人の話を聞いてみる(•ㅂ•)

 ロロナが立ち去った直後。

 夕刻までには時間があるので、オレは聞き込み調査を始めた。

 上流家庭には門前払いを食らったので、中流ぐらいの家を回る。


「リーゼル様ですか? よいおかたですよ。

 最近増えてきたサメはやっつけてくださいますし、乱暴なセイント様たちも抑えてくださっています」

「リーゼル様ですか……。

 よいおかたです。最近増えてきたサメをやっつけてくださいますから」

「最近増えてきたサメをやっつけてくださるのでありがたいです。

 娘が病気の時には助けていただいたりもしました。

 セイント様のやり過ぎも、抑えてくださいます」


 どこの家を尋ねても、そのような評価であった。


「評判はいいみたいね」

「そうだな」


 ローラに軽くうなずきながら、気になった情報についても尋ねる。


「最近サメが増えてきたって話を聞いたんですが、具体的にはどのくらい前からですか?」

「細かくは覚えてませんけど……半年ぐらい前からですかね」

「リーゼルさんがやってきたのは?」

「一年ぐらい前だったかと思います」

「なるほど……」


 リーゼルが組織したセイントなる横暴な集団と

 リーゼルがやってきた半年後ぐらいから増えてきたサメが、リーゼルの評判を押しあげている。

 若干キナ臭いものを感じる。


 オレはあまり恵まれていない、貧民街に歩みを進める。

 壁には、ヒビが入った粘土をこねて作ったかのような粗末な家が並ぶ空間だ。

 一歩足を踏み入れるだけで、生ごみと汗臭さを入り混ぜたかのような悪臭が漂う。


 入り口の近くにいた子どもが、路地裏の中へと駆け去った。

 イヤな予感を感じつつ進む。


「キレイどころを連れてるねえぇ、にいちゃん」

「見たところヨソモノのようだが……こんなところに何の用だい?」

「クスリあるよぅ、クスリ。パラダイスサボテンのエキスから取ったやつだよぅ」


 危なそうな連中が声をかけてくる。

 フェミルとローラが、オレの腕にくっついた。


「はうぅ……」

「だだだだ、大丈夫よ! ケケケケ、ケーマはケーマは三度のごはんよりもドエスなことを好き好きしてる国士無双の3DSだけど、こういう時は頼りになるから!!」


 ひどすぎる上に嫌すぎる3DSであった。

 そして話とはまったく関係ないのだが、五メートルほど手前の地面の色が、ほんの

わずかに変わっている。


「ウインド!」


 オレが試しに魔法を放つと、地面がぼこっとへこみやがった。


「落とし穴か……」


 さすがの治安の悪さであった。

 家々の陰から、戸惑いの気配がした。

 オレでなければ聞き逃すほどの、小さな声も耳に響いた。


(どど、どうする?!)

(穴にハマりはしなかったが、穴には気を取られているはずだ!)

(ということは……)

(やるぞ!!)


 棍棒を持った子どもたちが、家々から飛びだしてきた。


「子どもか……」


 大人だったら容赦しないところだが、子ども相手だとやりにくい。

 オレはローラとフェミルを抱いて、軽くヒザを曲げた。

 二階建てのボロ屋の天井に降りる。

 指の先に風を集めて、一息に放つ。


「押し潰せ――エアクラッシュ!」


 ズドンッ!

 襲いかかってきた子どもたちは、一斉に這いつくばった。


「やれやれだな」


 オレは再び飛び跳ねた。

 着地の衝撃を風魔法でやわらげる。


「ケケケケ、ケーマ! アタシわ?! アタシわぁ?!」


 ローラが屋上のヘリに手をかけて、一生懸命叫んでた。


「オマエによると、オレは三度のメシよりドエスが好きな3DSらしいからなぁ」

「ふえぇんっ!」


 ドエスのノルマを達成したオレは、屋上に戻った。ローラを抱えて地面におりる。

 リーダー格の子どものところに近寄る。

 白い髪にオオカミっぽい耳を持った、獣人の少年だ。


「質問があるんだが……」

「ヘッ!」


 少年は、いきなりツバを吐いてきた。

 まぁしかし、オレに効くはずがない。

 風魔法を使用して、宙で反転させてやる。

 くるりと回った少年のツバは、少年自身にびちゃっとかかった。


「うにゃああっ!」


 叫ぶそいつの背中を踏んだ。


「反抗心を持つのは自由だが、相手は選ばないと痛い目を見るだけだぞ」

「くにゃああっ! 足をにょけろっ! にょけろおぉ!」


 舌っ足らずなそいつは、じたばたと暴れた。


『にーちゃん!』

『にぃちゃあぁんっ!』


 周囲にいた、獣人の少年たちが叫んだ。

 オレは食べ物しか入らないが、食べものであれば一〇〇キロ入る魔法袋を取りだした。

 パンを三つ取りだし放る。


『うにゃあっ!』

『うにゃああっ!!』


 十人近くいた少年たちは、三つのグループに分かれて去って行った。


『オマエらあぁ!!!』


 踏まれている少年は、踏まれたままで叫んでた。

 そしてまた、ひとつの気配を横から感じた。


(ぶるぶるぶる……)


 ひとりの少女。

 壊れた塀の陰に隠れて、顔だけだしてこちらを見ている。

 踏まれている少年と同じ真っ白な髪に、薄汚れたワンピースのような服を着ていた。


 オレと少年を交互に見つめ、小刻みに震えている。

 オレに対する敵意はない。むしろ戸惑いがある。

 オレは少年を踏んでいた足を離した。


「逃げとけ! マリン!」


 素早く駆けた少年は、少女の手を引き逃げようとした。

 しかし少女は、少年の耳に手を当てて耳打ちをした。


(サメのひと………。)

「えっ?」

(サメ………、くれた人………。)

「あいつが……?」

(こくっ。)


 少女は小さくうなずいた。


(わるいひと………ちがう。)

「……」


 それでも疑っているらしい。少年は、少女を抱きしめてオレをにらんだ。


「まぁその警戒は、一ミクロンも間違っちゃいないな」


 オレはどさっとあぐらをかいた。


「ただオレは、リーゼルについてあれこれと聞きたいだけだよ」

「リーゼルは…………きらいだ」

「理由は?」

「サメを狩るのは、ここのみんなの仕事だったんだ」

「ほぅ」


「取ったサメだって、おれたちで食うのが当たり前だった。

 だけどあいつが、セイントなんて組織を作ってみんなを引き抜いてからは……」

「リーゼルが、自分を誇示するための道具になっちゃったわけか」

「……」

「でもセイントのやつらって、ならず者とかそーいうので構成されてるんじゃなかったの?」

「半分ぐらいはその通りだよ。けどもう半分は、ここにいたみんなだ」

「なるほど」


 これは裏がありそうというか……。


「マッチポンプの臭いがするな」

「なにいきなり下ネタ言ってるのよっ! ケーマのえっち!」

「今のが下ネタに聞こえるとか、オマエの頭はジーザスすぎじゃねっっ?!」

「だ……だってそうでしょ。マッチョポンプって、マッチョが裸でポンプし合う的な……」


 オレは言ってやった。


「くたばれ」

「ふええっ?!」

「たっ……たくましいケーマさまが、はしたないお姿で……?!」


 フェミルが鼻血を垂らしていたが、見なかったことにした。

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