砂漠にサメのいる世界

「おらおらぁ、こっちだこっちだあぁ!」

「背中に背びれ持ってるんじゃねぇぞ、サメ公がぁ!」


 街の外れ。

 荒くれなる聖闘士たちが、砂ザメと戦っていた。


「どこの誰の許可をもらって、砂漠でサメしてやがるんだあぁ?!」


 勇ましい姿のはずだが、すごくチンピラっぽい。


「噛み応えたっぷりの、120キロの筋肉だぜぇ?!」


 腰にロープを巻きつけた男が、雪のように白い海砂の中に飛び込んだ。

 さらあっと軽やかな音が鳴り、男の体が腰まで沈む。


 さぷんっ。

 サメが体を、砂へと沈める。

 一秒、二秒、三秒と経過して――。


「引きあげろぉ!」

「「「オラアァ!!」」」


 男たちがロープを使って引きあげると同時、巨大なサメが砂から飛びだすっ!

 サメの牙が、埋まっていた男の爪先に触れるっ!!

 男、かろうじて回避ッ!!

 サメは足場を大きくまたぎ、砂の中に入り込む。


「よく持ちこたえたな」

「「「大将!!」」」

「あとはボクに任せたまえ」


 リーゼルは、タトンと小さく地を蹴った。

 海砂の上に乗る。

 ロロナが驚愕の声を張りあげた。


「海砂の上を歩くだとっ?!」

「ベルクラント様の加護を受けた聖騎士ならば、できて当たり前のことだと思うが?」

「そういうものなのだろうか……」

「聖騎士となれば、一般的な基準から言って『奇跡』としか言いようのない現象は起こすことができます」


 驚くロロナに、リシアは平然と言った。


『おぉ……』

『神々しや、リーゼルさま……』


 石畳がしかれた足場のほうで様子を見ていた者たちが、手を合わせて祈る。

 だけど実際かっこいい。

 あれができれば、海の上を歩くとかもできそう。


 オレもやりたい。

 やってみよう。

 タンと地を蹴り小さく跳ねる。


「風魔法――ウインド!」


 足の裏から空気の円盤をだすようなイメージで、海の上に降り立った。

 できた!


「でもけっこう難しいな」

「けっこう……だと?」

「ああ、うん。けっこう」

「ボクがそれを習得するまでに、どれほどの時間をかけたと……」

「さすがはケーマどの……」

「すごいです……」

(あいつも、大将と同じ力を……?!)


 ロロナとフェミルが頬を染め、サメと戦っていた男たちも驚愕する。

 別に目立つつもりでなかったのにそう言われると、ちょっとばかり決まりが悪い。

 オレはリーゼルに言った。


「サメには対応しなくて大丈夫か?」


「ボッ、ボクは、視界に入った相手をターゲティンクできるスキルも持っている。半径三キロからでない限り、ボクの技から逃れることはできない。サメが今、砂の中でボクたちの隙をうかがっている動きも手に取るかのようにわかる」


「それはすごいな」

「それがベルクラントさまの加護さ」


 リーゼルは、フッと髪をかきあげた。

 その直後。


 リーゼルの背後から、サメが飛びだし大口をあけるッ!!

 

 けれども、リーゼルは早い。

 その場でくるりと身を翻し、白い光球を発射するっ!


 ドゴォンッ!

 大きな爆発が起きた。


 サメは大きくのけぞりつつも、尻尾を回してカウンター!

 リーゼルは、身を伏せて回避した。

 頭の真上を尻尾が通り、激しい風の圧がくるッ!


 風はオレを押したあと、背後の足場へと向かった。

 幸いにして無人であったそこは、竜巻でも受けたかのように吹き飛んだ。

 サメは砂の中へと潜る。

 リーゼルは詠唱を開始する。


「汝は神の怒りを買った。

 ゆえに我は汝を捕えた。

 汝はもはや、逃れられない。罪を認めて懺悔しろ。

 その罪は、背をそむけるほどに増大していく――」


 リーゼルは、鋭くナイフを投げた。

 一直線に飛んでいく。

 放たれたそれは、進むごとに大きさを増す。

 最後は二メートル近い大剣になって――。


「裁きを受けろ! ディパインセイバー!」


 光をまとい、海砂の中へと入り込む!


「……よしっ」


 剣がざぶりと持ちあがる。

 その先には、串刺しになったサメがいた。

 歓声が沸き起こる。


「ボクが起こすことのできる奇跡は、『海』を渡ることだけじゃない――っていうことだね」


 リーゼルが、髪をかきあげオレを見た。

 なんかよくわからんが、対抗意識を燃やしてるらしい。


 その時だった。

 リーゼルの背後から、巨大ザメが飛びだしてくるッ!

 その大きさは、リーゼルが仕留めたサメの二倍ッ!


 オレはツイッと手を伸ばし、ウインドショットを放ってやった。

 サメの頭が軽く吹き飛ぶ。

 初級レベルの魔法だが、オレが放てばかなりの威力にあがるのだ。

 レベルをあげて魔力で殴る(`・ω・´)


 サメの死体を肩に担いだ。


「けっこう重いな……」


 風魔法で『海』に立っている状態なため、バランスも取りにくい。


「ローラ十人ちょっと分ってところか……?」

「どうしてそこで、アタシを重さの単位に使うのっ?!」

「ああ、すまん。五〇〇キロを超えるぐらいだ」

「数字にするのはやめてえぇ!!」


 体重五〇は否定しない駄女神であった。

 身長がもにょもにょって考えると、数字的には重い。


 ただあの駄女神の場合、胸や尻が大きいからな。

 細かい数字は気にしない。

 サメの死体を、舗装された地面にあげる。


 リーゼルのほうは、部下の聖闘士にサメの死体を吊るさせていた。

 別の部下が、凄さを語ったりもしている。

 あのサメがどうなるかと言うと、腐るまで放置らしい。


 勿体ない。

 オレはしっかりと食うぞ。

 ナイフを取りだし解体だ。


 サメの肉は放っておくとアンモニア臭を放つと言うが、すぐに食べれば安心だ。

 すこし時間が経っても、さっと茹でれば大丈夫らしいし。

 砂に住んでいるなんていうサメに、地球の常識が通用するのかどうかは知らんけど。

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