中だ」

「伝言とかは預かってないか?」

「そのようなものは……」

「そうか」


 オレは衛兵の後ろに回った。

 トンと首を打ってやる。

 衛兵は、その一瞬で意識を飛ばした。


「なっ――?!」


 残った衛兵が驚愕し、鋭く槍を突きだした。

 それはオレの胸板を貫く。

 が――。


「残像ね」


 オレはまたも背後に回ると、衛兵の首に腕を回した。

 チョークスリーパーの姿勢から、耳元でささやく。


「このまま首がコキャッてなるのと、リーゼルのところまでオレを連れて行くの。

 どっちが好みだ?」

「ひいいぃ!」


 オレは衛兵を前にして、神殿の中に入った。


(妙な動きを見せやがったら、その瞬間にバッサリだからな?)

(いぃ……)


 衛兵さんは、ほとんど泣きそうになっていた。


「ケーマって、定期的に容赦ないわよね……」

「オレはバランスのよさを主張する一方、やると決めたら躊躇しないケーマさんだからな」

「そうですね……」


 初めて会った時のことを思い返しているのだろう。フェミルは、目を伏せてつぶやいた。

 そんな調子で廊下を歩いていると、見回りの衛兵が歩いてきた。


「そちらのかたは……?」

「お……お客人だ。リーゼル様に、お用があられるという」

「お客人か」

「そっ、そうだ。大切な、お客人だ」

「了解した」


 衛兵は去っていく。

 しかし若干たどたどしい。

 バレそうで不安だ。

 いずれにしても、進むしかないわけだけど。


   ◆


 そんなこんなで歩いていると、ドアの前に行き着いた。


「こ……ここだ」

「そうか」

「ど……どうした?」

「どうしたっていうか……」


 口で答えるのがバカらしくなったオレは、ドアに蹴りをぶち込んだ。

 派手にぶち破られたドアの奥には、無数の衛兵。

 全員が、驚愕に目を見開いている。


「やれやれ」


 オレは部屋の中に入った。

 中で待ち構えていたやつらを、軽くぶちのめしてから戻る。


「ひいぃ!」と怯える衛兵に尋ねる。

「どうやって伝えた?」

「つ……連れている相手をご客人と言った時には客人。

 お客人と言った時には、しししし、侵入者を意味するのだ……」


「なるほど。お客人だと侵入者か」

「はひぃ、はひいぃ……!」


 オレは素直に感心したが、目の前の衛兵は、見るも哀れな様子になってきていた。

 目からは涙。鼻からは鼻水を垂れ流している。


「楽にしてやることにしよう」

「はひっ?!」


 オレは衛兵の首を打ち、意識を軽く飛ばしてやった。


「えっ、ええっと、どうするの? ケーマ」

「ロロナの場所なら、魔力を辿ればなんとかなると思う」

「最初からそうすればよかったんじゃ……?」

「それでも別によかったんだが、ちょっと面倒な気もしたからな」

「ここ……強そうなかたがいっぱいいらっしゃるんですが……」


 オレは淡々と答えたが、ロロナはぷるぷると震えた。

 頭のウサミミはくにゃっと曲がり、お尻の尻尾は足のあいだにくるんと入る。

 ウサギ系の獣人と犬系の獣人のハーフらしい反応だ。

 かわいい。


『いたぞぉ! 侵入者だ!』

『待ち伏せ部隊はやられた! プランBに移行する!』

『撃てっ! 撃てえぇ!』


 追加の衛兵がやってきた。

 魔法部隊らしきやつらが、光の球を放射してくれる。


「はううっ?!」


 フェミルはその魔力に怯んでいたが、オレは右手をツイと伸ばした。

 レベル一の風魔法で軌道を逸らす。

 光の球は、明後日の方向で爆発した。


『なっ……』

『バカなっ?!』


 左手のほうでも魔法を使い、ロロナの魔力をサーチする。


「この部屋にいたことは、間違いないのか……」


『あのような対魔障壁を使えるとは、相手は高レベルウィザードだと思われる!』

『ウィザードの弱点は、詠唱時間だ!』

『ボウガンを用意しろ!』


 オレはロロナの魔力を辿り、廊下を進んだ。

 たくさんの矢が飛んできたが、七割ぐらいは当たりそうにない軌道だったので無視をする。

 いくつか当たりそうなやつは、火炎放射で焼いといた。


『無詠唱だとっ?!』

『これは想像以上のウィザードだ!』

『しかしウィザードであるならば、接近戦には弱いはず!』

『決死隊を組め! 先陣を組んだ者が倒れ伏しても、後陣が刃を届かせるのだ!』


「しかしこれ、ヘタしたら外に行ってるなぁ」


 オレは率直につぶやくと、ゆっくりと歩きだす。

 本当は急ぎたいところだが、探知魔法は得意ではない。

 ゆっくりにならざるを得ないのだ。


『喰らえっ! 侵入者!』

『グハアアッ!』

『ギャアアッ!』


 剣とか槍を持ってきた飛びかかってきたが、剣の鞘でビシバシと弾いた。

 図体がデカい分、ハエや蚊よりは払いやすくて気が楽だ。


「あ、あの……、ケーマさま……」

「なんだ? フェミル」

「わたしたちの現状は、いわゆるピンチであると思うのですが……」

「客観的にはそうかもな」


 話していると、長い廊下に行き当たる。


(いかにも待ち伏せ向きだなぁ)


 そう思っていると、案の定に待ち伏せされてた。


『侵入者め! ここにはもはや逃げ場はないぞ!!』


 衛兵が用意したのは、三門の大砲。


「室内で大砲とかマジかよ」

「ふええっ?! いくらアタシのケーマでも、アレはちょっと……」


 轟音が鳴り響く。

 廊下の壁や天井がゆれて、三発の砲弾が飛んでくる。


 右によけても左によけても確実に食らう。

 かと言って、飛んで回避するには高さが足りない。


「ふえぇんっ! ケーマぁ! ケーマケーマケーマあぁ!!!」


 ローラがオレにくっつき叫ぶ。

 どんなにヤバいと思っても、あくまでオレの隣にいたがるらしい。

 まぁ、その判断は正しい。

 オレは目の前の砲弾を、素手でぺしっと弾いてやった


「さささ、さすがはケーマね! アアア、アタシのケーマね!

 信じてなかったけどくっついててよかったわ!」

「信じてはいなかったのかよ」

「だだだだ、だってだって、太くて固くて大きかったんだもん!!」

「やれやれ」

「すごいです……♥」


 ローラが引きつりながらもオレを称え、フェミルがうっとりと頬を染めた。


『たったっ、退却! 退却うぅーーーーーー!!!』


 対する敵は、背中を向けて逃げだした。

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