ケーマさん、暴力以外もやってみる
敵をけちらしながら進むことしばらく。
オレはロロナの魔力が神殿の、裏口らしきところに続いているのを確認した。
ヒゲと眉毛と顔の濃い見張り三人をぶっ飛ばし、鍵のかかっていたドアを蹴破る。
海砂が広がっていた。
月の光りに照らされさざ波の音色を立てる海砂は、こんな時でもなければのんびりと眺めていたいほどに美しい。
本来であればボートを止めるらしきスペースもあった。
だがしかし、リーゼルが乗って行ってしまったのだろう。
ボートそのものは見当たらない。
遠目に白い塔があるので、リーゼルがいるならあそこであると思うのだが……。
ヒゲと眉毛と顔の濃い見張り三人が、鼻血を垂らしながら叫ぶ。
『フッ……フハハハハハ! 残念だったなぁ!』
『デザートボートは、リーゼル様がお使いだ!』
『リーゼル様がいらっしゃるところへ辿りつくには、空を飛ぶか海を渡るかの奇跡が必須!』
「ちなみにオマエらは、リーゼルが何をしているかは知ってるか?」
『知らぬ!』
『だがしかし、リーゼル様は清廉なる聖騎士!』
『雑兵たる我らでは、想像もつかぬほど偉大なることをされているに決まっておる!』
「なるほどねぇ」
『貴様こそ、いかなる理由があって清廉と名高いリーゼル様と、五大聖神官たるリシア様の邂逅を邪魔立てするのだ!』
ローラが叫んだ。
「知らないわ!」
うぉいっ?!
オレが突っ込む隙もなく、ビシバシセリフを続けてく。
「なにかされたってわけじゃないの! でもたぶん、悪いことしてるのよ!」
「このドアホウ!!」
「あいたぁ!」
駄女神は、頭を押さえて涙目で叫ぶ。
「なにするのよ! ケーマのばか!」
「バカはオマエだ! その物言いだと、ただの犯罪者じゃねーか!」
「だけどホントのことじゃない!」
「モノには言い方ってのがあるだろうが!!」
「具体的にどう言えって言うのよ!!」
「こうだよ」
オレは手本を見せてやる。
「オレたちは、リシア様より依頼を受けた冒険者の者だ」
『リシア様より依頼を……?』
「そうだ」
町までの護衛という依頼だが、そこはあえて伏せて言う。
「清廉と名高いリーゼルであるが、裏では不穏な動きを見せているという話もある」
『リーゼル様が、そのようなことをなさるはずは……』
「こちらもそうは思うのだが、怪しいという話があったのも事実なのだ」
これはロロナからである。
文脈から、リシアがリーゼルを怪しいと言ったとカンチガイするかもしれない。
でもオレは、ウソはまったく言ってない。
言ってないのだ!
「リシア様はリーゼル様とご会話をなされる時も、護衛のかたをごひとりしか連れていかなかったのです!」
オレが巧妙に隠ぺいされた事実を述べると、フェミルがうまく合わせてくれた。
賢い子である。
しかしローラは、(え?! え?! え?!)と困惑していた。
奇跡的なアホである。
これで女神を名乗っているのだから、世も末である。
「そしてこちらは、日が沈むまでに戻ると伝えられている」
ロロナからね!
「しかし日が沈んでからしばし経っても、戻ってくることはなかった」
『『『…………』』』
三人の見張りは息を飲む。
オレとフェミルの言葉に対し、半信半疑といった様子だ。
『リ……リシア様の、お声を受けているという証拠は……?』
「直接的な証拠はだせない――が」
オレはタトンと地を蹴った。
月の光に照らされた、真っ白な海砂の上に立つ。
「この『奇跡』を見て、女神ベルクラント様と無関係であると思えますか?」
『おおおっ……!』
『それは聖騎士・リーゼル様と同じ……!』
『ということは、本当に……?』
「リシア様に依頼を受けていたというのは、事実です」
護衛のな!!!
『『『……』』』
男たち三人は、いまだ半信半疑のようであった。
オレは適度に話を打ち切る。
フェミルを抱きあげローラを背負い、ロロナの魔力の後を追った。
背中のローラがぽつりとつぶやく。
「それにしても……ずいぶんとデタラメを並べたわね」
「ウソは言ってないだろ? リシアから、『護衛の』依頼を受けてこの街にきたのは事実だし」
「あの聖騎士が、裏で怪しい動きをしてるかも……って話は?」
「ロロナが言ってたじゃん」
「あの言い方だと、リシアが言ったように聞こえない?!」
「ウソは言ってない」
「詐欺師の国士無双ね……」
「知恵が回ると言ってくれ」
「っていうかあんなに言えるなら、どうして殴りこみから始めたの?」
「神殿の中にリーゼルリシアが残っていたら、『本人に確認を取ってくる』とか言われるだろ? そしたらウ……巧妙に隠した事実が明るみにでてしまう」
「今ウソって言わなかった?! やっぱり詐欺師なんじゃないの?!?!?!」
「HAHAHA」
オレはかつてハンバーガーを食べた時に獲得したスキル――『HAHAHA』を使ってごまかした。
陽気なアメリカ人のような笑い声をだせるスキルだ。
オレが持っているスキルの中でも、『まろやか』に続く意味のわからないスキルだ。
てれれ、てってってー。
HAHAHA@LV1→LV2 0/150
そして無意味にレベルがあがった。
今度からはレベル2のような感じで、HAHAHAと笑えるようになるぞ!!
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